わが逃走[275]線路脇阿部定物件の巻
── 斎藤 浩 ──

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線路脇によく見かけるコンクリートの柵のてっぺんには、なぜか直径6ミリの錆びた金属棒が飛び出ており、それらにはネジが切られている。

妙にカワイイなあと思っていたのだが、そんなことはすっかり忘れて数年が経過した。

先日観察してみると、なんとネジが短くなっている! ような気がする!!

以前は少なくとも10ミリは飛び出ていたはずなのだが、どうも3ミリ〜5ミリ程度になっている。

陥没したのか? そんなわけないよね。では切られてしまったのか。





ちなみになぜ直径6ミリであることを知っていたかというと、私は穴を見るとつい棒を差し込みたくなるというか、この場合は棒を見たので穴に差し込みたくなり、手頃な穴を探したところ、所持していたカメラの三脚穴がちょうどいい大きさだったので試しに入れてみた。

するとぴったりだったのだ。三脚穴の直径は6ミリ。

しかしその後、抜けなくなり取り外すのに苦労した。そんな思い出が走馬灯のようによみがえったのです。

改めて観察してみる。いずれもかなり短い。やはり切られてしまったのだろう。

こんなに短いと、穴に差し込みたくなる衝動も薄れるといえよう。

立ち居振る舞いも、以前はもう少し堂々としていたのだが、なにか寂しげな佇まいである。

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さてこのネジ棒、カットのされ方にもバリエーションがあることが判明した。

これは強引に曲げられた末、地面に対して水平に切られたもの。即ち軸に対してナナメに切られている。これは痛そうだ。痛そうな印象とは、断面積に比例するのかもしれない。

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かわいそうになって日々見舞っていると……。

曲げられただけでなんとか逃げおおせたヤツを発見した。とはいえ、頭ごなしに、これでもかというくらい叩きのめされている。

「大丈夫か」
「立ち直れない」

棒はそう言わなかったが、ここで脳が40年ほどタイムリープし、小学4年生のハヤトくんが、もんた&ブラザーズのものまねを披露した後、「“ダンシング・オールナイト”の部分を“立ち直れない”って歌うのがコツなんだ」と教えてくれたことを思い出して、なんとも懐かしい気分になった。

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数日後、比較的若いヤツ(錆びついてない)が存在することがわかった。しかも魔手から逃れ、曲げられただけでなんとか切られずにすんでいる。

このまま毎日少しずつ起き上がり、3年後くらいに直立していたら、さぞ驚くことだろう。

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【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。