わが逃走[32]違和感を覚えるメニューの魅力と注文する勇気の巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,400文字)


齋藤浩が書きたい事をだらだら書くだけの『わが逃走』ですが、今回は特にだらだらです。

昨日、東京に向かう飛行機の中で、必死にこの連載のためのネタ出しをしたのですが、そこで出た案は全てボツにしました。特に理由はないのですが、なんつーかこう、ダラダラしたものを書きたくなってしまったもので。という訳で、だらだらと脈絡のない話を簡潔にまとめました。ダラダラ。



1■ギャップによる“つかみ”

「広告とはキャッチ力とメッセージ力である」とは、コピーライターのT氏より学んだ言葉だ。

不特定多数の人々を振り向かせる力。そして、振り向いてくれた人に対し、情報を伝える力。人々をいかに効果的に振り向かせ、伝えるか。その工夫をする人がデザイナーだったりコピーライターな訳だ。

で、デザイナーの私は普段から、なにかってーと人を振り向かせたり伝えたりする方法を、ぼーっと考えていることが多い。ポスターや看板、本の表紙や商品パッケージはもちろん、道の形や川の流れ方、食べ物の味、ひとの仕草に至るまで町中で気になったものは一通り「何故これは私を引きつけるのか」を考えてみるのだ。

色彩が美しい、形状が奇抜など、それらにはさまざまな理由があった。しかし中でも最も私を引きつけたものたちには共通な理由があった。『ギャップ』である。

例えば、エロ本。私はエロ本が好きだ。インターネットで画像も動画も簡単に手に入る昨今だが、印刷物として供給されるエロ本の持つワクワク感、ページをめくるときのドキドキ感はエロ本ならではの価値と言えましょう。

さて、いかがわしい書店に平積みされているエロ本の中で、「これは!」と私が思わず手をのばしてしまうものには共通項があった。それは、表紙の女の子がカワイイという点である。なーんだ、などと思ってはいけない。その構造を検証してみよう。

エロ本とはその名のとおりエロい本である。「こんなカワイイ女の子がなぜこんなエロい本なんかに??」と思ってしまい、「何かの間違いじゃないか? よし、確かめてみよう。」と手にしてしまう。今風に言えば“ギャップ萌え”の構造が私を引きつけている。

つまり、自分の固定概念に対する心地よい裏切りが、そのものを当たり前の存在から気になる存在へと昇華しているのである。その他にも「レンジファインダーなのにデジカメ」のEPSON RD-1や、「2ドアみたいな4ドアスポーツ」マツダRX-8など、同じ魅力の構造をもつものは多い。

2■ギャップと食の関係

さて、こんな話を書いていると,他にもギャップによって振り向かされた例はないかなー、などと考える。で、思い至ったのがシーチキンおにぎりだ。

私が物心ついた頃はまだ、おにぎりといえばお母さんの手作りが主流の時代だ。梅干、おかか、こんぶといったオーソドックスなネタを内包した各家庭独自の形状のものが、それぞれの家庭にのみ流通していたにすぎなかった。

ところが1970年代、セブンイレブンの国内展開により、おにぎりは手作りからコンビニで買うものへと急激に変化してゆく。そして、衝撃的に現れたのがこのシーチキンおにぎりなのである。

米にマヨネーズだァ? なんか気持悪ーい。最初は半信半疑だったが一度食べたら癖になる味だった。今ではすっかり定番メニューだが、最初にそれを知ったときの違和感たるや相当なものだったのだ。

このインパクト! 仮にシーチキンショックとしよう。これはデザインにおけるキャッチ力を考える上で、重要なヒントとなるのではないだろうか。などと考えていたら……。

3■違和感を覚えるメニューの魅力と注文する勇気

ここから本題。

先日沖縄で老舗沖縄そばの店に行ったところ、隣の客がソーキそばとライスを食べていたのだ。ソーキそばとジューシー(沖縄流炊き込みご飯)の組合せならわかる。しかし、ラーメンとライスの組合せさえいまだ違和感があるオレとしては、ソーキそばと白いごはんは軽い衝撃だった。

