クリムト展 ウィーンと日本 1900
2019年4月23日(火)~7月10日(水)
いつも会期ギリギリで申し訳ないですが、東京都美術館のクリムト展に行ったレポートのようなものです。
・クリムト展 ウィーンと日本 1900
https://klimt2019.jp
これだけの規模の作品が集まるのは東京では30年ぶりだそうで、そんな昔だと私は美大生時代かな。確かにあの当時、クリムトやエゴン・シーレの展覧会を見てみんなしびれていましたね。
調べてみると、1989年のセゾン美術館「ウィーン世紀末 クリムト,シーレとその時代」が、30年前の大規模展覧会だった。セゾン美術館開館記念として開催されて、「接吻」が表紙にもなっている図録の展覧会。覚えがある人もいそうだ。
今回の展示は油彩画が25点以上とのことで、国内での展覧会では過去最多とか。クリムト自体が主に受注による制作が多かったため、全作品数の少ない画家であり人気もあるので、日本に集めるのが困難なのだとか。
クリムトの一番有名な「接吻」は、もはや国外持ち出しは不許可らしい。今回は見ることができない。オーストリアの「ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館」に行かないと見ることができないのだ。
クリムトは他の作品で国と作品の持ち主との裁判があったのが有名だ。いずれにせよクリムト作品は、日本で見られる時に見ておくことをおすすめする。この展覧会は東京の後、豊田市美術館でも行われる。
油彩画が25点以上といっても、東京都美術館の規模では何フロアにも分けて作品を展示できるのか? と思うのが普通ではないだろうか。
今回は家族や仲間の写真、同時期に絵画を習得し活躍した画家仲間の作品、影響を与えた外国の美術品などが、数多く一緒に展示されていた。巨大な壁画「ベートーヴェン・フリーズ」の原寸大複製作品もある。
●若き時代のクリムト
ウィーンの工芸美術学校時代の作品からその才能は力強く、写実の腕の確かさが感じられた。グスタフ・クリムトは、工芸美術学校の親友フランツ・マッチュ、弟のエルンスト・クリムトと、芸術カンパニーを学生時代に設立する。
その後20年近く作業を共にするが、大学教授となってアカデミックな制作を続けたマッチュと、分離派を設立したクリムトでは方向性が変わってゆく。
その後、仕事を共にしていた弟の急死というショックな出来事と、同じ年に父をも失い、創作意欲をなくす数年間があったようだ。
クリムトの作品というと、女性がモデルのものをイメージする。芸術目線でも男性目線でも、女性が大好きだったようである。複数のモデルとの間にはたくさんの子供がいたそうだ。
しかし、後に母や妹と共に暮らした女性とは、生涯プラトニックな関係だったという。この女性が「エミーリエ・フレーゲ」だ。この関係がどんなものだったか、絵や手紙の展示で展開されていた。
●最愛のパートナー
この女性は、私が展覧会で印象に残った作品に描かれている女性でもある。「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」のパステル画だ。生涯を通じて心の通じたパートナーの女性。
厚紙に描かれたパステル画なのに、本当にリアルで美しい肖像画だ。目のまつ毛まで鮮明で肌の質感は滑らか、まとめられたフワフワの髪。
金色に塗られた木製額には、日本美術から影響を受けた花々がクリムトによって手彩色されている。私の個人的感想では、これはもう、好きな女性を描いた絵でしょう。
クリムトの弟エルンストがエミーリエの姉ヘレーネと結婚したことで、親戚付き合いが始まる。しかしエルンストは結婚後一年で亡くなってしまう。
エルンストには誕生して間もないの女の子がいたが、この姪の後見人をクリムトとエミーリエは共同で引き受けたのだ。
これまでは生涯プラトニックな関係だとされてきた二人。
しかし2000年に研究者によって発表された手紙には、クリムトの親密な恋愛感情が書かれており、偽名まで使ってそれを隠そうとしているという。
展示されていたエミーリエ宛ての手紙の中には、ハートを矢で射抜かれたイラストが描かれており、そこに恋愛感情があると見てとることができる。
帰宅してから図録の文章を読んでみると、エミーリエがクリムトからの手紙を洗濯カゴがいっぱいになるほど持っていたが、亡きクリムトへの敬意からすべて破棄したという話もあるそうだ。しかしなぜかいくつか残った手紙。
図録には、展示されていた7通のクリムトからエミーリエへ宛てた手紙の「全訳」が掲載されていた。これが長いけれど、非常に興味深い。
クリムトが、旅行でエミーリエと離れている時の出来事を、事細かに報告しているのだ。ラブレターの全訳を公開されてしまうとは、偉大な人物って辛いものだ。
●印象に残った作品
他に印象に残った作品について書いておく。
「ヘレーネ・クリムトの肖像」
母親と同じ名前をつけられた姪のヘレーネは、クリムトのモデルもつとめ、ボブカットの横顔作品として展覧会に出品されている。
こちらの絵は油彩なので、顔の描写にその後のクリムトの女性画に見られる特徴が表れている。目の辺りに青の絵の具の重なりが感じられ、髪や洋服の描かれ方と全く異なる。女性の肌の、色や質感への興味が強いことがわかるのだ。
「ユディト I」
クリムトの代表作の一つで、今展覧会のポスター、図録の表紙になっている作品だ。クリムトらしさが全部入りの作品。実際にこれは素敵。色っぽくて、綺麗で、怖い。
金箔は装飾的効果が高く、パーンと出て見える強さがある。空間描写には向かないけれど、細かな植物の模様を入れることで、画面に抑え込んでいるように見える。
ゴールドに囲まれた女性のたっぷりの髪の毛の黒。これも力強く、絵の印象を作り出している。その黒髪に囲まれた女性の顔は、口と眼が半開きで、手には男の生首を持っている。
これは旧約聖書外伝の一場面を主題にしたもので、敵陣の司令官を誘惑して酔い潰し、その首を切り落とした女性がモデルになっているという。
生首は右下に暗い色で半顔が描かれているので、一見すると美しい女性像だけに見える。先に述べた女性の髪の毛量で、男の首が目立たない効果もあるかもしれない。絶妙なバランスなのだ。
女性を愛し魅力を描き、その絵が女性から愛されているクリムト。会期は残りわずか、梅雨のお出かけには美術館も良いですよ。
【武田瑛夢/たけだえいむ】
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/
・クリムト展で購入した展覧会グッズたち。
いつも買うクリアファイルと、ガチャポンのピンバッジ。缶バッジよりピンバッジが好き。金入りの袋は、「クリムトの金のゼリー」。金色のお菓子は数種類あって、なんとなくこれにした。
中には小包装の四角い透明イエローのゼリーが入っている。金色の味の正体は、パイン味の寒天飴かな。なかなか美味しくて、執筆中の糖分として有り難い。