装飾山イバラ道[37]DTPの講評会──締め切りとの戦い
── 武田瑛夢 ──

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大学のDTPのクラスで中間の講評会をした。20名程のクラスなので、データを集める準備もさほど時間はかからない。ただそれは、全員のデータが仕上がっている場合の話だけれど。

生徒にも日ごろコツコツとやるタイプや、一気に集中力を発揮して仕上げるタイプなどいろいろな性格があり、提出日にはその個性が一番はっきりとするのだ。



●作品を仕上げさせる

データを送る作業を、最後の最後までなかなか始めない生徒もいる。作品の最後の仕上げの時って、私自身も往生際が悪くなるので、その気持ちはよーくわかる。しかし、講評会の授業時間の中では1分1分が自分一人の時間ではなく、皆の時間になることをわかってもらいたい。データが揃うのに時間がかかれば、講評会のスタートが遅れてしまう。

教師の立場からは、講評会を開いて進行し無事に終える責任があるので、データを集める時になると、冷たい処理になりがちだ。だから、あらかじめデータを集め始めたら、作品を仕上げるための細かなアドバイスはできなくなると伝える。

「あと20分でデータを集めます」
「もう本当に閉め切りますよ」
などと適度に追いつめながら、なんとか仕上げに持っていってもらう。

途中で「もうこれでデッドエンドです」と言ってしまったけれど、これは完全に「デッドライン(Deadline 締め切り)」の間違いだった。デッドエンドでは「行き止まり」とか死を予感させる意味で、不吉なこと言っちゃったなぁと反省した。

私自身も締め切りは苦手だし、目の前の作品のことで頭の中がいっぱいで、つつかれないと状況が見えないこともある。ギリギリまで粘る根性は良い方へ転ぶこともあるけれど、悪い方だと大失敗を生む可能性もある。ある程度までがんばったら、周囲を見渡して潔く覚悟を決める力は、実践しながらでないと身に付かないのだと思う。

●言う言葉のみつからない作品はない

20名の作品について、講評コメントを一人でするので大変ではある。しかし、個々の作品の良い点、残念な点、改善方法をみつければ良いので、話す言葉に困ることはない。今までいろんな学校で講評をしてきて、言う言葉のみつからない作品はひとつもなかったので、その点は安心している。

講評は作品そのものが発している言葉の解釈と、言葉になっていない音の通訳をする仕事といった感じだ。データを無事に集めさえすれば、私の中では大変な作業のほとんどは終わっている。一つ一つ作品データを開く瞬間はとても楽しい。

傷つきやすい年齢の生徒への言葉は慎重になるけれど、あまり気を使いすぎても何も言えなくなってしまうので、なるべく多くの言葉を使って表現するようにしている。褒める時はストレートに、良くない所を指摘する時はより具体的に理由を示した方が混乱させないと思う。

今回の課題では、InDesignで横位置のポストカード2枚がつながっている判型の案内カードを作った。パタンと折ると表紙と内側の見開き面ができる。テーマは、自分のデザイン事務所や店舗のオープン告知などを自由に想定したもの。講評用のデータは、PDFで書き出してもらえばひとつにまとまるので便利だ。

生徒たちはまだInDesignを操作しはじめたばかり。文字が入っていて、画像が取り込まれ、Illustratorで作りこんだロゴが入る。そこに地図や自分のカードのテーマに合った図解が入っていれば十分だ。InDesignは細かな設定が可能なソフトだけれど、そういうことを学ぶ前にいったん「自由」に作品を作って欲しかった。慣れないInDesignの画面の世界に、自分が作ったものを並べるだけでも居心地は良くなるものだ。

みんなIllustratorには慣れているので、InDesignでもかなりの作業ができるはずなのだけれど、その引っ越し作業はそう簡単でもないらしい。ページ管理ができるから素晴らしいけれど、管理する領域が広がって忙しく感じるせいかもしれない。

●生徒同士がお互いの力に

作品は素晴らしいものもあった。技術的には未熟でも、作りたいものが伝わるので後は表現方法を身に付ければ良いのだ。講評をする度にいつも思うけれど、生徒とは先生にもよく見られたいけれど、それ以上に仲間に認められたいものなのだ。仲間に見てもらう機会を作ってあげるだけで、作品に向かう気合いが全然違う。生徒同士がお互いの力に一番なっていると感じる。

これから文字のインデントやスタイル、マスターページなどの主要な機能を覚えて、ドキュメントらしく整える能力をつける授業が進んで行く。文字ばかりを見つめる時間も多いけれど、パンフレット等を一通り作れるようになるには欠かすことができないステップだし、今後職場へ出て知らない訳にはいかないことも多い。

あと2か月程学んだ後に作成する最終課題のパンフレットの課題では、そのまま印刷して使えそうなレベルのものも出て来るだろう。ただ、せっかく備えた「仕事として仕上げる力」が、個性を損なわないように注意して見守らなければならないとも思う。

締め切りが苦じゃない人はいない。スケジュールを立てて一つ一つ実行していく力は、どんな日常にも大切なスキルだ。講評会では人に何かを仕上げさせる苦労を感じたけれど、そういう苦労は自分自身の仕上げる力を上げるためにもなっていると思う。講評会は私にとっても力がもらえる機会なのだ。

【武田瑛夢/たけだえいむ】 eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト“デコラティブマウンテン”
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やさしいデザイン―誰でもかんたん、レイアウト・配色・文字組
武田 瑛夢
エムディエヌコーポレーション 2007-09

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by G-Tools , 2009/06/16