もじもじトーク[76]デジタルネイティブの知らないフォントの成り立ち
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

昨日は、日帰りで京都出張でした。クライアントとの打ち合わせは1時間の予定でしたが、情報交換とビジネス協業の話で盛り上がり、気づくと2時間以上経過していました。

最近、iPhoneがSuica対応し、エクスプレス予約も使えるようになり、東京〜博多間の新幹線が乗車時刻5分前までなら、すぐに予約ができて、何度でも変更できるんです。シート指定もiPhone画面で操作できます。とても便利な時代になりましたね。

打ち合わせが延びてしまったので、予約していたチケットを1本遅い新幹線に変更しようと思い、エクスプレス予約を立ち上げると、な、な、なんと、乗車時刻を数分過ぎてました(汗)

過去に100回以上、エクスプレス予約を使っているんですが、乗り遅れたのは初めてです。乗り遅れたエクスプレス予約のチケットは、アプリから払い戻しや変更はできませんでした。

でも、自由席なら追加料金なしで、そのまま乗車できると聞いていたので、iPhoneを京都駅の新幹線改札にかざしたら、無事、改札通過できました。そして、東京駅も無事、改札を出られました!

さて、今日のもじもじトークは、セミナーレポート後編「フォントの成り立ち」をお送りします。





●フォントの成り立ち

今日の記事は、11月15日開催『いま知っておくべきWebと文字の話』のセミナーレポート三部作の最終回(後編)です。

過去のもじもじトークで、フォントの歴史を書いたことはありますが、セミナーで聞いた話をまとめるのも楽しい作業です。

まずは、活版印刷が誕生する前のフォントのお話です。

当たり前のことですが、活版印刷技術が誕生する前は、手書きで筆写して書物を作る、つまり、「写本」が中心でした。

1,000冊の書物が必要であれば、1,000冊、写本するわけです。

10人で作業しても1人100冊、写本するのです。味わいがある書物が出来上がると思うけど、筆写する人にとっては大変な作業です。手書きなので、リズム感が書く人によって異なります。

そして、日本の古い書物は、続け字の書体の「連綿体」で書かれたものが多いようです。本来、写本は手書きでしたが、江戸時代になると、「木活字」で印刷された書物もあります。

江戸時代の書物は、手書きにしても木活字の印刷物であっても、鋳造活字のように、文字が一個一個、別々に組み合わされて構成されているわけではありませんでした。

文字が一個一個の単位で構成されるようになったのは、活版印刷が普及してからになります。欧米では、活版印刷が広く普及しましたが、日本では文字の多さゆえ、江戸時代は「鋳造活字」による印刷は、なかなか普及しなかったようです。

木活字や鋳造活字が活用されるようになり、書物を一度に大量印刷できるようになったことはすごい変化だと思います。「フォントの情報革命が起こった」と言っても過言ではありません。

明治に入ると、鋳造技術の進化により、「活版印刷」が日本でも普及しはじめました。鋳造活字で組版して大量印刷できるという点は、効率化において大変革を起こしました。

しかしながら、文字の大きさ毎の活字を用意して、文字の間を埋める部品(込め物)と組み合わせて、組版する必要がありました。

1970年代から、写植(写真植字)が普及しました。写植が登場したことで、組版の工程が圧倒的に効率化されたのです。

写植では、文字盤というガラス板に文字がフィルムのネガのようにぎっしり配置されていて、それに光をあてて印画紙に文字を焼き付ける方式になりました。

それにより、ひとつの活字があれば、文字のサイズを変えたり、文字間隔や行間隔も柔軟に変えることができるようになったのです。

そして、写植の登場により、「文字を詰める」ことできるようになったのです。これは、ものすごい出来事でした。グラフィックデザイナーは、ここぞとばかりに文字詰めを駆使しました。詰め詰めの文字が並んだ広告が流行りましたね。懐かしいです。

先週、とある専門学校のWebデザイン科一年生に、文字の歴史とフォントの適材適所の授業をやりました。まだ十代の皆さんです。

「活版印刷とか写植(写真植字)という言葉は聞いたことがあると思うけど、今日は、それらの実物を持ってきたよ」って話したところ──

「先生、活版印刷とか写植とかの言葉も聞いたことないです」「フォルムとか印画紙ってなんですか?」と質問されました。そっか、完全なるデジタルネイティブなので、そういうことね……。新たな発見でした!!

そして、デジタルフォントに時代になり、拡大縮小、変形、文字詰めなど、あたり前にできる時代になったのです。

●欧文書体の基本

欧文書体という言葉を聞くと、「デザイナーが知っとくべきことで、私たちには関係ないよね」と思う方が多いかもしれません。

だけど、「欧文書体の基本のキ」を知っておくと、なにかといいことがありそうです。

ビジネス文書を作る上でも参考になるし、東京オリンピックにむけて、欧文書体を理解しておくことが、おもてなしにつながるかもしれません。

欧文フォントを観察してみましょう。日本語と違って、基準になる線がいっぱいありますよね。

・アセンダライン
・キャップライン
・ミーンライン(エックスハイト)
・ベースライン
・ディセンダライン

それらのことが、整理されて書かれているページを見つけたので紹介しますね。

和文フォント大辞典│欧文書体の基礎知識
http://www.akibatec.net/wabunfont/study/basic/basic2.html


ちょっとした欧文の豆知識をふたつ紹介します。

コロン「:」やセミコロン「;」が、少し下にずれて配置されている文章みたことありませんか? 欧文では、エックスハイトに合わせて、コロンやセミコロンの位置が決まるという法則があるからなんです。

もうひとつ。和文フォントと一緒に収録されている従属欧文の「j」や「g」の下への飛び出しは比較的少なめです。

日本語の文化は基本的に全角文字の文化なので、下にあまり飛び出た文字は違和感を感じるのかもしれません。一方、欧文は、本来、比較的飛び出でいるのが一般的のようです。

今から40年以上の前の中学生の頃、英語の練習ノートで、等間隔に4本の線が引かれた罫線ノートがあったのを思い出しました。

最近、美しい欧文書体の組み見本を見ていると、中学生の時に、手書きが書いたブロック体が文字が美しくなかったなと思うこの頃です。

Neue Frutiger, Univers Nextや Palatino Novaなどの美しい書体見本帖をみると、欧文書体もいいなぁと思います。

http://bit.ly/2oYyCbx


美しい欧文書体を駆使して美しい組版ができて、ネイティブな海外の人から「美しいWebサイトですね」と言われるようになれるよう、精進したいと思います。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。