もじもじトーク[53]2016年新書体、勝手にベスト3〈続編〉
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

2016年「もじもじトーク」の仕事納めです。今年もお付き合いいただき、ありがとうございました。ほんと一年って早いですね。来年こそは、体も心も、もう少しゆとりを持って過ごせればいいなと思っております。

あれっ、タイトルが前回のと同じじゃん……と思われるかもしれませんが、今回は、2016年新書体、勝手にベスト3の〈続編〉です。

前回、頭にパッと思いついた3書体を記事にしましたが、配信された後で「あっ、あの新書体も気になるなぁ〜」と心残りになってしまいました。なので、前回の続編企画をさせてください〜〜!

◎今年リリースされた書体、勝手にベスト3〈続編〉

前回の勝手にベスト3は「ゴスペル」「筑紫アンティークゴシック」「秀英にじみ明朝」でした。それぞれ、個性はまったく異なるけど、書体の設計思想がとても明確な書体だったと思います。

さて、「今年リリースされた書体、勝手にベスト3〈続編〉」は、どんな個性のある書体が出てくるのでしょうか。




●可愛らしい「きりこ」

まずは、「きりこ」という新書体をご紹介します。

こちらが「きりこ」というフォントです。
http://www.moji-sekkei.jp/kiriko.html


「えっ、これ、フォントですか?」と思われるかもしれません。この書体は、砧書体制作所(旧:カタオカデザインワークス)の新書体なんです。

とにかく「可愛らしい!」と感じました。ほっこりします。

この数年、手書き風フォントが流行りましたが、「きりこ」はそれとは違います。まさに「文字と図形のあいだ」のフォントなのです。

「も」と「キ」を一文字取り出して眺めると、記号にしか見えないと思います。でも「おもちゃ」「キラキラ」というように文字して並べてみると、不思議と読めてしまいます。

「音楽教室」もちゃんと読めちゃいますよね。

発売したらすぐに購入するつもりでしたが、忙しくしているうちに、買い忘れてしまいました。パソコンの中に「きりこ」がいないので、今回は、自分で文字見本を作ることができなかったので、砧書体制作所のサイトへリンクを貼りました。

「かなフォントです。」「漢字はオーダーです。」とあります。仕様のところに「アルファベット・数字、漢字を一部収録しています。」と書かれています。

このフォントは、ひらがなとカタカナが、基本収録されているようです。漢字の作字オーダーは1文字1,000円で承りますと書いてあるので、自分の氏名を作字してもらおうかな……。四文字だけの注文もできるのかなぁ……。

「きりこ」は書体デザイナー木龍歩美さんの新書体です。丸明オールドの生みの親である、片岡朗さんの事務所で書体設計されています。

なんと、日本タイポグラフィ年鑑2016のタイプフェイス部門ベストワーク受賞、東京アートディレクターズクラブ年鑑2016にも入選しています。

木龍さん、おめでとうございます。セミナーで何度かご一緒したことがあるので、自分のことのように嬉しいです!

僕は、「きりこ」と聞くと、ブラックジャックに登場する「ドクター・キリコ」を連想してしまいました。カタカナですけどね。銀色の長髪、左目に眼帯をした細身の男で、死神的な存在だったと記憶しています。

一方、ひらがなの「きりこ」は、とても可愛らしいです。「文字と図形のあいだ」という新境地を開拓したのではないでしょうか。

では、木龍歩さんと片岡朗さんとご一緒した時のセミナーのレポート記事を二つご紹介します。

WDF Vol.21 デザインの要「フォント」についての知識を深める一日
http://wdf.jp/report/report-wdf21.html


フォトブログ「foto」FontLovers #2に参加しました
http://fotos.jp/fontlovers02/


●素朴さと楽しさが感じられる「つばめ」

次にご紹介する書体は「つばめ」です。Webフォントでサンプルを作成してみました。
https://goo.gl/RYZEbj


「つばめ」は書体デザイナー神田友美さんの新書体です。フォントワークスから今年5月にリリースされました。

ゆる系の手書き風書体とは、ちょっと異なるような気がします。明朝体のうろこ(横画の終筆部)がピンと跳ね上がっているのが特徴的です。幾何学的でもあり、素朴さと楽しさが感じられるます。

今後、テレビのテロップや装丁、ポスターなどで見かける機会が増えるのが期待されますね。

神田友美さんのプロフィール
https://fontworks.co.jp/font/designer/tomomikanda.html


いつか、神田さんに、この書体を開発した背景や想いをお聞きしたなぁと思っています。

●進化した「凸版文久体」

今年最後にご紹介する書体は「凸版文久体」です。

みなさん、凸版印刷はご存知ですよね。凸版印刷の独自書体である「凸版書体」が誕生したのが60年前の1956年になります。

「文意を受け取りやすく」「見栄えがよく」「子どもが間違えて字を覚えないように」との観点で作られたとのことです。

凸版書体はペンで書いたような骨格を持っているのが特徴ですね。身近な感じがする書体でありながら主張は控えめで、「読者が作品に素早く感情移入できるよう」設計されたとのことです。

そして、ここ10年ぐらいで、文字は紙媒体で読むだけでなく、電子媒体でも読まれる時代になりました(場合によっては電子媒体で読む比率の方が高い)。

復刻ではなく、電子化の時代にふさわしい文字へと、凸版フォントを進化させたとお聞きしました。

本来の活字は、漢字に比べて、ひらがな、カタカナがひと回り小さい文字で構成されていました。金属活字の活版印刷ではそれが顕著だったと思います。

読みやすさの一つに「リズム感」があると思います。ある程度、漢字とかなの「でこぼこ感」があったほうがリズム感がでるのです。凸版文久体にはそれが感じされます。

凸版文久体で、我輩は猫であるのサンプルを作成しました。
https://goo.gl/ka1AjL


次に、明朝体で有名な「リュウミン」「ヒラギノ明朝」「秀英明朝」「イワタ明朝体オールド」と「凸版文久明朝」を見比べてみましょう。
https://goo.gl/BvP4Hp


「と」「そ」「や」「さ」「き」で、筆使いのニュアンスが「凸版文久明朝」だけ、他の書体と比べて独特なのがお分かりいただけましたでしょうか? とりわけ、凸版文久明朝の「そ」は特徴ありますね。

こうやって、明朝体を見比べてみると、それぞれ個性が異なるのが分かるのではないでしょうか。とはいえ、この文字を見てすべての書体名が当てられたなら、あなたは、相当な書体マニアに認定されるでしょう。

●ロンドン地下鉄書体

先週、DesignTalks04「エドワード・ジョンストンとロンドン地下鉄書体」
トークイベントに参加しました。
http://typography-mag.jp/news/269/


100年前にエドワード・ジョンストンが制作したロンドン地下鉄の制定書体(Corporate Type)ですが、とても美しかったのです。目からウロコの2時間でした。

欧文については、高校と大学の時に、手書きレタリングやインレタ(インスタントレタリング)、タイプライターでカセットテープをきれいに作成することぐらいしかやったことがなかったので、来年は欧文書体について、もっと勉強したいと思ってます。

来年も肩の力を抜いて、コーヒーブレーク的な「もじもじトーク」をお送りしたい思ってます。ときどき、天体観測やオーディオ関連のネタなども登場するかと思います。

では、また来年、お会いしましょう。あっ、あと一回、お目にかかるかと思いますが……(ひみつ)


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。