装飾山イバラ道[236]人が集まる「ライブコマース」
── 武田瑛夢 ──

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12月ということもあり、週末になるとセールのお知らせがたくさん来る。ネットでのライブ中継を取り入れているところも多く、私もいくつか覗いて見ている。完全に見る側だ。

インスタグラムのライブ配信の「インスタライブ」では、ライブ終了後には消されてしまう動画内でのコミュニケーションが盛んだ。

これは「トキ消費」と呼ばれている、同じ志向の人たちがその場でしか味わえない盛り上がりを共有して楽しむことだという。モノやコトでもないのねトキなのね、という感じだけれど、移り変わりの早さに疲れる、いや驚く(笑)。

スマートフォンのFaceTimeを使って顔を見ながら電話する感覚で、生放送を多人数に届けられるわけだからとても気楽だ。フォロワーの多い芸能人が多く活用していて、使い方を間違うとお騒がせも起こりうるのは、最近話題の件でご存知かと思う。

これとは違って、企業のセールなどにインスタライブが使われる場合がある。結局モノを売るので、盛り上がり共有という話だけではない。

その場に集まった人たちの作り出す独特な雰囲気を利用して、どんどん購入の確約を取っていくのだ。電話と違って多人数なので、視聴者たちはコメント入力で会話に参加することになる。

視聴者の打ち込んだ文字が、映像の上に流れていくのを両方見るのは忙しい。文字の滝が下から上へ流れていく勢いで、人の多さや活気を感じる仕組みだ。

このような販売形式は「ライブコマース」と呼ばれ、少規模から始められる生中継の通販番組だ。海外での成功実績があり、個人のお店でも始めやすい仕組みのために人気があるのだ。

もちろん集まって来てくれるフォロワー、ファンがいることが前提だけれど、たった一人でも配信できる通販番組なのだ。





●ライブ配信が始まると

販売系のインスタでのライブ配信の場合、商品紹介の時間になると「視聴者数」の数字がどんどん増えて、人が集まっていることがわかる。挨拶をしながら皆ライブの部屋へ来るのだ。そして集まっている視聴者に向けて、商品が一点ずつカメラ内に入って来る。

進行者が商品の概要や魅力を説明し、いよいよ価格発表。お値段を言うところが一番盛り上がるのは、テレビ通販と同じだ。「おお〜」「これはお得!」などとコメントが書き込まれていく。

そして、一番先に購入を決断した人に購入権利が確定する。商品は一点しかないもの、数が決められているものなどがある。

誰も購入希望がない場合は、価格を少し下げて再度希望者を募る。商品特性によってそのルールは様々で、手直しを加えながら開催しているようだ。私もさほど多くを覗いたわけではないので、他のバリエーションはわからない。

購入意思の示し方は、コメントで「買う」という文字が送られた時に決まる方式だったり、配信後にメールやメッセージを送信する場合などがあるようだ。基本的に早い者勝ちだ。

「このアイテムは○○さんに決定しましたー」と進行者の声が聞こえると、「おめでとうございます〜」と文字で祝福される購入者。規模にもよるけれど数十人とはいえ、大勢の他の人が見守る中で購入意思を決めて手を挙げるわけだ。これにはちょっと勇気も必要だ。

動画はその時だけで消えるものもあれば、一日だけ録画が残っていてどんな雰囲気だったかを確認できる場合もある。配信者の決めたルールで違うようだ。

●買える人、買えない人

そしてタイミングやラグによって勝ち負けが決まるのは、このタイプの方法ではしょうがないことだ。

複数が同時にコメントを送信している場合は、誰が一番かわからないわけだから、「運」要素も強い。

そこで一喜一憂しているコメントが流れてくるのも、ドラマチックで興味深かった。視聴者のお客さんも知ってか知らずか、演者として加わっているのだ。お店側としては、美味しい要素が多いのではないだろうか。

最初に決めていることは、どの商品をいくらで出すかということだけで、何が起こるかはその場の出来事で、どんどん変わっていくのも面白い。急遽視聴者のコメントで、リクエストされた商品の紹介に変更するなどだ。

