わが逃走[39]夢の中で無駄に苦労するの巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,300文字)


うー。なんか最近、変な夢ばかり見るのだ。原因はきっと、あがた森魚に違いない。

先日、東京・九段下の由緒正しい帝冠建築・九段会館(旧軍人会館)にて開催された、あがた森魚還暦ライブに行ってきたのだ。

ちなみに帝冠建築とは、ファシズム全盛の時代に流行したわかりやすい建築様式で、洋風なコンクリート建築のてっぺんに和風の瓦屋根をのっけたスタイルの建築。

昭和9年築というその会場がなんといっても非常にディープ、当然内容もディープ。観客もディープで、年齢層も高い。ステージの上は超実力派ミュージシャンだらけで、まるで昭和の音楽史を見ているかのようだった。きっと伝説のライブということで語り継がれるステージだったに違いない。

と、それはそれでいいのだが、私はどうも濃厚な自分の世界をもっている人にふれると体調を崩す傾向にあって、たとえば横尾忠則氏の展覧会なんかに行ったりすると魂を吸い取られてしまうような感覚に襲われ、翌日は熱を出して寝込んでしまうことが多い。

今回のライブもまさにそんな感じなのだ。幸い熱は出なかったけど、おかしな夢を立て続けに見る。会場が会場なだけに、青年将校の霊でも連れて帰ってきてしまったのだろうか。



最初の夢は、尻の穴に電気スタンドのコンセントを差し込むと点灯するという、新製品の広告を作らなくてはならなくなった話。試すのは嫌だったが、発注主である広告代理店のクリエイティブディレクター(の役で夢に登場した、馴染みの飲み屋の常連客)ゆみさん(仮名)が「作り手が使ってみて商品の良さを理解しなきゃ、いい広告なんか作れっこないわ」と迫るので、しかたなく尻にコンセントを差し込み、苦痛に耐えながらスタンドの光り方を検証し、Macに向かって「もっとグラデーションを自然にしなきゃ」とか独り言を言いながら作業をしていると、いつのまにかメーカーの宣伝部の人が5人くらい集まっていて、背後から「違う! 違うよ!! あんたはこの商品のコンセプトを全く理解してないなあ」とか、「他にもデザイナーなんていくらでもいるんだよ」とか言いながらイライラしている。「もっと光らせるんだよ! 尻の筋肉を使え、尻の筋肉を!!」「はい、すみません、痛ーッ」と叫び、汗だくになって目がさめた。

なんか心が蝕まれているのではないだろうか。笑ってすまされないような鬼気迫る夢であった。

次の夢は、小田急ロマンスカーに乗って途中の駅で降りるというシーンから始まるのだが、オレは何故か水の入ったコップ(歯医者さんで使うような金属製のもの)を左手に持ち続けるという使命を負っているのだ。しかも駅に降りるには服を脱がなくてはならないというきまりがあり、仕方なくコップの水をこぼさないようにランニングシャツにパンツ一丁という情けない姿となってホームに降りた。降りて気がついたのだが、服と鞄と財布を車内に忘れてきてしまった。クレジットカードや免許証はもちろん、何故か印鑑証明や土地の登記簿まで入っていたのに。ふと隣を見ると、極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)が立っている。こっちはパンツ一丁だというのに、毛皮のコートなんて着て宝石だらけのゴージャスな出で立ちだ。不安にかられるオレに向かって彼女は「もう盗まれたも同然ね。あきらめなさい」とひとこと言うと、さっさと歩き出した。周りを見ると、いつのまにか作業服を着た中年男が大勢同じ方向に向かって歩いている。着いたところは河原付近の断層(?)で、縄文式土器を50倍くらいに拡大したようなパターンのでこぼこのある地形だった。そこでオレは彼らとともに黙々と化石を掘るのだ。周りの人達はノミ状の道具と小さなハンマーを使い、アンモナイトやら三葉虫を次々と掘り出してゆくのだが、なにせ私は左手に水の入ったコップを持っているので作業がはかどらない。えんえんと何年間も右手だけで化石を掘り続け、寒さに耐えながら徐々にやせ衰えてゆく…という内容。

