わが逃走[23]尾道とカメラの巻/齋藤 浩

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1◎持って行くデジカメで悩む

大林宣彦監督の『転校生』直撃世代のオレにとって、やはり尾道は特別な場所だ。先日、ひょんなことからその尾道へ行くことになった。実に18年ぶりのことである。

18年前は、あえてカメラを持っていかなかった。“聖地”の風景を脳に焼き付けるためだ。青い少年の心がそうさせたのであろう。今思い返しても、まあその気持はわかる。

今回はもうオトナなので、デジカメを持って行くことにした。で、悩んだのがどれを持って行くかだ。


●悩むその1 一眼レフ?

仕事ではキヤノンのEOSを使っている。あたりさわりのない優等生カメラだ。失敗がなく確実、という意味で非常に重宝している。ただし、気をつけないと何事もカメラ任せになりすぎてしまい、油断すると自分が撮ったんだかカメラが撮ったんだかわからない絵になってしまい、それなりに気をつかう。

●悩むその2 コンパクトカメラ?

リコーのGX100は、デジカメという以前にきちんとカメラなのである。操作感も秀逸で、楽しく写真が撮れる。画像データではなく、“写真”が撮れるのだ。これはスゴいことです。正方形や3:2など、フィルムを意識したフォーマットを選ぶことができるし、なにより24mm〜72mmという広角に強いズームを搭載している点がイイ。

小さくて軽い。旅カメラとして文句のつけどころがない。という訳で、出発前日までこれを持って行こうと思っていたのだが。

●結論 レンジファインダー

結局持って行ったのはエプソンR-D1というカメラ。だって尾道の写真が尾道っぽく撮れそうなんだもん。なんでだかわからんのだが、こいつはすげえ写真が撮れる。その場所の空気まで撮れる気がするのだ。

昨年、オレにとって衝撃的な事件があった。レンジファインダーカメラ『BESSA』との出会いである。ひと言で言えば古くさい機械なんだけど、目からウロコを落とされたと言ってもいい。

ピントも手動、露出も手動。電池がなくたって撮影できちゃうフルマニュアルのカメラが、なまっていた“身体で撮る”感覚を思い出させてくれたのだ。R-D1は言わばこれのデジタル版だ。もちろんBESSAのレンズがそのまま使える。

こういう、物好きしか買わないようなモノは往々にして高価なのだが、ちょうど去年の今頃、熱病にうなされるがごとく後先考えずに勢いで購入したのだ。という訳で、持ってくカメラは決まった。

●レンズで悩む

次に悩むのは、どのレンズを持っていくかだ。このカメラはライカのMマウントと互換性があるので、古今東西のあらゆるライカ用レンズが使えてしまうハマると恐ろしいカメラなのだ。ちなみに私の持っているレンズは12mm、21mm、28mm、40mm、50mm、75mm。いずれもBESSA用に開発された高性能かつリーズナブルな国産レンズだ。

ちなみにライカ製のレンズはこの5倍〜10倍くらいの値段。それって、オレの持ってるレンズと値段以外にどう違うのか。答えを知ってしまうと、なんか危険な気がするので、知ろうとしないオレなのさ。

さて、尾道は細いくねくねした坂道の周りに日本家屋が密集しているような町なので、やはり広角レンズじゃないと風景が入りきらない。という訳で、広角寄りの3本、12mm、21mmと28mmを持っていくことにした。R-D1は焦点距離が35ミリカメラの1.5倍になるので、それぞれ18mm、32mm、42mm相当の画角となる。超広角、広角、準広角の、程よいバランスなのではなかろうか。

2◎撮影で舞い上がりっぱなし

で、尾道に着いた。もう、どこをどう切り取っても絵になるという美しい町だ。駅前や港付近は再開発が行われたようで様変わりしていたが、商店街も山側の住宅地も18年前と印象はそう変わらない。

なんだかもう、嬉しくなってしまい片っ端からシャッターを切った。舞い上がってしまったせいか、画面に落ち着きがない。いつもならアートディレクター脳がフォトグラファー脳を指示しながら冷静に撮影するのだが、ここでは無理だな。

階段の脇に生えている雑草から、土塀に入るひび割れまで、もう全てが美しい。ああもう思い出すだけでまた行きたくなってきた。冷静に語るのが難しくなってきたので、とりあえず撮った写真をお見せします。

・猫道。尾道はこんな道だらけです。


・塀と階段。無作為の美。


・壁。こういった幾何形態的美しさも、ちょっと探せばたくさん発見できる。


・『転校生』の階段。ぜんぜん変わってない。


・西洋建築。電線の影もが美しいと思った。


・急斜面にへばりつく木造家屋。神がかり的な構造美を感じました。


3◎尾道はフィルム向きだった

ようやく落ち着いてきた。そうしたらスゲエ重要なことに気づいたのだ。なんでフィルムで撮らなかったのか?

非常に基本的かつ単純な疑問である。自分でも何故かはわからない。尾道ってどう考えてもフィルム向きだよなあ。

てな訳で、次に行くときは絶対フィルムで撮ろうと決意いたした次第。観光でも仕事でもなく、写真撮影という目的で、再度尾道を訪れたいと思ったのであった。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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