もじもじトーク[46]テレビのテロップを観察してフォントに強くなる
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

今回も文字当てクイズからスタートです。みなさん、このフォント、知ってますか? 二つ掲載します。じゃーん!
http://goo.gl/up5LKq


では、解説します。




●くろかね

この書体、テレビテロップで大人気です。『マツコの知らない世界』という番組を見ていると、あらゆる場面でこの書体が使われています。『パズドラ』のゲームでも使われています。

この書体の詳細説明をFONTPLUSサイトから引用します。

「太めのエレメントの端をスパッと落とし、鉄のように黒く力強い雰囲気の中に、どこか優しさをもっている書体です。金属のもつ“鈍い重み”を感じさせないよう、全体的に愛嬌のある骨格のデザインで今風な日本のポップな優しさ・強さ・明るさを醸し出します。タイトルやコピーなどの少し大きめな短文での使用が似合います。」

くろかね 書体の詳細
https://webfont.fontplus.jp/service/fontdetail/990Ng5dmTbQ%3D


この書体、ビジネス文書で使う機会は少ないですけど……。

でも僕は大好きです。『マツコの知らない世界』のアートディレクター、『パズドラ』のゲームディレクターが、この書体を選んだ理由がわかるような気がします。

「くろかね」は、書体デザイナー大崎善治さんが数年がかりで制作した書体です。この書体の弟にあたる「あおかね」も、最近、テレビテロップで見かけるようになりました。「あおかね」は昨年発表された大崎さんの新書体です。
http://goo.gl/PwCK7D


大崎さんにセミナーでお会いしたとき、「数年に一書体しか作れませんよ〜」と笑ってお話されていたのが印象的でした。次回(いつか)、発表される書体名は「しろかね」? それとも「あかかね」? 気になりますね。

書体デザイナー大崎善治さんのプロフィール
http://fontworks.co.jp/font/designer/yoshiharuosaki.html


●ベビポップ

この書体も大好きです。昨年、発表された最近の書体です。すっごく脱力感あるんだけど、品があります。

昨年リリースされたばかりの新書体ですが、テレビのテロップ以外に、「おそ松さん」のアニメ、旅のポスター、製品パッケージ等で使われはじめました。

この書体の説明をFONTPLUSサイトから引用します。

「版画調な中に幾何学的な丸みを加え、文字単体および文字組みをした場合にも幼く抜けた空気感をもつ書体です。文字を並べた際に、《幼さ》《無邪気》《脱力感》をイメージさせ、さらにリズミカルでコミカルな感じを表現することができます。」

ベビポップ 書体の詳細
https://webfont.fontplus.jp/service/fontdetail/eTsZax1cuKE%3D


ここのページの[試し書き]ボタンを押してみてください。自由な文字列を入力して[試し書きを適用]を押してください。スライダーバーまたは文字サイズ指定すると、文字の拡大縮小表示もできます。

これら二つの書体は、フォントワークスというフォントメーカーから発売されている書体です。

●テレビテロップにおける書体選択

テレビのテロップを観察していると、ひとつの法則がみえてきます。

まず、こちらをご覧くださ〜い。
http://goo.gl/eeB9lp


「ふわふわ」と「シャキシャキ」と「ジャキジャキ」を表現するにあたり、
・ふわふわは丸ゴシック
・シャキシャキは先の尖ったデザイン書体
・ジャキジャキは線が非常に太い書体
が使われています。

別の例として、「おだかやな人」「怒りっぽい人」「頼れる人」の文字を表現する場合、同じような書体選択で表現できるのではないでしょうか。

ポスターや案内板を見るとき、人間は単語や文章を読んで意味を理解すると思うのですが、とっさに判断するときは文字の形や雰囲気によることもあります。

では、先ほどの例題の単語、「おだかやな人」「怒りっぽい人」「頼れる人」を、それらの意味にそぐわない書体で表現してみましょう。
http://goo.gl/AHyvd5


なんか混乱しませんか…? おだやかでない書体で、おだやかな人を表現しました。

どのシーンでどんな書体を使用するかは、とても重要なことだと思います。今の時代、パソコンがあれば誰でも案内状やビジネス文章が作れますし、年賀状を作る人もまだ多くいると思います。

つまり、誰もがクリエイティブな作業に関わっているのです。みなさんも日頃から書体選択に気にしてみてはどうでしょうか? 同じ文章でも印象が変わりますよ。

●放送業界ではフォントワークス書体が人気?

仕事柄、フォントメーカー各社の書体見本帳を眺める機会が増えました。

そこで、この数日間、「テレビで使われている書体はどこのフォントメーカーが多いのか」を真剣に観察してみました。感覚的にはフォントワークス書体が8割ぐらいと感じました。

フォントメーカーって、鋳造活字(活版印刷の活字)や写植機(写真植字機)を作っていた企業というイメージが僕にはありました。

でもフォントワークスという会社は、デジタル黎明期の1993年に創業したフォントメーカーなのです。日本国内で、QuarkXPressやPageMakerがDTPソフトとして流行り出した時代に誕生したことになります。

パソコンで作業する際、液晶ディスプレイを介して文字を見るわけですが、テレビも液晶ディスプレイを介して映像や文字を見ている点では同じと言えます。

ディスプレイ越しに、可読性や視認性が高くて、感性が正しく伝わるフォントを多く使えることは、コンテンツ制作会社やテレビ局にとって重要なことです。

フォントワークスの書体は、テレビコンテンツに合うフォントのラインアップの幅がとても広いように感じました。

●日本のフォントメーカー

フォントワークスのことを少し書いたので、日本のフォントメーカーって何社ぐらいあるのか考えてみました。

現在、デジタルフォントを有料で発売している国内フォントメーカーを順不同で列記してみました。僕の頭に思い浮かんだメーカーの一覧表なので、すべてを網羅しているわけではありません。

また、個人でデジタルフォントを制作している方もたくさんいらっしゃいますが、そちらは記載できません。ご了承ください。

・モリサワ
・フォントワークス
・砧書体制作所
・大日本印刷
・凸版印刷
・イワタ
・モトヤ
・SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ
・白舟書体
・タイププロジェクト
・字游工房
・タイプバンク
・アドビ
・ダイナコムウェア
・欣喜堂
・視覚デザイン研究所
・デザインシグナル

まだまだ、ありそうですね。今、デジクリを読んでいる方で「私の会社がないぞ」という方がいらっしゃいましたら、ごめんなさい………。

いつか、それぞれのフォントメーカーに訪問インタビューして、各社の歴史や書体の誕生秘話などを、デジクリに寄稿できたらいいなぁと妄想しております。いつか実現したいですね。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。