もう、いい加減にしてくれと思う。何故こうも理不尽で不幸な目に遭わなければならないのか。

そして今朝みた夢が、日本軍占領下の中国でひたすら走り続けるというもの。どういう目的なんだかは知らないけど、軍の命令で中国の都市(たぶん大連だと思う)をずっと走り続けなくてはならない。一説によると、私の背嚢には新型爆弾が入っていて、止まると爆発するという。私は栄誉ある実験部隊に選ばれたらしい。その情報の真偽もわからないまま、ひたすらその都市を走り続ける。いつのまにか線路脇の道を走っていて、満鉄の特急「あじあ」号がものすごいスピードでオレを追い越していった。流線型マニアなオレとしては、その列車を牽引しているパシナ型蒸気機関車をじっくり見てみたいところなのだが、それどころではないのだ。そうこうしているうちに、前方に帝冠様式の建物が見えてきた。どうやらそこが目的地らしい。

で、ヘトヘトになった私は、最後の力を振り絞ってラストスパートをかけるのだが、いつまでたってもゴールに着かない。よくよく見てみると足下がベルトコンベアーになっていて、ちょうど私の走る速度に合わせて逆回転しているのだ。走りながら1987年の立花ハジメのライブのステージのようだ(ってわかる人は少ないでしょう)なんて思いながら、あー、もう疲れたー、もうダメだー、なんて思っていたら、突然コンベアーが逆回転して、こんどはスゲー勢いで景色が流れていく。周りをみると、片側4車線のベルトコンベアーになっていて、右側に行けば行くほどスピードが速くなる。隣の車線に移るには、単純に飛び移ればいいのだが、車線と車線の間には柱が何本も立っていて、タイミングをはずせば激突してしまう。で、2回目まではうまく車線変更できたのだが、3度目に電柱に激突、全身打撲で倒れる。幸い爆弾は爆発しなかったが、全身が火傷したように痛かった。というところで目がさめた。

こうも立て続けに理不尽で不憫な夢を見ると、こわくて布団に入れなくなってしまう。とはいえ、横になるとすぐに寝てしまうんだよね。困ったものだ。それにしても、オレは何故こうもバカみたいに、おかしな夢ばかりみるのでしょうか。

ちなみに過去に見たほとんどの夢の中で、私はあまりいい思いはしていません。ここ数年の間に見たものの中で最も不幸じゃなかった夢が『女にモテモテだった夢』なのですが、これには女性が一切出演しておらず、窓のない四畳半の部屋の中で、唯一の出演者である私が「今年はモテモテだったなあ…」と思い出してるだけのミニマルな映像です。もちろん回想シーンなど一切登場せず、ひたすら私が同じセリフを繰り返すというもの。

私の脳にはリミッターのようなものがついていて、煩悩が発生すると相反する効果をもたらす薬物が分泌されてたりするのかもしれません。

ちなみに私の知人である“会う度に連れの女が別人”の鬼畜青年X氏は、夢の中では自分がいちばんエラく、全ての登場人物をひれ伏させるのだそうです。こういうのって才能なのかもね。そういう奴に限って「好きな言葉は?」とか聞かれると「夢、です。」とか答えたりするんだろうな。あー、やだやだ。やはり性格というか、夢にも向き不向きがあるのかもしれん。

と、ここまでを極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に読んでもらったところ、「私は面白いと思うけど、悪い意味で変な人って誤解されやしないか心配。とくに最初の夢の話は全国のホモの人達が“この人は潜在的なものをもってるわ”って思うに違いない。あなた危険よ。危険すぎるわ」という感想を頂戴した。

以上が前置きというか世間話で、今回は「さらば、はやぶさ」と題しまして東京発の寝台特急が廃止になってしまったことを書こうかと思っていたんですが、気がつけばそれなりの文字数に達していたので、鉄道ネタはまたの機会にします。それではみなさん、よい夢を。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。