装飾山イバラ道[237]ぬくぬく生活のススメ
── 武田瑛夢 ──

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最近の母は調子が良く、「どこも痛いところがない」というのが口癖だ。ただ低体温気味なので、冬場は血流が悪そう。それなのに新潟生まれの寒さ耐性によって、部屋の風通しをよくしたがるのが困りもの。

私が若い頃に風邪をひくことが多かったのも、これが原因とみている。寒さに鈍感な母なので、冷え性の私にはキツかったのだ。古いマンションは断熱材も適当だし、部屋の中なのにパソコンが黒ずんだりするのが謎だった。外気が相当量入ってくるのである。

今の私の環境は機密性の高い部屋なので、物の痛みが少なくなった。古い部屋は日差しも外気も気持ちは良いけれど、服も壁紙もすぐに古びていたように思う。部屋の中のものが風化するのだ。今日は、人間もそうかもしれないというお話。





●長寿と高断熱

調べてみると、冬場は部屋の温度を高めておく方が体の負担が少ないらしい。健康でいられる部屋の温度は21℃前後で、16℃以下になると健康リスクが高まるそうだ。

機密性の高い部屋に引っ越した方が、高齢の体には優しいのだという。私もここ数年そういう思いが強い。以前、年齢を重ねても美しい女優さんが、体調管理の秘訣を「温かめの室温」と答えていたのを覚えている。

お風呂場や脱衣室を先に温めておくと、湯船との温度差が少なくなって、血圧の急激な変化を抑えられるのはよく言われる話だ。差はない方が負担が少ない。

思い出せば小さい頃の田舎の家は、お風呂場が離れていたり、トイレも長い廊下の先にあったりして、ほとんど外のような温度だった。冬場に行ったことはないけれど、冬だと夜中のトイレは相当着込んで行かないと厳しいと思う。

そういう温度差の積み重ねが体の血管の過剰な頑張りを引き起こして、急に具合が悪くなったりしそうだ。現代でも気をつけないといけない。

●快適は贅沢か

うちの母は、エアコンはつけっぱなしの方が電気代の節約になるという、現代的な提案をしてもちっとも聞いてはくれない。私が部屋に行く数分前にエアコンをつけるようで、部屋に着いた時点ではまだだいぶ寒いのだ。

前もってつけておいてくれるだけ優しい気もするけれど、きっと私に口うるさく言われることからの防御のためなのだ。

寒いのが平気で体調が良いならいいけれど、冬になると母は途端に活発さがなくなる。自然な季節の温度に合わせて行動レベルを変えているとも言えるけれど、ちょっと工夫すればいいだけのようにも思える。

だって、お風呂上がりは途端に元気になって、ピンクの頬で幸せ全開の顔をしているのだ。私「やっぱり温めるだけで元気じゃん」。

私たち世代には、親は「寒いのを我慢する」のが普通になっているように見える。しかし、母からすると「寒くもないし我慢もしていない」という。

夏も「暑くもないしクーラーなんていらない」ということで、体調を崩す人が多いと思う。温度と過ごしかたの好みが、生体反応の現実と離れてしまっているのではないだろうか。体感温度だけでなく、そこから来る体調不良にも鈍感になってしまうのだ。歳を重ねるほどにその傾向が強まると思う。

そして若い世代とは違って、上の世代の人は自分が快適であることの優先順位が低いように思う。快適というのが贅沢に思えて、できないのかもしれない。快適は贅沢なのだろうか。

私は長年頑張ってきた世代こそ、もっと快適を求めても良いと思うのだ。

●誰が見守るか

ただ私も反省しなければならないと思うのは、どんな人でも物事は「自分で決められる自由が一番」ということだ。

自分の部屋の温度ぐらい、自分の好きにさせて欲しいのだ。私だって、自宅から母の家の室温を調整しようとは思わない。温度は数字だけでわかることばかりではないと思うし、その場にいる人が決めないと無理なこともある。

そのうちに部屋の温度も自分の血圧も血流も、何かの機器で見張られる時代が来る。体に負担が強まった時だけ、気がつかないうちに調整してくれるのだ。それはそれで微妙に気持ちが悪い気もする。

母の主治医が、「この間すごく寒い日があったけど大丈夫だった?」と母に聞いていて、ドキっとしたことがある。(あれ? いつのことだ?)私は自分の家がエアコンに依存しているので、特別に寒い日があっても気がつかなかったのだ。

自分が行く日だけ、母の家の寒さに気づいて怒っていたわけだ。いろいろと迂闊な自分に気がつくけれど、できる範囲で気をつけてあげたいと思う。


【武田瑛夢/たけだえいむ】
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


夫のiPadProを使ってもよいというので、Apple Pencilを試している。以前のタイプなので、充電する時に脇に沿ってつければいいのではなくて、シッポみたいに飛び出す方のApple Pencilだ。なぜこの角度なのか疑問。新しいペンでは解決していることなのでいいけれど。

久しぶりの筆圧感知は気持ち良い。しかし、慣れるまではあまり自由に使えない。どんどんスマホやタブレットでの画像加工が当たり前になるだろうし、ソフトもゲーム感覚の操作になってきている。触るだけ、撫ぜるだけで、できることが多くて、実体がつかめない感じなんだなぁ。その場合の実体って何?