装飾山イバラ道[152]いつものものを選べるということ
── 武田瑛夢 ──

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毎年3月のこの時期にやっていることは確定申告。4年前の3月11日のように、今年も同じ日に、やっぱり午前中に夫と一緒に確定申告に出かけた。時間が予定より遅くなったことをお互いのせいにしながら歩く。

提出が終わった後は、時間つぶしを兼ねて散歩し、毎年恒例のお寿司のランチにした。お店の行列は相変わらずだけれど、WEBの受付システムがうまく動いているようで、皆のストレスはだいぶ緩和されているようだ。シャリ小さめで握ってもらった美味しいお寿司を頂いてホッとする。

春の日差しがキラキラとするような天気の良い日。4年前と違うのは税務署に日の丸が低く掲げられていたこと。半旗に気づいたのは夫だったけれど、今日が3月11日だからだねという話をした。

・4年前の記事 [74]キツツキを見上げた日/武田瑛夢
< https://bn.dgcr.com/archives/20110412140200.html
>

久しぶりにこの記事を読んだら、4年前のその日のことが蘇ってきた。書いておいて良かった。あの時の私が恐れたように、その後食材の入手や日常に多少の不自由はあったものの、時が経ってしまえばそれほどの苦労ではなかったと思う。

本当に大変な思いをした方たちが、現在も家族のために努力を続けていることを、数々のテレビ番組や記事で知った。時間が経つことは残酷なこともあるけれど、人に優しい時もある。




●日々の選択

散歩がてらに寄ったスーパーでは豊富な野菜や果物、魚に肉があった。普通に何でも手に入る。今年の3月11日の行動を4年前と同じにしたのは偶然もある。ただ同じように過ごすことで、当たり前の日常の幸せをしっかりと感じることができた。

私はあの頃、最悪の場合はもっと日本が壊れてしまうと思ったし、日本の食べ物はもうだめかと思っていた。一時は海外のお肉ばかり食べ、乳製品のほとんどは海外のものを選んでいた。お水はすべてミネラルウォーターにしてコストがかかってしょうがなかった。それはそれで良かったと思う。

現在では半分は水道水も使っているし、国産の食材も食べている。震災直後には避けていたものも、だいぶ取り入れていると思う。しかしすべてではなく、よく選んでから買うことに変わりはない。

何も気にせずに食材を買っていた頃にはもう戻れないけれど、気にかけながら食べることはそう大変でもない。もう慣れてしまったのだ。かなりWEBの通販で食材を買うようにもなったので、いつ何をどう選んで食べてきたのかの履歴も残っている。何となくあるものを買うのではなく、意識的に買う習慣は今後も続いていくだろう。

当時はマンションから出て行ってしまった家族もいたし、このマンションに住み続けていいものかと悩んだりもした。過去の自分の選択が正しかったのかを3月11日を機に振り返っては考えた。

しかし今は冷静なのでわかるけれど、人間はその時々で考えられる精一杯を考えて生きているはずだ。だから過去の選択に間違いはないんじゃないかと思う。

私は基本的に一度気に入ると変えないタイプだ。美容師さんも歯医者さんも商店街もずーっと何年も同じ。しかしあらゆる人との関わりを、好きだったのに変えざるを得なかった人たちがたくさんいるということを忘れてはならないと思う。

同じ人たちに連絡をして、同じように関わってもらえる有り難みを噛み締めながら普通に生きる。今年もアメリカン・アイドルを見て、録画時間の残量を気にする。そろそろ日常のスピードを変える選択もできる。4月を迎えるための、いつもの準備を始めよう。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
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今回のテキストから、「旦那さん」という呼称が「夫」になりました。特に意味はないけれど、アラフィフへの自覚からかもしれません。てへ。