装飾山イバラ道[135]3D映画の「偶然」と「必然」
── 武田瑛夢 ──

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「アナと雪の女王」を見に行ったら「ネイチャー」の予告編をやっていた。
「Nature」というと科学論文雑誌が何かと話題だけれど、映画の「Nature」はBBC EARTHの大自然の作品のことだ。
※以下はネタバレを含む可能性があります※

・アナと雪の女王|ディズニー映画
< http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/anayuki
>

・映画『ネイチャー』5.2[金]全国ロードショー
< http://nature-movie.jp/
>


「ネイチャー」はこのタイプの映画で初めての4Kの3D作品で、動物や自然のものがいろいろと飛び出すらしい。「アナと雪の女王」も3Dで見に行ったので「ネイチャー」も3Dの感じが見られるかと思いきや「3Dメガネをかけて下さい」の表示が出る前の、2Dの予告編だったのが残念。予告は短いんだから、ちょっとくらい3Dっぽいの見せてくれたっていいのに。

最近公開されたという滝川クリステルのナレーション版予告は、なんだかいつもより声が高めに感じるフレッシュな仕上がりで若々しい。映像は動物はもちろん滝の水量が凄くて、立体感や奥行き感を存分に見せるつもりなのがわかった。4Kの3D撮影ということで、良い映画館で見たらきっときれいだろうな。水しぶきの玉とか掴めるように見えるのを期待。

私は映像作品について「偶然に起こったことを超えるのが難しくなって来た」とここでも書いたことがあるけれど、「ネイチャー」と「アナと雪の女王」は偶然と必然の対極なタイプと言えそうだ。

●想像上のリアリティ

フルCGアニメーションの3D作品である「アナと雪の女王」は、画面に映り込む物のすべてに計算がしつくされている。冒頭のシーンの雪山で、氷をノコギリでザクザクと切り出す男たちの映像はとてもリアルで、冷たい自然の中での厳しい作業の感じがよく伝わる。氷をキューブ状に切り出して街で売る仕事をしているのだ。そしてその氷の透明感や固さ、美しさといったら素晴らしいものだった。

暗めの青と紫がかったカラーリングも寒さを美しく演出していたし、強く大きな男たちと小さい子供の動きの違いもテンポよく流れていた。音楽と映像をまとめる技の確かさはさすがディズニー。この冒頭のシーンでアニメーションの3Dの本気度合いがわかる気がした。

冒頭を重厚な男たちのシーンにするっていうのはそういえば「レ・ミゼラブル」も同じ。お姫様映画と軽んじてもらっては困るという気合いが伝わってくる。

ミュージカル形式だから、曲とストーリーの流れが交互に来るので話自体はとてもシンプルに感じた。吹雪の表現とか、この話では自然の嵐や吹雪とも違う設定なので、どうやって危機を視覚化するのかを工夫していたと思う。

そう、自然のものではないものを映像化するのは、一旦人間の頭の中で自由に可能性を広げられるのだ。氷の魔法はどう見せたらその強さと脆さを見せられるのか。想像できたものを映像化するまでに何人もの人間の意見やセンスを通すのか、監督がほとんど決めてしまうのか興味が湧くところだ。

●狙いを定める

「ネイチャー」では4Kの3D撮影のせいなのか撮影隊も大掛かりなもので、偶然を撮るなんて生易しいものではないらしい。山とか滝とか相手がそこに在り続けるものであれば、比較的確率は高く撮影できるし何度でもやり直しができそうだ。

しかし、そこに動物が絵になることをしているタイミングを求めるとなると難しそうだ。群れ、戦い、出会い、誕生、それぞれのイベントがいつ起こるのか予測はできるのだろうか。

それぞれの担当者が責任感とプロ意識にかけて、狙いを定めて撮影に挑んだに違いない。ずーっとお宝映像を見張り続けているグループがいくつもありそうだ。撮影品質は時代によって変わるのでどんどん高めていく必要はあるけれど、撮影者のネバリが命なのは間違いない。

こういう映画はアニメーションと違って、主題となる生き物をどう撮るかの狙いを絵コンテで用意するということもあるのだろうか? 迫って来る動物が撮れたらいいなと思いながらカメラの位置を決めるとか、時にまったく狙いとは違う予想を超えたショットが撮れる時もあるのだろう。

ここでも、現場でシーンの狙いを決める監督の意図がどれだけ周囲のメンバーに伝わっているかが大事だろう。それによって、いざ動物が動き出した時にチャンスを無駄にせずに撮影できるかが決まってきそうだ。

●ディズニーに偶然はあるのか

どうやら自然映画では「狙い」は人間の「期待」だから、ある程度は必然的にもたらされる映像を撮ることもあると思える。自然の映画にはこのような設定の必然的要素も有り得ると思うけれど、逆にディズニーのアニメーションに「偶然」は有り得るのだろうか。

膨大な量の各シーンは、それぞれの部門で割り振られても、最後はすべて中央で管理されているはずで、遊びの要素で偶然脇道にずれるようなことはなさそうだ。

例えば、ファッションデザイナーが襟の刺しゅうを刺しゅう専門店に依頼したとして、刺しゅうが勝手にアレンジされたら、それが素晴らしかったとしても採用はしないだろう。全体のバランスを崩すことはしてはならないからだ。

究極の分業は究極の一元管理で縛り切って、クオリティを保っているような気がする。そうでないと皆の創造力の羽ばたきのおかげで、あっちこっちに散らかりそうだもの(笑)。創造力を管理する仕事はどの世界でも大変だろう。

結局は、自然でもアニメでも監督の意図を映像に固める作業が映画製作で、同じように苦労がありそう。そして、人間の目が認識できる限界まで、どちらもクオリティを上げ続ける。自宅のテレビが進化しても、映画館はまた新たな段階に行くのだろう。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
>

「アナと雪の女王」を見た後で、雪だるまのオラフのキーチェーンでもあったら買おうと思っていたのに、CD以外に何一つグッズが残っていなかった。出遅れたのがいけないのだけれど。

ネットでグッズを探すと相当量のものが出て来る。雪の女王の人形が多いけれど、値段もクオリティもばらばらでおかしい。公式グッズが軒並み売り切れなのをいいことに、いろんな店で謎のタイプが出ていて、レビューに「可愛くなかった」とか書かれているのを見ると、沈静化するまでグッズはあきらめようと思った。