装飾山イバラ道[98]アメリカン・アイドルシーズン11を見る
── 武田瑛夢 ──

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毎年楽しみにしている「アメリカン・アイドル」も、今年でシーズン11になった。ジェニファー・ロペスとスティーブン・タイラーも、すっかり審査員として堂々とした存在感を放っている。番組自体の完成度もさらに増している。

●発掘しっぱなしにしない試み

新しいシステムが定着してきて、変わったのは候補者を「育てる」努力を番組が担うことに積極的になったことだ。

毒舌審査員のサイモンがいた頃には、候補者たちは自分で選んできた曲を、自分でコーディネイトした服を着て歌っていた。全力を出して全米の視聴者に向けて歌った後に「なんでこんな誰も知らない曲を選んだんだ」「そのドレス、美人コンテストかと思ったよ」とキツい一言を大勢の前で言われて傷つくのを見るのは辛かった。

わざわざ時間をかけて約10万人から選び抜いた10数名が、人前で歌うチャンスを本人の選択だけに委ねるのでは、番組にとっても本人にとってもリスクが大きすぎたのだ。

候補者に「今日は失敗だったね」と簡単に言ってきたのが、番組にとっても損失だと気づいて大きくテコ入れをしたのだろう。すごくおっきな金の玉子が、手から滑り落ちて割れるのをただ見ていて良いわけがない。発掘したからには一人一人の能力を大切に伸ばす責任が番組にはあるのだ。

最近は、本人が選んできた候補曲の中から個性に合ってステージ映えしそうな楽曲を、プロのアドバイザーが選んでくれる仕組みに変わった。さらに、実際に歌わせて曲のアレンジについても指導し、見せ場を盛り上げるように調整していく。




衣装も本人まかせではなく、今回はデザイナーズブランドのトミー・ヒルフィガーが衣装提供をしていた。なんと番組中にはトミー・ヒルフィガー本人からアドバイスを受ける機会があり、おしゃれについても万全の体制となった。

「あの候補者? 歌はうまいけど服装の趣味がイマイチね」と言われなくて済むし、センスのある人はもちろん認められ、そうでない人もそれなりに安定した画面映りが確保されたのだ。

素のままの魅力を審査するのは地方予選やハリウッドまでで、それ以上を勝ち抜いてきた候補者には、磨きをかけてステージに上がらせるべきであるのは当然と言えば当然かもしれない。実際のプロの歌手たちだって、プロデュースの方法次第で人気が出るかどうかのかなりの部分がかかっているものだ。それは日本の音楽業界の場合を見ても同じだしね。

●それでも肝心なのは本人の意識

候補者本人の特性を、プロの目が育てていく。ただ、本人が「自分をわかっている」かどうかで、磨いた時の光り方は大きく違うようだ。周りからのアドバイスに流されて振り回されてしまう候補者もいれば、参考にすべきポイントをうまく掴んで波に乗っていける候補者もいるのだ。

実は「ホンモノ」は常に「自分」という芯がしっかりしていて、その自分の耳が聞くべき意見を判断しているのだということを、週を追うごとに気づかされるような気がする。こういう能力に年齢は関係ない。

そして三人の審査員が決めていた候補者の絞り込みが、全米投票に切り替わるトップ13になると、どれだけ固定ファンを掴んでいるかも大切になってくる。毎週パフォーマンス披露の日、結果発表の日と2日のオンエアが続くシステムも、アメアイに夢中にさせる効果を生んでいると思う。週に2回も見ている番組なんてそんなにないだろう。

私がこれを書いている頃は、トップ5まで絞り込まれているところ。ここまで来たら、もはや誰が落ちても不思議はないし、優勝を逃したとしても複数の候補者が歌手としてデビューできるだろう。現在の私のお気に入りは、男性のフィリップ・フィリップスと、女性ではジェシカ・サンチェス。フィリップは名前がフィリップに「ス」がつくかつかないの違いで、2回連続するというのがおもしろい。

彼は低音でワイルドな声で独特の感性を持った候補者(イケメン)だ。「フィリップ・フィリップスが今週も落ちませんように」と、祈りながら結果発表を見守ってきた。全米の電話投票は一人何回でもかけて良いらしく、熱心なファンの投票合戦が勝敗を決めるのだと思う。

ここ数年では女性ファンの圧倒的ながんばりによってか、男性候補者の優勝が続いている。しかしながら、優勝後に大スター化したのは女性の方が多いのがこの番組の難しいところかもしれない。

女性優勝者にはケリー・クラークソン、キャリー・アンダーウッド、ファンテイジアなどがいる。そろそろ女性の優勝者が紙吹雪を浴びるのも見たい気がするけれど、既に私の頭の中の妄想ではフィリップ・フィリップスが紙吹雪を浴びているのが見えている(笑)。優勝が決まるまでは落ち着けない日々だ。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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Apple TVがうちにも来た。もっぱらiPadで見ていた猫動画などを大きなテレビに映して、だんなさんにも見させるために使われている。人はなぜ自分でみつけた動画を人に見せたいのだろう。そういうエネルギーのために多くの技術が進化しているのは間違いないけれど、「たわいないもの」の持つ力って本当に不思議だ。