わが逃走[15]夢見がちな人生の巻(その2)/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,400文字)


最近仕事が忙しく、寝る暇もありません。今こうして原稿を書いているのも、掲載当日の未明だったりします。本当に寝る時間がないのです。

こういった状況が続くと、つい不健康自慢が始まってしまうのが世の常でして。睡眠時間の少なさを競っているうちはまだいいのですが、そのうち倒れた回数や持病を語りはじめ、しまいには内ポケットから薬を取り出して並べはじめるなどというシーンに出くわしたりするのです。私も会社勤めをしていた頃、上司がニトログリセリンを机に並べはじめたときはビビリました。

そんな訳で、無理をしてはいい仕事はできません。ここはひとつ、疲れたら寝る。結局、徹夜なんかしたところで効率はたいして上がらないのだから、上手に時間を使い、30分でも一時間でもいいので寝る! ということにしようではありませんか。

なので、とっとと書いて私は寝ます。今回は短いけど文句いわないでくれ、ノーギャラなんだしさ。

さて、寝るといえば夢。

好評だった(かどうかは誰も知らないが)「夢見がちな人生」第二弾ということで、今回も過去に見たイカした夢をご紹介いたします。なお、この夢は当時読んでいたみうらじゅん先生の名著『DT』に多大な影響を受けていると思われます。


●竹輪(2006年)

最近変な夢を見る。しかもエッチな奴をだ。
最初は、橋の下でエロ本を拾う話。
期待に胸を膨らませページをめくろうとするのだが、風雨にさらされていたせいかページがくっついてしまっていて中を見ることができない。
なんとか開くことができても、肝心なところが破れてしまう。
どうにかしてページを剥がすことはできないか、と周りを見渡すと、アイスの棒が落ちてる!
それをペーパーナイフのように使ってみると、おお、うまく剥がれた!
よし、見るぞー、というところで目が醒めた。なんてショボい夢なんだろう。

極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に話すと、「がはは、己の小ささが表れてるわい」と一笑に付されてしまった。

その後も似たような夢を何度か見たのだが、その日ようやく生身の女の子と“いい仲”になれる展開のものを見ることができた。ところが順調にデートを重ね、いざお床入り! となったところでまた話がおかしな方向に。

その娘のパンツを脱がしたら、なんと股間にチクワのようなものがついている。
一応生殖器らしいのだが、女性のそれではなく、チンチンとも違う。
私は一瞬固まってしまい、
「あの〜、これは何かな?」と間抜けな声でたずねると彼女は急に怒り出し、
「ひどい! ひとが気にしていることをそんなふうに言うなんて」と言い残し円盤に乗って帰ってしまった。
「あ、待って。俺が悪かった」と小さくなってゆく円盤をいつまでも見上げている俺。
一方で冷静に(チクワってことは穴があいてるよな。てことは挿入も可能じゃん。なんとか機嫌を直してもらおう)と前向きなことを考えている……
というところで目が醒めた。

極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に話すと、「がはは、そこで挿入してたらきっとチクワの中に吸い込まれて異次元空間をさまよい続けることになってただろうよ。おしとどまって正解だったな」と言われ、「なるほどねえ」と妙に納得してしまったのでした。(竹輪・完)

●豆腐(2006年)

北陸のとある漁村にいた。

デザイナーとしてやっていけなくなった俺は職を転々とし、いまはこの村で豆腐を売ってなんとか生計を立てていた。
毎日自転車で売り歩く。豆腐を収めた水槽を荷台にくくりつけ、冬の向かい風に耐えながら必死でペダルをこいだ。
こいでもこいでも進まない。それはまるで人生を象徴するかのようだった。
かじかんだ手にラッパをにぎりしめ、「ぽーふー」と吹く。寒い。
でも、生きて行くためには、こうするしかなかった。

豆腐売りとは接客業である。だが俺は極度の対人恐怖症だった。
なるべく人通りの少なそうな寂しい道をえらんでラッパを吹いた。
「ぽーふー」。
するとその時、ブロック塀の影から主婦らしき女性が現れ、俺に向かって「お豆腐屋さーん」と呼びかけるではないか。
「見つかった!」
動揺しつつも俺はその声に気づかないふりをし、猛ダッシュをかけた。
無我夢中でペダルをこいだ。

どれくらい走ったろうか、気がつくと住宅地を過ぎ、俺は見知らぬ公園に立っていた。ちょうどいい、一休みしよう。
豆腐入りの重い水槽付自転車にスタンドをかけ、やれやれとベンチに腰を下ろした。すると……
なんと恐ろしいことに、私の周りを10人もの主婦がで囲んでいたのだ。
口々に「木綿一丁と油揚げね」「私は絹ごしとがんも二つ」などと言いながら俺との距離を狭めてくる。恐い!!
だがもう逃げられない。俺は必死で豆腐を売った。だがこんな状況で対人恐怖症の俺が冷静でいられるはずがなかった。当然手際も悪くなってくる。
「ちょっと! おつりが10円少ないわよ!」
「ねえ、あたしの注文の方が早かったのに、なんであの人の方が先なわけ?」
主婦達が口々にクレームを叫びながら、さらに俺との距離を狭めてくる。
逃げ場はない。だめだ…もう限界だ。

俺は豆腐の入った水槽の底にある自爆ボタンを押した。
スローモーション。
目の前の景色がゆっくりとハイキーになり、そして、
真っ白になった。

うなされていたところを、極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に起こされた。今見た夢の話をすると、
「実は今ハワイでサーフィンしてる夢見てたんだけど、君がいないなーと思ってたんだ。なんだ、北陸の漁村なんかにいたのか。どうりでなあ」。(豆腐・完)

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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