セールに興味のないうちの夫に言わせれば、「そんなの最初から決まってるに決まってる」ことかもしれないけれど(笑)。テンション高めの人たちを見ていると、だんだんとあったまって来てしまうものなのだ。

そして笑いの要素もとてもうまく使っている。希望の物が買えずにしょげているコメントの視聴者を、進行者が励まして取り上げたり、次のものが出てくるたびに「〇〇さんコレはいいんですか?」イジられたりする。

基本的に同じブランドのファンや、同じ物のコレクターが集まっているので、欲しい気持ちや残念な気持ちは皆共感できるのだ。

視聴者の可愛いコメントや、面白発言を進行者が取り上げることで、目立ちたいタイプの人は、より面白くなるために協力を始める。

そうなって来れば、もうライブ中継は大盛り上がりという雰囲気で、商品もどんどん購入者が決まっていくのだ。

買いの流れの創出のためのポイントはそう多くもなく、臨機応変がキーワードだ。進行役を命ぜられた担当者も、スキルがないと大変だと思う。

参加者もマナーの良い人ばかりとは限らないけれど、言っていいことと悪いことの想像力があれば、あまり困ることはない。

例えば、出てきた商品について欠点を見つけていても、人前で書き込まないのがオススメだ。もし「ここが残念だなー」と書いてしまえば、買おうと思っていた人はやめてしまうかもしれない。もちろん意見があれば自由ではないかとも思うし、自分のスタンスは自己責任だ。

どちらにせよどの商品も、一瞬先には所有者が決まるものだと思って見ていなければならない。

●役割に目覚める人々

見ているといつの間にか商品の概要をまとめる人が出てきたり、購入を迷っている人の背中を押す役目の人が出てきたりもする。

人は人に親切にしたいという本能を持っているようで、集団が円滑に楽しめるような流れになってくる。いつの間にか個々が自分の役目、役割を持つのだ。

商品をホメ続ける人、どんどん買う人、タッチの差で全く買えない人。勇気が出なくて買えない人、人の背中を押す人、なぐさめる人。そして、ただ見てるだけの人。

進行者の力によるところも大きいけれど、なぜかどこのライブでもそんな人た
ちが出現してくる。集団心理というものだろうか。

まとめると、ライブ配信セールには「その場限りの集まりに参加しながら、自分のコメントでも盛り上がって、人のためにもなれた満足感」があるのだ。

結局何も買えなかったとしても、お店やお客のためになれたし、楽しかったという満足感は持ち帰ることができるのだ。そして、ただ見ているだけでも「視聴者数」という数字に貢献しているのを忘れてはならない。

顔は見えずユーザーネームなどの文字の人たちを見ているだけなのに、個性を感じ取ることができるのは面白い。パソコン通信やチャットだけの時代とは、映像があるなしの違いでしかないのかもしれない。

注意点があるとすると、自宅で見ているのに人前に出ている高揚感のようなものがあることだ。

雰囲気に飲まれやすい人は、少し気をつけた方がいいかもしれない。高いものほど「このタイミングで即決したらカッコイイかもしれない」と思う人がいそうなのだ。後で後悔しない範囲で参加しよう。

結局、いわゆる現代版バナナの叩き売りなのかもしれないし、年末ならアメヨコでのお正月用食品の買い出しでも、似たようなシーンを見かける。

「今日だけ特別! うちに来てくれたからには安くしちゃうよっ」

きっと毎日これをやってるってわかっていても(笑)、何だか楽しいのである。昔も今も、やり方のベースはそんなに変わらないのかもしれない。


【武田瑛夢/たけだえいむ】
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


この週末はスプラトゥーン2のフェス。ヒーローvsヴィランが開催されている。ヒーローと悪役では、どちらが好きか。私はヒーローにしたけれど、インクの色が赤系で見やすかったからだ。暗くてコントラストがないのとか、見えづらくて嫌になっちゃう。