わが逃走[54]仕事で沖縄の巻/齋藤 浩

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10年前にちょいと訳あって本島北部にある某リゾートホテルに泊まって以来、沖縄はわりと好きな場所のひとつになっています。

その後も、今はなきJASの誕生日割引を使って毎年1万円で行っていたのですが、JASがJALと統合されると同時にこのサービスは廃止(JALってほんとヒドイ)、プロパーはさすがにツライので一時的に行かない年もあったりしたのですが、分相応で居心地もいい宿との出会いと「早割」等の出現により、ここ数年は秋になると沖縄に行って、2〜3日ゆっくりと流れる時間を満喫するというゼータクなことを続けていたのです。

で、今年はというと、なんと仕事で行ってきました。前日に決定して、翌日からカメラマンとモデルと3人で3日間撮りまくるという超ハードスケジュール。正直な話、以前から仕事で行けたらなーと思ったことはありますが、結論から申し上げると、沖縄は休暇に行くのが正解です。

という訳で今回は、『仕事で行く沖縄・青い海と白い砂浜2泊3日の旅』の、当たり障りないところを語ります。



1◎金曜日

プレゼンはすでに1か月くらい前には通っていて、実際に雑誌広告を作ることにはなってはいた。しかし、提案したいくつもの方向の中からどの案が採用されるかの返事は全く来ておらず、スケジュール的にも11月発売号への掲載はないなーなんて思っていたら、電話が鳴った。某広告代理店営業のS氏である。

「齋藤さん、沖縄ロケの話、アリかもしれません。至急段取ってください」
「マジで? 間に合うの?」
「マジです。間に合わせるのです。でも、まだ確定ではありません」
「確定するとしたらいつ頃?」
「月曜の夜にはなんとか」
「げえっ、月曜〜! それから撮影してデザインして入稿...って逆算したら、火曜には出なけりゃならんなあ」
「モデルとスタイリストとヘアメイクも予算的にキビシイのです」
「まあ、遠景に立たせるだけだから、モデルはなんとか素人でも大丈夫でしょう。ヘアメイクなし、スタイリストなし、衣装は私物で対応ってことになっちゃいますよ」
「なっちゃいますね。ということで、モデル探しもあわせてよろしくお願いします」
「はい、なんとかします」
と言って、電話を切ってしまってから青ざめた。なんとかなるのか????

まずはカメラマンの確保だ。この案件に関しては、いつもM氏にお願いしているので、速攻電話してみた。「火曜はキビシイかもー」的な話だったが、なんとか拝み倒してスケジュールを空けてもらった。

次にモデルである。それなりにスタイルが良くて、遠目に見てなんとかイケそうな若い娘リストを作成、片っ端からメールする。

「モデル募集。ただ遠くに立ってるだけ。どなたにもできる簡単なお仕事です。交通費・食事支給。撮影場所:沖縄。」

うっわー、胡散臭いですね。こんなメールで返事なんか来るんでしょうか。なんて思ってたら速攻で来た!!!!

薄情なもんで、いくらオレが「たまには飲みに行こうよー」なんて誘っても大抵はぐらかすか無視するかの娘達から「詳細求ム」のメールが次々と届く。一瞬、自分がモテてるんじゃないかと錯覚するくらいの、今までに経験したことのないケータイのプルプルっぷりだ。

「火曜から木曜まで。2泊3日。ただし決定は月曜夜。拘束時間:早朝から日没まで。ギャラ:xxxxx」

ここで大半が脱落。やはりスケジュールが急すぎるし、ギャラがxxxxxってのはねー。そんな中快諾してくれたのがU嬢。たまたまリストラされて有給を消化しなければならないところだったのだそうだ。しかも彼女はちょっとだけモデル経験もあるし、オレ的には実にラッキー。

しかし、彼女にしてみればけっこう切実な感じだろうし、手放しに喜んではいけないなあ、なんて思いながらも手放しに喜んでしまったオレ。よしっ。これで少なくともロケには行ける。

2◎土曜日・日曜日

ファッション雑誌を見ながら、こんな感じの服がいい的な話をメールにて。U嬢の私物で似たようなものがなければ、安くてそれっぽい服を購入してもらう。またロケ地をリストアップ、地図と写真を探して企画書を作成。沖縄で土地勘がきく場所というのは極々限られてはいるが、なんとかなるような気がしてきた。

3◎月曜日

明日出発ということで飛行機のチケットも確保、ホテルの手配やその他事務的な手続きも営業チームにしてもらったが、まだ行くかどうかの最終決定はなされていない。

夜、2泊3日撮影計画をクライアントにプレゼン。時間も時間なので、その場で沖縄行きは決定。ただし構図やシチュエーションに関してはできるだけ多くのパターンを、ということになってしまった。スケジュールとしては、火曜沖縄到着〜ロケハン、水曜撮影、木曜撮影〜沖縄出発。

会議終了後、M氏とU嬢に連絡。「明日沖縄行き決定。羽田に7:45集合ってことでよろしく」。

実に慌ただしい。事務所に戻ってレンタカーの予約。天気予報では台風が来ているようだが、明日にはどっかに行くだろう。別の仕事も残っていたのでなんとか片付け、夜明け前に荷造りを終えて仮眠をとる。

