装飾山イバラ道[211]いまのあなたの心のかたち
── 武田瑛夢 ──

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最近は花の絵を描いている。撮りためた花の写真から、その時の気分で探したりするので、今の季節感はない。

花ぐらいなら写真がなくても描けるけれど、想像だけで描くのとは違う発見があったりする。学生時代のステンドグラスのバイト先の社長さんは、「何の花かはっきり言えるデザインにしろ」とよく言われていた。空想の花は描くなということだ。

あくまでもステンドグラスのデザイン画なので、商品のモチーフとしての話だ。買うお客は必ず何の花なのかが気になるし、自分の好きな花なら買うと決める人も多いのだと言う。デザイナーの空想をそのまま受け入れる人は少ないということか。

花の種類が限定されるとなると、花びらの枚数や形、もちろん葉っぱの付き方や形にも嘘があってはいけない。

「めんどくさー。」若い頃の私は正直そう思ったりした。本物の花が持つ花びらと葉の調和の素晴らしさにも、当時は気がついていなかったのかもしれない。





今なら、お客が物を選ぶ時に自分に関連のある何かが決め手になる、ということの意味がわかる。数字モチーフが売れたりするのも、誕生日や自分の名前を数字に当てて、ラッキーを狙ってのものだろう。みんな自分が大好きなのだ。

いつからか自分が好きな形として決めたものにこだわる人も多い。ここ数年は星型が流行ったりした。長年人気が衰えないのはハート型だ。私が好きな天然石もハート型のものがよく売れたりしている。

私にはラブラブな感じがしてちょっと照れるイメージだけれど、ハート型自体は左右対称で安定した完成度の高い、美しいフォルムだと思う。上の丸みと下の尖り方のシャープさのバランスもいい。

●ハートが溢れる

ハート型が嫌いな人なんていないんじゃないかと考えた時に、思い出した女性がいる。彼女はブラシか何かの小物を見た時に「イヤ〜、またダァ」というようなうんざりした声を発したのだ。

どうしたのか聞くと、「最近のものは、ただ丸い穴を開けておけばいいところに、何かとハート型の穴が空いていて、それがイヤなの!」と言う。

その言い方で、彼女にとってそれがとてつもなく嫌であるらしいのがわかった。後ろに空いた小さな穴がハート型というだけなのに、気がついていたら買わなかったというぐらいのガッカリの仕方だった。

「私はとくに気にしたことないな」と思ったけれど、言われてしまうと確かに、いたるところハート型の穴が見つかってきた。穴だけでなく、ちょっとした出っ張りや折りまげるフタの先の形などにハートが見つかる。

こんなところにまでハートかと、見つけた最初の頃は可愛い。しかし、毎日たくさんハートマークが見つかり、見つけてしまうたびに「気配り過剰でちょっと多すぎるかも」と思うようになってしまった。ダンボールの点線の穴とか、のり代の線とかにも簡単にハートは見つかるのだ。

金のチェーンネックレスのアジャスターの先っぽも、ハート型がもはや主流だ。この部分が気になる人も多いようで、最近は男性も選びやすいようにドロップ型や楕円型を追加しているお店が増えてきている。

ありがちすぎてそれを避ける、「ハート型はお腹いっぱい派」の気持ちもよくわかるのだ。

●要素の詰まったハート型

実はIllustratorを教える時に、ベジエ曲線の練習の最後の課題として、ペンツールでハート型を描くというのをずっとやってきた。

左端のアンカーポイントから出発して、膨らみの山を書いてから中央の谷のくびれを描いて、右側の山を描いて時計回りに描き進めていく。下の尖ったシェイプも描いて、最後にクローズパスとして閉じて描ければ完成だ。アンカーポイントは6コ。

形としてはシンプルで、描くのが簡単に思えるハート型は、ベジエ曲線で描くカーブの要素が詰まっている。漢字でいうと「永」に当たるような形がハート型なのだ。

これをスンナリと描ければOKだ。慣れればほぼ修正しなくても、思った通りのハートを描くことができるようになる。

曲線のハンドル操作をすべて覚えた後に始めるので、技術的には描けるはずだ。描き始めは皆なかなかうまくいかなくて、ガタガタとしたり、左右の膨らみのバランスが悪くなったりする。

「あなたが描くそのハート型は、今のあなたの心の形です!」などと追い詰めたりして(笑)、なんとか習得してもらっていた。

授業一回の時間で入門から卒業まで行くのがペンツールの基本なので、時間的にはそんなに大変ではないと思う。あとはひたすら使って慣れるだけだ。

ハンドルを調整しながら、皆だんだんと美しいハートが描けるようになって、満足な表情になっていく。

今は便利な曲線ツールもあるし、昔よりもずっと簡単にハート型は描ける。円から作ってリフレクトさせたり、丸型先端の線でもすぐにできる。

苦労してラインの起伏をコントロールして描かなくても良いのだ。私は昔からの描き方を続けるけれど。

この記事を読んだ後で、ついハート型の何かを見つけてしまったとしたらごめんなさい。

あなたの心の検索エンジンに「ハート型」が入ってしまったのかも。きっとすぐに、新しい検索ワードで押し流されると思うので気にしないで下さい。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
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任天堂の新しいゲーム、「スーパーマリオ オデッセイ」、通称「マリオデ」やってますよー。綺麗な3Dのグラフィックの世界に、突然現れる2Dの懐かしのドット絵の横移動のゲームが新鮮。

私は大人になってからゲームにはまったせいで、基本のジャンプアクションがとてもヘタで苦しんでいる。何でココで落ちるかな! これぐらいすぐに飛べないと、先が長すぎるよーと思う。

でもそこは、お子様でもできるゲームの優しさのおかげで、何とかちょっとづつ進んで、小さいボスを倒すことができた。仕込まれたワナがどれも可愛くて、とてもお勧めです。