さらに隣のテーブルを見ると、ソーキそばとトーストのセットを食べてる若い女性2人組が! え? それってアリなんですか? まあタコスとライスでタコライス! の沖縄なので、多少違和感のある組合せでもすぐに馴染むといえば馴染むのかもしれない。

しかし、この組合せはモノがシンプルなだけに驚いた。ふと壁に掲げられたメニューを見ると、「ソーキそば」「三枚肉そば」の下に「ライス」「トースト」とある。うーむ、おそるべし沖縄。と思っていたら、さらに「スパゲッティ(トースト付)」の文字を発見。

素晴らしい出汁の味、やや太めの麺。さすが老舗と感動していたところにこれだ! この麺をケチャップでいためたものが出てくるのだろうか。それともごく普通の喫茶店のナポリタンなのか。

出汁の香りで満たされている南国の木造家屋で、喫茶店のナポリタンを出す意味も理解できず、沖縄そばの麺を使うことにこだわった自慢料理とも思えず。なぜそこにそのメニューが存在するのか意味がわからず、不安に陥ったオレ。周囲を見渡したところ、注文している人もいない

でも気になる。とはいえやはり注文する勇気はないなあ。沖縄まで来て、那覇から60キロも車で走ってたどり着いた沖縄そばの店で、しかも旅程における食事の回数には限りがあるのだ。そのうちの一つを「スパゲッティ(トースト付)」に充てる勇気はまだ私にはなかった。このまま一生、この店の「スパゲッティ(トースト付)」を食べずに私の人生は終わるのだろうか。ああ気になる「スパゲッティ(トースト付)」。

まあ落ち着いて考えてみれば、そういったメニューはけっこうあるのだ。ポピュラーな例でいえば、回転寿司のプリンがそう。以前プリンの旨い回転寿司屋があるということで、千葉の漁港付近まで行ったことがあるのだが、確かに旨かったが(当然寿司も旨かった)、やはり注文するのにそれなりの勇気が必要だった。

板さんに「あのう…プ、プリンを」と小声で言うと、でかい声で「はァい、プリン一丁!!!」と叫ばれ、奥にいる従業員も「はい、プリン一丁!!!」「プリン一丁!!!」と大声で復唱するのだ。寿司屋中の客の目が一斉にこちらに向いたような気がした。実際プリンは旨かったのだが、落ち着いて食べられたかといえば、そうでもなかった。

また、実家近くのラーメン屋のチキンライスも気になる存在だ。30年以上気になっているのだが、まだ食べたことがない。ラーメン屋の米モノといえばチャーハンと相場が決まっているのだが、その店には昔から壁に貼られた短冊の一つに「チキンライス」と書かれているのだ。

いわゆるお子様が好きなケチャップ味なんだと思うが、やはりラーメン屋で注文する気にならないのだ。昭和っぽい金属のプレートに、楕円形の型でぽっこしと盛られたケチャップごはん。たまに思い出して想像するのだが、これも多分一生食べずに終わるのでしょう。

2週間ほど前に、元グラビアアイドルのデザイナー(20代・女性)と日本家屋を改造した素敵なおでん屋で一杯飲んだのだが、その店のメニューにも衝撃が。「たまご」「ちくわぶ」「がんも」などのメニューの最後に「クリームブリュレ」とあるのだ。

けっこう定番となっているらしく、女性同士の客が美味しそうに食べていた。デザートは別腹なオレだが、初めての店ゆえ躊躇してしまい注文できませんでした。おでん屋のクリームブリュレ。果たして今後味わうことができるのでしょうか、おでん屋のクリームブリュレ。語呂もいいですね。

てな具合でいろいろ振り返ってみると、ギャップ故に人を引きつけるメニューというものはけっこうあるもんです。なんだけど、そのほとんどはまだ食べていないので、結果報告ができないのです。

思わず振り向いてしまったけど、その結果何が伝わったかまでは不明のまま。という訳で、ここで唐突に終わります。

ダラダラと書きたいことを書きました。読み返してみると、ぜんぜん起承転結がないですね。デザインの話で立ち上げておいて、イロモノの話で終わってます。まあ許してください、ノーギャラで書いてるんだから。気が向いたら続きを書くかもしれません。ではまたお会いいたしましょう!

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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