装飾山イバラ道[41]伊勢旅行記(3)ミキモト真珠島
── 武田瑛夢 ──

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伊勢旅行記の最終回の3回目は、志摩の特産品の真珠について。伊勢志摩の美しいものの代表と言える真珠は、御木本幸吉がこの地で世界で初めて養殖に成功した。その場所が「ミキモト真珠島(みきもとしんじゅじま)」なのだ。伊勢旅行記の1回目で触れた「まわりゃんせ」という伊勢の周遊チケットを買うと、このミキモト真珠島の入場も可能なので、お得と思ってスケジュールに入れた。

・ミキモト真珠島
< http://www.mikimoto-pearl-museum.co.jp/
>
< http://www.eimu.com/dgcol/miki > 島の外観

ここでは、真珠養殖の実演や真珠製品が作られるまでを詳しく見学することができる。博物館では、アンティークのパールジュエリーや万博に出すようなオブジェサイズの立派な真珠作品を見られるので、考えていたよりもずっと見応えがあった。



ミキモト真珠島は、地図で見ると陸と小さな橋で結ばれた多角形の小島。人工島なのかと思っていたら、昔は相島(おじま)と呼ばれていた小さい島だったらしい。

御木本幸吉がここで真珠養殖に成功したのが1893年。現在のようなレジャー施設として開業したのが1951年。コンパクトな島の中に、美しい建物や庭を詰め込んだ宝箱のような島だ。

アクセスは鳥羽駅から歩ける距離(5分)で、島全体が湾側からもよく見える。チケットを買ってからガラス張りの橋で島へと渡る。この橋をパールブリッジと呼ぶのだそう(そのまんまだ)。

島につくと御木本幸吉の銅像があり、その奥の海では海女の実演を見ることができる。海女の実演の開催時間をチェックして、次の時間までその他の見学場所を見て回る。真珠博物館、真珠ジュエリーを買うことができるパールプラザ、御木本幸吉記念館などがある。

実演は3人の海女さんが舟でやってきて飛び込んで貝を取る流れ。昔は海女がアコヤ貝を海底から採取して養殖技術を支えていたのだという。今では海女の作業の必要はないけれど、その活躍を忘れないために実演をしているのだ。
< http://www.eimu.com/dgcol/ama > 海女の実演

真珠養殖の実演は、賢島のある英虞湾(あごわん)でクルーズをした時にも見ていてある程度知っていた。海に浮かぶ真珠筏(しんじゅいかだ)の景色が美しかった。真珠のアコヤ貝は核を抱いて網で挟まれ筏にぶらさがり、真珠と共に大きくなっていく。
< http://www.eimu.com/dgcol/ago01 > 英虞湾の真珠筏

●養殖真珠ができるまで

真珠養殖の作業の中心とも言える真珠の核入れ作業を、ミキモト真珠島では「手術」と呼んでいる。生きている貝の体を切って貝を丸く削って作った核を入れるので、手術と言うのは正しいのかも。

そもそも天然真珠は、貝が偶然に体に取り込んだ異物が体を傷つけないように、丸くコーティングしてしまう仕組みでできる。天然だとなかなか綺麗な形はできないので、異物となる丸い核を人の手で入れるのだ。核の側にはピースと呼ばれる貝の外套膜(がいとうまく)を小さく切った組織も一緒に入れる。この組織は二枚貝の裏のパール色に輝く部分を作り出しているので、側に置いておくと丸い核の周りにもパール質の真珠層を巻き付けていくわけだ。詳しくはMIKIMOTOのWEBで。

・養殖真珠ができるまで/ミキモトパールネックレス
< http://www.mikimoto.com/pearl/about_pearls/pearl_ap04a_2.html
>

真珠層を作り出す外套膜こそが、真珠養殖の一番大事な部分だけれど、簡単に言うとここは「貝ヒモ」の部分。貝ヒモの透明のところが内側のパール色を作り、外側のひらひらしたところが貝の外側を作っているんだそう。ホタテ貝なら貝柱よりも格下の食材とされがちな貝ヒモが、アコヤ貝の場合は最も大事だなんて不思議だ。

