わが逃走[274]年末年始の文京区を散歩する の巻
── 斎藤 浩 ──

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12月のある日、とくに理由はないが根津あたりで電車を降りて、歩くことにした。
天気もよく、気温もそんなに低くない。散歩日和である。

この国はなぜかスクラップ・アンド・ビルドが好きなようで、少し前まで存在していたものが景色ごとなくなっている、なんてことが頻繁にある。

とくにオリンピックを口実にした開発が、より一層風景をツマラナイものにしているように思えてならない。
そんなことばかり考えていると、テンションも落ちてくる。いかんなあ。などと思いながら青空を見上げると、昔からそこに在り続けているっぽい住宅の壁が目に入った。

物干し竿と戸袋に落ちる影。気分が盛り上がってくる。イイねえ。
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物干し竿も戸袋もどこにでもあるものだと思ってはいけないし、いつまでもあるものではない。こういう当たり前のものを、そのときの光で目にする喜びを日々感じていかねばならんと思う。

たまたまそこに、その時間に居合わせた偶然がもたらす普通の風景を記録できる、カメラという機械は実に楽しい道具だなあ、と実感するのだった。

歩いて、コーヒーを飲んで、大通りに出てまた歩くと「!」と思わず立ち止まり、さらにそれをじっと見る。

こ、これは間違いなくトマソン! しかも2連トマソンである。
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写真右が純粋階段、左が庇物件。かつてここには扉が2つ並んでいたようだ。それらが丁寧にコンクリで埋められ、階段と庇だけが残ったようだ。

この辺りは比較的よく歩いていたのだが、全く気づかなかった。階段に角材が設置されているのは露店の支えとするためのようなので、何もないときの状態を撮影すべく、また近々訪れてみたいと思う。

さて、少し移動して御茶ノ水付近。オリンピック(?)に向けて、味わい深かった駅舎の建て替え工事も着々と進んでいる。

聖橋から東を見ると、中央線、総武線、地下鉄丸ノ内線などが橋やトンネルを立体的行き来する風景が見られる。さながら鉄道模型のレイアウトのようで見ていて飽きない。

地形、高低差など「引き」の構成をめでるのも楽しいが、ディテールに「寄って」みるのも楽しい。見慣れた景色からも、さまざまな発見がみられるのだ。まずはコレ。
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丸ノ内線の上り線と下り線の境界を行き来するための穴。ここを人が通り抜けることはめったにないと思うけど、めったにないときのために設計、デザインされている。

もしかして、聖橋のアーチを意識しているのか?? 隠れ分離派?? などと考えてみるのも楽しい。

そしてコレ。
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業務用の物件は使い手に対し過保護すぎず、だからなのか面白い造形が多い。この線路ぎわのハシゴから繋がる階段も興味深い。

全段高さが異るだけでなく、2・3段目を中心に1段目が左にずれ込み、4段目は右に寄っている。こんど行ったら、もう少しわかりやすい写真を撮っておこう。

ちょっと湯島の方へ戻って実盛坂を見る。
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久々に訪れたこの階段も、周囲が激変していてびっくり。隣にマンションが建つみたい。少し残念な気もするが…。

ちょっと歩くだけでも、いつも歩いている場所でも、景色は常に変わるし、それだけ発見がある。それに気づけるってことは、けっこうシアワセなことなのかもしれないなあ。てなことを思うのだった。

密を避ける生活はまだまだ続きそうだけど、地道に楽しくいきたいと思います。今年もよろしく。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。