装飾山イバラ道[7]仕上げのパワー
── 武田瑛夢 ──

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先日、「[東海大学アート&デザイン展]教養学部芸術学科美術学課程/デザイン学課程 卒業研究発表」を見てきた。
< http://www.shc.u-tokai.ac.jp/about/gakka/geijyutsu/design/news/index.shtml
>

キャラクター系の作品から立体まで、様々なかたちで皆自由にまとめていて今の時代を感じた。1、2年の時に私の「コンピュータ基礎」という授業を受けた生徒もかなりいた。

「コンピュータ基礎」は、Macintoshを使ったコンピュータの基本操作と、グラフィックソフトの基礎という実技の授業だ。私の授業でMacを初めて触った生徒も、4年の卒業制作では立派にMacを使ったポスター作品を出していたので感慨深い。


電源の投入の方法からはじめる授業だけれど、教室のMacが新機種になった時は自分でも一瞬たじろぐ。電源ボタン、CDの口、イジェクトボタンはマシンがスタイリッシュになるほど見つけにくくなる不思議。とはいえ、だいたい右側にありそうなもの、前面や背面の作りは想像の範囲なのでなんとかなるものだ。

最近の学生は相当早い時期からPCを触っているらしく、テキスト入力くらいは難なくこなすことも多いので助かる。自己PRのテキストを入力してもらいながら、だいたいの慣れぐあいを見る。普段はWindowsユーザーで、Macが初めてという場合も多いので、違いについて説明した方が早い場合もある。

デザインの学生なのでそこからもうちょっと進んだ、グラフィックソフトの体験が一番わくわくするようだ。Adobe Illustratorを開いて丸や四角を描いたり、オブジェクトを組み合わせてできる簡単なイラストを描いたり。

そして、円ツールと塗りと線の初期設定を使って描けて便利なモチーフが「パンダ」だ。白い頭に黒い目と耳。長細い楕円形の白いボディに楕円形を回転させた黒い手足。しっぽが何色なのかは自由。目玉も自由にアレンジ。ちょっと凝った目のデザインを複製して、もう一方の目にしてもいい。

片方の耳と手足の重ね順を調整して背面に送ると、とたんに立体的な体の向きが見えてくる。単純でゆるいイラストの中に、基本のソースを詰め込む。

出来上がるイラストは子供っぽいものだけれど、重なりや角度、複製の手順がうまくいっていないと、思ったものにならない。単純な絵だからこそ、できないと悔しいのでがんばるというのもあるかもしれない。

少しの格闘の末、そこはさすがデザインの学生たちで皆それぞれ表情やプロポーションの違うパンダが出来上がる。私はマックと格闘する学生たちの後ろを歩きながら、とても楽しい。

「さて、立ち上がりましょう!」
後ろに下がって皆それぞれのパンダの鑑賞会だ。

人に見られるってわかってたらもっと気合入れたのに! というのか、なかなか立ち上がらずにそこからガンガン直す人が続出。「あと5分」の猶予を与えると、相当がんばって仕上げた力作パンダになる。切羽詰まると力が出るのだ。

どうやら先生に見られるよりも、学生同士の目線の方が意識するようで、この力は生かさないともったいない。いつそういう機会が来るかわからない緊張感も良い。この時描いたパンダは図を貼り込む練習に使ったりする。

この頃はまだキー操作に慣れていないので、左手が遊んでいる人が多い。右手はマウスを持っているけれど、左手は人によってまちまちなのだ。頬杖をついたり、膝に置いたり。なかなかコマンドキー周辺にポジショニングする習慣がない。

操作のスピードは慣れてきてから上げればいいけれど、結局は細かな操作に無駄がなく動けることが上達を早めると思う。テニスでコートの中央に戻ることが、どの位置に球が来ても対応ができて自分にとって楽なのと同じだ。

例えばテニスのフットワーク練習のように、マウスと左手のキー操作にもエクササイズ的な練習方法があっても良いのかもしれない。動きは身につけてさえしまえば思考にエネルギーを回せるし、そっちのクリエイティブにこそ脳を使うのが良いと思う。

いつもキー操作練習に使うのは、サイコロ型の立方体を描くこと。3枚の正方形を使って立方体を作ったり、高さだけ伸ばしてビルにしたりだ。最初は左手がつりそうになって、手にばかり意識がいってしまう。

まず画面と手の関係が身に付いて、さらに自分の描きたいイメージがその関係にシンクロする感覚になるまで辛抱すれば、あとは楽しくてしかたがないはずだ。ほんの数年も経てば、そんな苦労があったことすら忘れてしまうけれど。

最近テレビで見たけれど、こういったいくつかの動きを同時にできる能力を「デュアルタスク」といって、腹話術師はこれがものすごく発達しているらしい。Mac操作にもデュアルタスクは必要だ。マルチメディア関係の人も、音と絵を同時に作り出す能力があるので、きっと脳がすごい働きをしているのだと思う。

たぶん脳にはとても難易度の高い働きだけれど、それができるのはやり遂げたい欲求の方が勝ってるからかな。そういう欲求をいかに目標に結びつけられるかが鍵な気がする。パンダの仕上げの時の、切羽詰まったパワーもこの力かもしれない。

授業で最初に描いたパンダのデータは、ぜひCDに焼いて日付を書いてきっちり保存しておいてもらいたいといつも思う。タイムカプセルだ。パンダのようなな絵から、この道具の可能性を広げていった人たちがまた見ることができたら素敵だ。

私もFD、MO、CDのタイムカプセル的データがたくさんある。おばあさんになったら見るのが楽しみ。でも、うっかりすると読み込める機器がなくなり、データを開けることができなくなるかも。機器があるうちに移し替えておいた方がいいな。

【武田瑛夢/たけだえいむ】 eimu@eimu.com
スーパーの開店セールで毛蟹を買う。生から茹でてハサミでさばいて時間がかかるのに、食べるのはあまりに一瞬だった。

装飾アートの総本山WEBサイト“デコラティブマウンテン”
< http://www.eimu.com/
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エムディエヌコーポレーション発行 インプレスコミュニケーションズ発売
< http://www.mdn.co.jp/content/view/3983/
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やさしいデザイン―誰でもかんたん、レイアウト・配色・文字組
武田 瑛夢
エムディエヌコーポレーション 2007-09

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by G-Tools , 2008/02/05