真珠は貝の内側がパール色のもの(アコヤ、あわび)などでは美しいパール色の照りのあるものになり、貝の内側が白いはまぐりやあさりだと白いだけの玉になる。はまぐりの真珠なんて(?)と思ったけれど、別に綺麗でもない白い玉が出て来ることはあるみたい。遭遇してみたいけれど間違って食べたら歯が欠けそうだ。

ミキモト真珠島では、さらに真珠がジュエリーになるまでの工程を見られる。貝の中で育まれた真珠を選別し、色合わせして連に連ねて穴を開け、糸を通して一本のネックレスができる。各工程ごとに女性のスタッフが丁寧に説明をしてくれるのが素晴らしい。来場する客の流れに合わせて何組かに分かれて順番に見学できるように、数人のスタッフを配置していて手際がよい。さすがミキモトという感じの展示だった。

展示の途中では、イミテーションの真珠と本物の真珠を見分けるクイズなどもあって楽しい。見分けるコツは、真珠同士をすり合わせてざらっとした抵抗感があるのが本物で、ツルツル滑るのが模造という説明。見た目では色や照りの固体差で、模造真珠の方が圧倒的に色が揃っている。天然の真珠はかすかにピンクだったり黄色だったり少しづつ色が違う。それが本物の良さでもある。

博物館では歴史あるパールジュエリーが展示されていて、昔から大切な場面で使うジュエリーには真珠を取り囲んであしらっていたのがわかる。養殖技術が生まれる前の真珠はいびつな物が多かったけれど、今でも綺麗な光を放っていた。五重塔や地球儀、王冠など白くて七色に輝くパールはどの時代にも人々を惹き付けただろう。
< http://www.eimu.com/dgcol/goji > 真珠でできた五重塔

粒の揃った真珠の美しさは、かけられた人の手間や時間を想像させる点でも本当に贅沢だ。真珠が日本人的な装飾品であるのは、養殖や加工のどの工程を見ても極めて「繊細」な神経を使って作られているところにあると思う。

日本人だからこそデリケートに貝を扱う養殖の技術を生み、選別や加工の厳しい基準が真珠の価値を高めた。ダイヤやサファイヤも歴史の中でカット技術が向上して美しくなったけれど、真珠は貝から取り出した状態そのままで磨くことをしない。色や輝きの質は貝に委ねられているのがまた魅惑的なのだ。

ミキモト真珠島で小さい真珠のピアスを自分用に買って帰ったけれど、パールプラザでは手頃なものからMIKIMOTOブランドのジュエリーまで、幅広く真珠商品を揃えていた。

●鳥羽駅は海の幸がいっぱい

真珠島がある鳥羽駅の周辺では、美味しい海の幸が食べられる所がたくさんある。採れたてのサザエの網焼き、やウニを割っただけで出してくれるのはまた格別だ。二つに割られてトゲがまだ動いているウニをスプーンですくって食べる。貝焼きやウニは大きさにもよるけれどどれも数百円。海のそばに住みたくなる。
< http://www.eimu.com/dgcol/uni > 新鮮なウニ

夏に海の街へ来たのに泳がない旅だったけれど、日本が海に囲まれた島だということを再認識した。自分が海が好きなのも分ったし、ぐるっと日本全体でまだ行ったことのない海がたくさんあるのは、読んでいない本がたくさんあるようでワクワクする。次回は美味しい魚がいそうな北の海か、綺麗な魚がいそうな南の海を狙いたいと思う。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com

装飾アートの総本山WEBサイト“デコラティブマウンテン”
< http://www.eimu.com/
>

テレビでは水泳、陸上、柔道と次々とスポーツをやっていた夏。メダルが四角いのは最近の流行なのだろうか? 私はやっぱりコインチョコみたいな丸くて厚みのある金色のが好きだ。