気になるデザイン[21]適材適所の印刷加工をして欲しいのだ/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,300文字)


私は仕事柄ということもありますが、もともと本を読むのが好きなこともあって、よく書店に行きます。会社が九段下にあり、本の街・神保町まで徒歩で数分ということも重なって、一時期減っていたエンゲル係数に例えるなら、ショトウ(=書店投資)係数がヤバイことになっています。うぅ。

内容が気になるのはもちろんのこと、ブックデザインも気になっていろいろ見ることが多いのですが、ここ5〜6年、いやもう少し長いかしら、書籍カバーに「UVニスの厚盛り」とか「UVデコ」とか「スポットUV」とかさまざまな名前で呼ばれている、透明のインキがちょっと厚く盛られた加工が非常に多用されてきました。

これはスクリーン印刷で、紫外線(UV)を照射することで硬化するインキを、厚盛りして印刷したもので、一般的に良く使われるオフセット印刷だけの印刷物に比べ、ちょっと目につくし、手触り感も変わるし、おもしろい。



見た目がおもしろい、キャッチーだ、目立つ、といった理由で使われ始めたと思うのですが、多用されるようになると、その分、単価も多少は下がったり、出版社もその加工をするルートが確立されたりと、さまざまな要因も加わって、これだけ多く使われたんだなぁ、などと考えたりしています。

平面なオフセット印刷に比べて、ちょっと立体感が出て、質感もツルッとしているので、効果的に使われていると、確かに目を惹く。書店以外でも記憶に残っているのが、もう6年くらい前、DIC(日本最大手のインキ会社)の駅貼りポスターで、紙ものデザイナーなら定番のDICカラーチップが原寸大でオフセット印刷され、その上にこの加工がなされていたものがありました。

カラーチップの部分に艶感が出て、ちょっと立体になっている。まるで実物がくっついているかのように見えて、思わず立ち止まってしまった。普通はあまりポスターを見て立ち止まるということはなかったので、(カラーチップを知っている人にしか効果はないかもしれないけど)「これは巧いなぁ」と思ったものでした。

でも、「どうしてココに使われているんだろう」と首を傾げたくなるような使い方がされている本も数多くあって、なんだかなぁと思うこともしばしば。他の人も使っているから自分もやってみたい、ということなんでしょうか。出版社から、この加工なら使って良いと言われたからなんでしょうか。いずれにしても、その加工が必要なきちんとした理由があって使って欲しいなぁ、と常々思うのです。

私は『デザインのひきだし』という、デザイン・印刷・紙・加工に関する本を定期的に作っているのですが、そこでさまざまな印刷や加工を取材するうちに、上記DICのポスターと同じように「ほぉー!」と、特殊な印刷や加工を巧く使っている印刷物に出会って感動することがあります。

例えば、『デザインのひきだし4』でご紹介した「医学の『型抜き絵本』」。これは前回のコラムで触れた「ブッシュ抜き」という、鋳物の刃型を使って型抜きしたもの。人体のしくみやそれぞれの臓器・器官の病気の進行段階や治療方法を、わかりやすくビジュアルに説明した絵本で、歯や心臓、腎臓、耳、目、脳など、合計28種類も出版されています。

型抜き絵本『歯』(株式会社アプライ)
< http://www.jintai100.com/products/TP027.html >

『デザインのひきだし4』
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4766118693/ >

普通なら、虫歯のことなんて読みたくもないですが(歯医者、こわいんです)、歯の形に型抜きされていると、なんだかそれが気になって書店で手に取り、ついつい読んでしまいました。

発売している会社に聞いたところ、これは主に病院の待合室などに置いて患者さんに読んでもらったり、お医者さんがこれを使って患者さんに病気を説明したりするためのものらしいのですが、型抜きしてキャッチーな形になっていることで、患者さんが手に取ってくれたりと好評だそう。

最後に型抜きをすることで(いや、内容やビジュアルづくりと相まってというのが前提ですが)、これだけ手に取ってみようという動機付けができる、というのは、加工のいい使い方だなぁ、と思いました。

他にもご紹介したい、特殊印刷/加工をうまく使ったものはたくさんあるのですが、それを書くと長くなり過ぎるので、今日はここまで。次回は湖の深度や山の高さなどを、特殊印刷を使ってうまく表現した、かわいいステーショナリーをご紹介しますので、お楽しみに。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp

前号の最後「貯金と預金の違い」、答えは銀行や信用金庫は「預金」、郵便局や農協、漁協は「貯金」と言っている。大元は違いの意味があったようですが、今は同じ意味で使われていますね。

箔押しのことを完全網羅した『デザインのひきだし6』発売中! 「箔押しのA to Z」「板紙の魅力」の2大特集はどちらも必見です。他に最近作った本は『ハニカムペーパー・クラフト』『標準 印刷見本帳1 蛍光色×CMYK×マット/グロスニス編』『デザイン事務所の封筒・名刺・ビジネス文具コレクション』『しかけのあるブックデザイン』など。
< http://www.graphicsha.co.jp/ >



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デザイン事務所の封筒・名刺・ビジネス文具コレクション
グラフィック社編集部
グラフィック社 2008-03

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by G-Tools , 2009/02/24