わが逃走[277]線路っ端散歩の巻
── 斎藤 浩 ──

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経済と感染防止の両輪で、とかよく聞くけど、国民あっての経済だろう、両輪という表現には納得いかんな。
とか考えつつ世田谷線沿線を3キロほど歩いた。

なぜ歩いたかといえば、電車賃をケチるためと、健康のためというか、もうすぐ健康診断なので、運動するふりをしたくなったからだ。

この一年、会議も授業もぜんぶリモートだったので、仕事にまつわる移動がほとんどなかった。





原因はそれだけじゃないだろうけど、数か月前から腹の肉が増えてきたように思えてきた。しばらく放置していたら、つかめるくらいに育ってきたのだ。よく浮き輪にたとえられるアレだ。

久々に体重計に乗ってみるも、体重自体は変化していないようだ。ということは、少ない筋肉がさらなる贅肉へと変換されているのだろうか。

家を出て踏切を渡り、前々回に紹介した阿部定物件を見舞う。コンクリート柵のてっぺんは相変わらずちょん切られていたが、今日はここにオシャレなスニーカーがディスプレイされていた。
無事持ち主のもとに帰ったかな??

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春の線路っ端というのは雑草がたくさん生えてくるので、なかなか風情があって好ましい。

私はいわゆる観賞用の花より雑草が好きなのである。まあもともと花ってものは人間でいうと生殖器なので、それを鑑賞すると思うとなんだか恥ずかしくなってしまうのだが。

春の線路っ端の雑草はバラストや枕木の褐色と新緑の緑、そこに群生する彩度高めのドットとのコントラストがとても美しいと思うのだ。

ふと足元を見ると、紫色のドットが複数連なっている。なかなかカワイイ。アプリで調べてみると、「ムスカリ」と表示された。

ムスカリは園芸種だそうで、だとするとこういう場所に咲いているのも不思議な感じだが、引きで見たときの色彩がなんとも風流で、雑草のように美しいと思うのだった。

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駅を越えてさらに歩く。すると、コンクリート柵のてっぺんの棒が、まだ阿部定物件になっていないではないか!

駅のこっち側はなぜか無事だったとみえる。元気に屹立する者、ナットつきの者、ふにゃっと曲がりつつも前向きに生きようとしている者など、どれも個性的で面白い。

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さて用事を済ませ、同じ道を帰る。陽も傾いてきたが、まだ明るい。線路の反対側にハナニラが咲いていたので、踏切を渡って見に行った。この花も線路によく似合う。

線路といえば、この花か、もうちょっと後に咲くダイコンバナだ。

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ダイコンバナは、錆びた廃車にもよく似合う。

昔は空き地にナンバーの外された軽トラや乗用車が放置されていて、よくそこで遊んだものだが、そういうのは最近あまり見かけなくなった。

子供の頃のスリコミなのか、どうも私は錆び色と緑・紫の対比が好きなようだ。

その頃から、雑草だらけの庭に錆びたフォルクスワーゲン・ビートルを放置して、朽ちてゆく姿を定点観測したいと思っていたが、いまだ同じようなことを考えている。

価値観とは変わらないものかといえば、そうでもない。

以前も書いたが、私は幼稚園に入る前から女子高生が好きで、高校生になっても女子高生が好きで、大人になっても女子高生が好きだったが、最近は女子高生よりもむしろ、女子高生のコスプレをした三十女に魅力を感じている。

そう考えると、作為によって生まれた錆びに無作為を見出し、そこに華を感じる時がいずれ来るのかもしれない。

さてダイコンバナを引きで見てみる。実はこの道、このあたりの線路沿いで最も狭くなっている場所なのだ。
昔はこの場所に踏切があったのか?

もともとこの線は路面電車なので、軌道と道路が曖昧のままある日突然こうなったのか? 50年くらい前の地図を見ればわかるかもしれん。そのうち調べてみよう。

この辺りは一方通行や行き止まりが多く、パトカーに追われてもここに入り込めば逃げられるかもしれないと思っている。脇に少し前まで住宅が建っていたはずだが、いつのまにか更地になっていた。

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ホントに日が伸びたなあ。
私は夏が嫌いなのだ。暑いから。
暑い夏が来る前に、もっと自由に出歩ける日常が訪れることを切に願う。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。