わが逃走[81]冬の尾道の巻 その3/齋藤 浩

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こんにちは。相も変わらず尾道路地裏階段鑑賞協会会員の齋藤です。

故郷(と勝手に思い込んでいる)尾道の飾らない魅力を写真の力で伝えたい!と思い立ち、地道に啓蒙活動をやってます。

名物があるからとか、名所に行くためとか、そういう観光は"いわゆる観光地"に任せておいて、その土地ならではの普通の生活を知るシアワセとか、日常の中に不思議を発見できた喜びとか、そういった価値が味わえてこそ本当の観光ってやつなんじゃない? という訳で、尾道はいいぞー。

さてそれでは前回のつづき。その2で紹介した猫に会ったのは11時頃だったかな。1月初旬だというのに、日向を歩くとコートがいらないくらい暖かかった。小学校の脇をてくてく歩いてゆくと、おお、見事なまっすぐ階段!
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望遠で撮ると遠近感が圧縮されてオモシロイ。さらに学校の裏手を回り込み、坂道を上っていくと曲線の美しい壁に遭遇。てっぺんの金属棒にどのような機能があるかは不明だが、なんともミニマルアート的な魅力を感じてしまう。
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こんど尾道に行ったら、この逆Jの字型金属棒をよりオブジェっぽく彫刻っぽく撮ってみたい。まあただの棒なんだけどね。その地に思い入れがあると、なぜかこういうものが面白く見えちゃうんですよ。

なんてことを考えながらさらに歩いてゆく。住宅密集地なのに、庭先に隣の家の屋根があるくらい高低差があるので陽当たりが良い。それ即ち散歩が楽しい。ふと見下ろすと見事なスイッチバック形式の階段!
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美しいなあ。午前中の日差しと手すりの影とのコントラストが、階段のリズムを引き立たせているような気がする。と思ってさらに進むと、なんと足下に見事な稲妻模様が!
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滑り止めのために彫ったのであろうメッシュパターンとの対比が見事。虚と正とのコラボレーション、そしてレリーフ表現との調和。

美しい。見事だ...。などとぶつぶついいながら地面を撮ってる変な奴、オレ。でも、俗っぽいバラの絵や訳のわからん裸の彫刻を見せられるのは大きなお世話と思う訳だが、このように芸術として作られたのではないのに、それ以上の力を感じてしまうモノや景色に巡り会ったときには素直に感動してしまうのだ。

ただ、その感動をいかに第三者に伝えるかとなると、なかなか難しい。このあたりをライフワークとしつつ、"伝え業"デザインという仕事に日々精進いたす所存。

てなことを心の中で誓っていたところ、目の前に凛々しい猫が現れた。おお、こいつぁ美しい。媚びてない自立した猫。こういう奴は好きだなあ。
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「魚?」とか言いながら振り返ったの図。ハンターの表情。さらに猫の足下を見ると不思議な物体が。
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こちらも用途不明。穴のあいた突起物。かつて雨どいか何かが繋がってたのかなあ。なんともいえない曲面で構成されたフォルムに愛嬌を感じる。いわゆる無作為の美。

そうこうしているうちにロープウェイの駅に着いたのでそのまま乗車、山頂から展望台へ。正午すぎくらいだったかな。逆光の尾道水道が輝いていた。
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あ、この写真はつまんないけどわかりやすいですね。
対岸は向島。造船所のドックがカッコイイぜ。

造船所といえば、この写真のずーっと左(福山寄り)にある尾道造船で、この日は進水式があるのだった。180メートル近くある巨体が、船台と呼ばれる滑り台から一気に海へと滑り出す迫力は相当なものです。

という訳で、メシも食わずに尾道造船、通称おのぞうへ向かう。このへんに関しては『わが逃走[46]巨大であることは美しいことだ! と断言いたす所存。の巻』で書いているので今回は簡単に。

ゲートにて進水式の見学ってことを伝えたらすぐに造船所内へ入れる。今回は二度目なので腰を抜かすほどではないが、相変わらずの巨大さに圧倒される。鉄と油のにおいと構造美の世界。またクレーンやリフトなどの機械は機能の塊だ。視認性確保のための鮮やかな塗装が午後の日差しに映える。
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前回はその巨体を画面に収めるために超広角レンズを多用したのだが、今回は90mmレンズで絵になる構成を探す。同じモチーフでも画角を変えるだけで伝わり方が全く変わってしまう。当たり前なんだけどいちいち感動する。写真は船首の錨付近。
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こちらが手前側となり、進水の際はおしりから海へとすべっていくのだ。轟音とともに巨大な船体が滑り出し、波しぶきが消えるともう船は海に浮かんでいる。初めて見る人は意外なほどあっけないと思うかもしれないが、その迫力たるや癖になるってもんだぜ。そして長く歴史を刻むであろうその船の誕生に立ち会えたことは、妙〜に嬉しい気持ちになるのですよ。皆さんも是非。

といった具合に、清々しい気分で造船所を後にする。まだまだ時間は充分にある。という訳で、造船所では近すぎて全貌を把握しきれなかった船を、対岸から眺めてみることにした。

少し歩くと渡船乗り場があるので、ひょいっと向島へ渡る。片道百円也。おお、フェリーから今進水した船がよく見える。こんど来るときには対岸から見学ってのもいいかもね。
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徐々に陽も傾いてきた。西日を反射する瓦屋根が美しい。
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季節によっても時間によっても、尾道という町の見せる表情は実に多彩だ。といったところでこの旅も終わろうとしています。36枚撮りのポジフィルムで16本。オレの中ではデジカメじゃないのによく撮った方です。

今回のいちばんの収穫は、やはり90mmレンズの楽しみ方を知ったことでしょう。何気ない風景から絵を切り出すという感覚は、ポスターの画面構成を考えるときと似ています。デザインの仕事の中でも、この行程がいちばん楽しいと思っているので、なんだかすげー得した気分だ!

気持ちも充実したところで、さらば尾道。
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できれば桜の季節にまた行きたいなあ。こんどは念願だったライカと一緒に!

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。