わが逃走[278]ゲッターロボを思い出すの巻
── 斎藤 浩 ──

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感染拡大に対するエライ人のコメントが「想定外です」だったことに驚いたが、改めて考えてみると周囲はみんなイエスマンなわけだから、ウソはついてないのかもと思い直し、やりきれない気持ちになった。

そんなときは現実逃避に限る。久々にアマゾンナントカビデオのリストを見てみると、なんと「ゲッターロボ」があるではないか!

「ゲッターロボ」は私が幼稚園に入るか入らないかの頃、大好きだった番組だ。当時はまだアニメという言葉はなく、テレビ漫画と呼称していた。

原作は「マジンガーZ」と同じく永井豪だが、幼稚園児にそんなことは知る由もない。





マジンガーZは(アシュラ男爵が)コワかったのでテレビから離れて見ていたけど、ゲッターロボは明快なキャラクターとメカの魅力で、テレビにかじりついて見ていた。

ゲッターロボは合体メカの始祖的存在で、3機のゲットマシンと呼ばれる飛行機・イーグル号、ジャガー号、ベアー号の組み合わせにより、特徴の異なる3種のロボット・ゲッター1、ゲッター2、ゲッター3に「チェンジ」する。

この変形・合体がものすごくおおらかなのだ!

変形・合体というよりも、モーフィングに近い。飛行機が膨れ上がり、どう見ても格納されているはずのない腕や脚が生えてくる。

しかし、当時はみんな「そういうもの」として捉えていたので、まったく問題はない。変形合体の矛盾点を突かないことこそ、テレビ漫画を見るときの作法だということを、こどもはみんな知っていたのだ。

この作法は「ターミネーター2」の液体金属ロボットという設定が現れるまで、綿々と受け継がれていったはずだ(「コン・バトラーV」や「バルキリー」についても語りたいが、それはまたの機会に)。

そしてこのゲッターロボ、それぞれの得意技はもちろん、どの機体がどの部分を担っているのかが伝わるなど、記号性を伴うデザインが実に魅力的だったのだ。

イーグル(赤)、ジャガー(青)、ベアー(黄)には、それぞれ熱血漢、ニヒルなやつ、デブの3人が乗る。
ゲッター1、ゲッター2、ゲッター3にも、そのキャラクターが投影されるというわかりやすさ。

ゲッター1(頭部がイーグル、腹部がジャガー、下半身がベアー)は、熱血漢の主人公・リョウが操縦するヒーロー然としたロボで、わりとどうでもよかったのだが、ゲッター2(頭部がジャガー、腹部がベアー、下半身がイーグル)が、とにかくカッコいいのだ。

ニヒルなやつ・ハヤトが操縦するゲッター2は、シュッとしたプロポーションで、サイボーグに例えれば002、科学の忍者に例えればコンドルのジョー的存在で、空でも飛びそうな印象にもかかわらず専門ジャンルは地中。

腕がドリルなのだ。
腕がドリル!!!
このカッコよさはどうだ!
もう一度言う、腕がドリル!!!

スマートなプロポーションと、地中専門という地味さのギャップ。空を飛ぶように穴を掘って進むゲッター2に、幼稚園児の私は惚れ込んだのだった。

不二家パラソルチョコレートを見たら、ゲッター2のドリルを思い出すほど好きだった。

そして迫力あるゲッター3(頭部がベアー、腹部がイーグル、下半身がジャガー)!! 柔道家・ムサシの力強さを印象づけるデザインは、おそらくガンタンクにも影響を与えたであろう。

特筆すべきはジャガー号の役割だ。飛行形態では3機のゲットマシン中、最もスマートで速そうに見えるシャガー号が、ゲッター3の下半身となるときには両脇からキャタピラが生えて全体が膨れ、巨大な上半身をがっつりと支える土台となるのだ。

まるで、F14トムキャットが超大型ブルドーザーに化けるかのような、変わり身っぷりなのである。この二面性に並々ならぬ魅力を感じたのだった。

80年代に入るとリアルな設定を求めすぎた結果、アニメのキャラクターデザイン(メカデザインを含む)から明快さが失われた時期があった。

『Zガンダム』などは、敵と味方のデザインが入り乱れ、ただでさえ難しい設定がよけいわかりにくくなったように思う。

キャラクターデザインとはストーリーを伝えるための記号なんだということを、ゲッターロボから改めて感じたのであった。

三つ子の魂百までというが、今でも一つの画面に相対する要素を同時に表示したがったり、ビジュアルと真逆のコピーを配置したがったりと、ゲッターロボから受けた影響は本業に活かされているといえよう。

美は対比と調和にあり。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。