こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
2016年「もじもじトーク」の仕事納めです。今年もお付き合いいただき、ありがとうございました。ほんと一年って早いですね。来年こそは、体も心も、もう少しゆとりを持って過ごせればいいなと思っております。
あれっ、タイトルが前回のと同じじゃん……と思われるかもしれませんが、今回は、2016年新書体、勝手にベスト3の〈続編〉です。
前回、頭にパッと思いついた3書体を記事にしましたが、配信された後で「あっ、あの新書体も気になるなぁ〜」と心残りになってしまいました。なので、前回の続編企画をさせてください〜〜!
◎今年リリースされた書体、勝手にベスト3〈続編〉
前回の勝手にベスト3は「ゴスペル」「筑紫アンティークゴシック」「秀英にじみ明朝」でした。それぞれ、個性はまったく異なるけど、書体の設計思想がとても明確な書体だったと思います。
さて、「今年リリースされた書体、勝手にベスト3〈続編〉」は、どんな個性のある書体が出てくるのでしょうか。
●可愛らしい「きりこ」
まずは、「きりこ」という新書体をご紹介します。
こちらが「きりこ」というフォントです。
http://www.moji-sekkei.jp/kiriko.html
「えっ、これ、フォントですか?」と思われるかもしれません。この書体は、砧書体制作所(旧:カタオカデザインワークス)の新書体なんです。
とにかく「可愛らしい!」と感じました。ほっこりします。
この数年、手書き風フォントが流行りましたが、「きりこ」はそれとは違います。まさに「文字と図形のあいだ」のフォントなのです。
「も」と「キ」を一文字取り出して眺めると、記号にしか見えないと思います。でも「おもちゃ」「キラキラ」というように文字して並べてみると、不思議と読めてしまいます。
「音楽教室」もちゃんと読めちゃいますよね。
発売したらすぐに購入するつもりでしたが、忙しくしているうちに、買い忘れてしまいました。パソコンの中に「きりこ」がいないので、今回は、自分で文字見本を作ることができなかったので、砧書体制作所のサイトへリンクを貼りました。
「かなフォントです。」「漢字はオーダーです。」とあります。仕様のところに「アルファベット・数字、漢字を一部収録しています。」と書かれています。
このフォントは、ひらがなとカタカナが、基本収録されているようです。漢字の作字オーダーは1文字1,000円で承りますと書いてあるので、自分の氏名を作字してもらおうかな……。四文字だけの注文もできるのかなぁ……。
「きりこ」は書体デザイナー木龍歩美さんの新書体です。丸明オールドの生みの親である、片岡朗さんの事務所で書体設計されています。
なんと、日本タイポグラフィ年鑑2016のタイプフェイス部門ベストワーク受賞、東京アートディレクターズクラブ年鑑2016にも入選しています。
木龍さん、おめでとうございます。セミナーで何度かご一緒したことがあるので、自分のことのように嬉しいです!
僕は、「きりこ」と聞くと、ブラックジャックに登場する「ドクター・キリコ」を連想してしまいました。カタカナですけどね。銀色の長髪、左目に眼帯をした細身の男で、死神的な存在だったと記憶しています。
一方、ひらがなの「きりこ」は、とても可愛らしいです。「文字と図形のあいだ」という新境地を開拓したのではないでしょうか。
では、木龍歩さんと片岡朗さんとご一緒した時のセミナーのレポート記事を二つご紹介します。
WDF Vol.21 デザインの要「フォント」についての知識を深める一日
http://wdf.jp/report/report-wdf21.html
フォトブログ「foto」FontLovers #2に参加しました
http://fotos.jp/fontlovers02/
●素朴さと楽しさが感じられる「つばめ」
次にご紹介する書体は「つばめ」です。Webフォントでサンプルを作成してみました。
https://goo.gl/RYZEbj
「つばめ」は書体デザイナー神田友美さんの新書体です。フォントワークスから今年5月にリリースされました。
ゆる系の手書き風書体とは、ちょっと異なるような気がします。明朝体のうろこ(横画の終筆部)がピンと跳ね上がっているのが特徴的です。幾何学的でもあり、素朴さと楽しさが感じられるます。
今後、テレビのテロップや装丁、ポスターなどで見かける機会が増えるのが期待されますね。
神田友美さんのプロフィール
https://fontworks.co.jp/font/designer/tomomikanda.html
いつか、神田さんに、この書体を開発した背景や想いをお聞きしたなぁと思っています。
●進化した「凸版文久体」
今年最後にご紹介する書体は「凸版文久体」です。
みなさん、凸版印刷はご存知ですよね。凸版印刷の独自書体である「凸版書体」が誕生したのが60年前の1956年になります。
「文意を受け取りやすく」「見栄えがよく」「子どもが間違えて字を覚えないように」との観点で作られたとのことです。
凸版書体はペンで書いたような骨格を持っているのが特徴ですね。身近な感じがする書体でありながら主張は控えめで、「読者が作品に素早く感情移入できるよう」設計されたとのことです。
そして、ここ10年ぐらいで、文字は紙媒体で読むだけでなく、電子媒体でも読まれる時代になりました(場合によっては電子媒体で読む比率の方が高い)。
復刻ではなく、電子化の時代にふさわしい文字へと、凸版フォントを進化させたとお聞きしました。
本来の活字は、漢字に比べて、ひらがな、カタカナがひと回り小さい文字で構成されていました。金属活字の活版印刷ではそれが顕著だったと思います。
読みやすさの一つに「リズム感」があると思います。ある程度、漢字とかなの「でこぼこ感」があったほうがリズム感がでるのです。凸版文久体にはそれが感じされます。
凸版文久体で、我輩は猫であるのサンプルを作成しました。
https://goo.gl/ka1AjL
次に、明朝体で有名な「リュウミン」「ヒラギノ明朝」「秀英明朝」「イワタ明朝体オールド」と「凸版文久明朝」を見比べてみましょう。
https://goo.gl/BvP4Hp
「と」「そ」「や」「さ」「き」で、筆使いのニュアンスが「凸版文久明朝」だけ、他の書体と比べて独特なのがお分かりいただけましたでしょうか? とりわけ、凸版文久明朝の「そ」は特徴ありますね。
こうやって、明朝体を見比べてみると、それぞれ個性が異なるのが分かるのではないでしょうか。とはいえ、この文字を見てすべての書体名が当てられたなら、あなたは、相当な書体マニアに認定されるでしょう。
●ロンドン地下鉄書体
先週、DesignTalks04「エドワード・ジョンストンとロンドン地下鉄書体」
トークイベントに参加しました。
http://typography-mag.jp/news/269/
100年前にエドワード・ジョンストンが制作したロンドン地下鉄の制定書体(Corporate Type)ですが、とても美しかったのです。目からウロコの2時間でした。
欧文については、高校と大学の時に、手書きレタリングやインレタ(インスタントレタリング)、タイプライターでカセットテープをきれいに作成することぐらいしかやったことがなかったので、来年は欧文書体について、もっと勉強したいと思ってます。
来年も肩の力を抜いて、コーヒーブレーク的な「もじもじトーク」をお送りしたい思ってます。ときどき、天体観測やオーディオ関連のネタなども登場するかと思います。
では、また来年、お会いしましょう。あっ、あと一回、お目にかかるかと思いますが……(ひみつ)
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。