装飾山イバラ道[146]安心の定番品とこだわりの逸品
── 武田瑛夢 ──

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●最近のコンビニ

今のコンビニには美味しい出来立てコーヒーがあるし、袋入りじゃないドーナツも置くことになっていくという。24時間クリーニングの受け渡しも出来るし、もはや出来ないことは何だろうと考えてしまう。

コンビニには以前から揚げ物の大半は置いてあったし、おでんなどのシーズン商品もお客さんを惹き付けていたけれど、しょせんはコンビニの味だった。しかし、最近のフライドチキンやコロッケは、ファストフードのものと比べても相当美味しいものが増えていると思う。まだまだ街の肉屋さんのコロッケにはかなわないと思っているけれど。

考えてみれば、ファストフードもコンビニも用意された冷凍の商品を揚げたてで提供していることが多いのだから、同じような味なわけだ。24時間買えるのも似ている。

街の肉屋さんは夕飯時より前にピークが来るので、遅めに行くと人気商品は買えないのだ。(あー今日はメンチカツ終わっちゃってるー)って、行列の後ろからショーケースを覗き見て悲しい思いをすることも多い。こんな感じでこだわりの美味しさと便利さを合わせ持つことは難しいし、普通に考えればそれでいいと思う。




●便利という怖さ

最近はまたイラストレーターやデザインをする人と会う機会も増え、今のイラスト業界の厳しさをよく耳にする。よくあるレベルの便利なイラストなら、安価に流通しているので、わざわざ新規に依頼されることが少なくなっているという。

絵描き同士から尊敬されるような別格な人であれば安泰なようだけれど、なかなかそうもいかないらしい。別格な人に頼む必要性がある、別格な仕事の少なさがあるのかもしれない。

製品の品位を保つ必要はあるけれど、飛び抜けて優れている必要も予算もないということだろうか。少しでもクオリティを上げて目立つこと、頭を出すことに躍起なのは今も昔も変わらないはずだけれど、業界全体のムードは違うのかもしれない。

イラスト素材に関して言えば、物理的にデータが溜まってきたので溢れてしまっていることもある。物が少なかった時代と潤沢にある時代の違いで、手に入れる方法も変わったのだ。イラストもコンビニ感覚で求め、探し、手に入れることができてしまう。

期待する品質を保った定番ものと、期待を越えたこだわりの品。私も物を探す時にちょっと高くてもこだわりのものが欲しい時もあれば、今日はこのへんで充分ですという時と両方が有り得る。

どちらも必要なのだから、どちらかがが悪いわけじゃない。問題なのはそのどちらもがお互い棲み分けてきた境界を食い合って、価値を下げてしまっているように思えることだ。

そのうち、街の肉屋さんに負けないコロッケがコンビニに本当に登場してしまいそうなのと同じように、こだわっているものでも手に入れるのが簡単になっていってしまうのだろうか。

●付加価値を決める人

イラストは違いを見せれば納得が得られるとも限らない。その違いが相手が必要としている違いなのかはわからないからだ。一般的には普通のものほど安心感は得やすい。「そうそう、これこれ」と言ってもらいやすい。せっかく付けた価値が、ありがたがられない可能性があるのもクリエイティブの世界なのだ。

もちろん、変わっているという価値もある。ただ今はこんな複雑な設定のイラストないだろうなというのが探せばあったり、喜んで描いてくれる人がいたりする。つぶやくだけでどこかの誰かが描いてくれる時代って素晴らしいけれど、それをプロでやってきた人にとっては過酷な時代だ。

物事が広まるのが圧倒的に早くなってきたので、価格破壊も早い。珍しいと思われていると、アッという間に似たものが出て来る。元祖であることには価値があるはずだけれど、今の世で見る側にもその元祖であるという価値を伝える時間があるのだろうか。救いを考えれば考えるほど、やっぱり現実は過酷なようだ。

海外の壁の絵「グラフィティ」の写真を撮っている人に聞いたことがある。壁の絵が入れ替わることがあっても、有名な作家の壁は決して上描きされないという。そこにリスペクトがあるからだ。

有名な人が描いた有名な絵の有名な場所だから、それを変更することは家の持ち主以外はできないのだろう。それを評価する人がいる間は残り続ける。

この「評価する人がいる」というキーワードはとても大切に思える。ネットの世界でも、見ている人はお互いのおかげで成り立っている。評価が見えるという、今までの世界に少なかったものを味方につけることが出来る。良い悪い、高い安いのあらゆる評価を受けながら進んで行くのは、何を作っている人でも皆同じなのだ。

物作りには辛いことだらけのようになってしまったけれど、物を作るのは楽しい。究極にはその救いがある。もしかしたら、楽しんで作っている人の作品という価値も、可視化されている時代だとも言える。

私は絵を作った時の気分なんて絵から伝われば良いものだと思っていたけれど、もうそんなことも言えないのかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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震災の頃に備蓄しはじめたいろいろな物の、消費期限がそろそろ来るみたいだ。マスク、絆創膏、食品、以前の気分と同じような切実さで新しく買い替えられるのか自信もないけれど、さっさと点検しなければ。