4◎火曜日

朝、羽田にて無事全員集合。搭乗後、シートベルトを締めた次の瞬間に沖縄にいた。ずいぶんとよく眠ったものだ。

那覇は暑かった。真夏である。空は見事に青い。もう、晴れてくれたというだけで気持が楽になる。レンタカーを借り、沖縄自動車道を北上する。この道路、那覇から終点の許田までストレスなく一気に移動でき重宝しているのだが、地元の人に言わせれば「高速乗っても国道とぜんぜんかわらないさー」なのである。都市部の渋滞を避けられるだけでも相当ありがたいと思うんだけど、複数の方が異口同音にそう言う。

オレの脳は東京時間を刻む癖がついてしまっているから、高速道路を便利に感じるのだろうか。そう思うと少々さみしいものがある。

伊芸PAにて昼食。実はここのレストランは隠れた名店なのだ。沖縄そばからタコライスまで、郷土料理が充実している。そしてけっこう旨い。しかも安い。私は煮付け定食を注文した。沖縄風煮付けと沖縄そばのセット。

旨い、実に旨い。ピリピリしていた脳がぽわーんと落ち着いてくる。見事な出汁パワーである。ふと窓の外を見る。空が青い。海が青いーというかバスクリン色。風もなく、波は穏やか。日差しはまぶしい。ああ、沖縄に来たんだなあとしみじみ思う。

高速の終点、許田から国道を通って本部町へ向かう。このあたり一体にロケ候補地が点在する。駐車場に車を置き、A地点からD地点までを歩きながらよさそうな場所を確認。木々の合間から見える海が美しい。

海沿いを30分近く歩いたところ、なんかもう、このまま本番イケそうな気がしてきたので急遽撮影しちゃうことにした。いわゆる夕焼けではなかったけど、空全体が淡い紫色に染まっていく感じが実に情緒的。

なんだけど、この情緒ってのがクセものなのだ。これが出過ぎると美しい写真にはなるかもしれないけど、広告の目的よりも情緒が主張されてしまうと本末転倒になる。このあたりが芸術とデザインの違いなのだ。

夕方の光は一瞬で変わる。その一瞬を見事にM氏は切り取ってゆく。さすがプロである。こういう姿ってかっこいいと思うなあ。成果はオレ的に想像以上であった。

空と海の境目がまだ淡いピンク色だが、もう周囲には闇が広がっていた。さて、これからホテルにチェックインして撮影データをまとめてリサイズ、東京のS氏にまとめて送らねばならんのだ。

A地点から車で15分くらいのところにそのホテルはあった。それなりに覚悟はしていたが、ひと言でいえば、こぎれいな"廃ホテル風ホテル"だ。チェックインしたけど、おそらく客は我々のみ。客室は悪くはないが、ボロいところはボロかった。

ツインの部屋を一人で使っているので、なんとなく独り言が多くなる。さて、先程の写真をまとめる訳だが、けっこうな量がある。M氏に来てもらって、一緒にあーでもないこーでもないなどと言いながらなんとか選び出し、まとめてメールで東京へ送る訳だが、当然『高速インターネット常時接続』なんてないから送信にはスゲー時間がかかる。5メガのデータを3回送るのに1時間以上かかってしまった。でもまあ、電波の届くところで良かったっす。

営業のS氏からの返事を待つ間に食事に行くことにした。このホテルにはレストランがないので、フロントに紹介してもらう。ところが夜の8時半ともなると、このあたりの店は(店自体少ないのだが)軒並みラストオーダーってやつで、やってる店が一軒しかないらしい。選択肢はない。我々はその店へと向かった。

その店はいわゆる"民謡居酒屋"というやつだった。到着したときは、ちょうどライブが終わったところだったようだ。ちなみに我々の他に客は地元のオヤジ3人組だけ。沖縄伝統の衣装を着た店の奥さんと、その息子と思われるジャージを着た中学生くらいの坊主が料理を運んでいる。完全なる家族経営。

ここはやはりオリオンビール! といきたいところだが、仕事もあるし運転もするので、私はノンアルコール。このへんの意思の強さは我ながらエラい。ゴーヤチャンプルーと島らっきょう、刺身の味噌和え、海鮮サラダ、もずくの天ぷら、足ティビチなどなど、旨そうなものを片っ端から注文する。

で、実際旨いし、けっこう量もある。旨いものを食べると、たとえアルコールが入ってなくてもシアワセな気持になってくる。相当食ったところでライブが始まった。なんと料理を作ったり運んだりしていたヒトたちが三線持ってステージに上がり、唱いはじめたのだ。おお、まさに完全なる家族経営。

『安里屋ユンタ』『ちんさぐの花』などのベーシックなナンバーに続いて、なんだかわかんないけどノリのいい愉快な曲が始まった。すると、荒井注似の地元のオヤジ(自称会社社長)が「おお、にいちゃん、どっから来たの」と声をかけてきた。東京からと答えると、「おう東京、こっち来て一緒に踊れ」と無理矢理連れていかれ、なんだかわからんなりに一緒に踊ってみた。ああ、酒が入ってたらこの20倍くらい楽しいんだろうな。気づいたら店員も客もみんな踊ってる状態で、M氏もU嬢も一緒になって踊っていた。こういうのって旅だなあと思う。

さんざん飲み食いして会計してもらったら、なんと3人でxxxx円だった。安すぎる。ホテルに戻ったのが11時前。ちょうどその頃東京から連絡が。C地点で撮影したものが、けっこう評判良かったとのこと。

その他、注意点などノートにリストアップしたり、いろいろ事務的な仕事をしていたところ、気がついたら2時だったので寝ることにした。明日は5時起き。

ということで、水曜日以降のネタはまた次回。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。