わが逃走[90]改めて思うぜ、シド・ミードはスゴイ!の巻/齋藤 浩

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シド・ミードのデザイン! 10代が80年代だったオレにとって、影響を受けたものベスト10なんてことをやったら、上位ランキング間違いなしである。

あの「ブレードランナー」、「トロン」などの映画の美術からタイガー魔法瓶まで、彼の描くものはすべて近未来になっちゃう!

そしてもう、オレが見ていた未来とはミードの描く世界そのものだったのだ。うきー!! なぜいきなりこんなことを語り出したかといえば、まさに今、何度目かのミードマイブームが到来しているからである。

先日、なにげなくネットで『シド・ミード』を検索していたところ、彼がデザインしたカッコイイ時計がアマゾンで売られているのを発見。なにやら昨年はオフィス設立40周年のメモリアル・イヤーだったそうで(スミマセン、まったく知りませんでした)、この時計はそれを記念して作られたものでデザインモチーフにはなんと! 「ブレードランナー」に登場したかっこよすぎる車「スピナー」(!!)ときた日にゃあ、ポチっとしない訳にはいかんだろう。

そんな訳で"居酒屋にてミードの話で盛り上る"を想定し、語っていきたいと思います。あ、スミマセン今回はいつも以上にマニアックです。今のうちに謝っておきます。

よく「『ブレードランナー』を観た途端、価値感が変わった」なんてことを言う人がいる。オレもそのひとりと言えばそうなのだが、正しくは"途端"ではなく"じわじわと"だった。




中学生の私にとって、この映画の最初の印象は"暗い映画""こわい映画"であった。主人公であるデッカード刑事になりきって観てしまい、鬱々とした気持ちが延々と続く。

しかも、見終わった後も"2019年の雨のロサンゼルスが続いてる感じ"がその後何ヶ月も続いたのだった。

ところがある日、たまたま立ち寄った本屋でたまたま手にした雑誌をめくると、なんとあの世界が数ページにわたって掲載されているではないか! その雑誌こそ『スターログ』。あんなに薄っぺらいくせに、当時680円もしたSFの専門誌だ。

そこで初めてシド・ミードの名前と、映画のためのプロダクトデザインという仕事を知る。不思議なことに舞台裏を意識すると突然脳内が晴れ渡り、オレはミードの描く世界にどっぷりと浸かっていってしまったのだった。

そしてちょうど翌年だったか、ラフォーレ原宿でシド・ミード展が開催されたのだった! しかし、YMOの散開や「スターウォーズ・ジェダイの復讐」の公開等による出費の影響で、見に行けずじまい。貧乏な中学生はいろいろタイヘンなのだ。

その2年後だったかな。高校生になった年、ミードの作品集『オブラゴン』が出版される。「ブレードランナー」のための空間パースや車両のデザインはもちろん、スーパーマンのようなポーズで飛ぶガンダムや奇妙な円盤に乗ったザクなど、衝撃的な作品がぎっしりつまって3,800円。うー、欲しい!

しかしこの年の夏、こんどは有楽町西武でミードの個展が開催されたのだ!直筆の作品を肉眼で見るか、複写をまとめた本を買うかの二者択一。なぜ二者択一かというと、高校生は金がないからだ。

オレはさして悩みもせず有楽町へと向かった。ふだんは"事"よりも"物"に固執するオレなのだが、このときは何故か肉眼で肉筆を見たい! という欲求が物欲を越えた。

結果としてこれは正解で、あの画面に吸い込まれるような感覚はオリジナルの前に立ったからこそ味わえたのだと思う。

今まで一度も見たことのない絵だった。当時最先端と言われていたエアブラシを使った"スーパーリアルイラスト"なんかとはまったく異なるアプローチのリアリティ。「スターウォーズ」で使われたような"マットアート"なんかとも違う、ひたすら透明で、鮮やかな線と面の世界だ。

そのタッチ、鮮やかな色彩は今も目を閉じれば脳内で再生可能だ。展示作品の前にはガラスがなく、照明の反射など気にせず、鮮やかなアクリル絵具の粒子までも感じることができた。烏口で引いたラインの盛り上がり具合までも、脳裏にくっきりと焼き付けてきたのだった。あれはもう四半世紀以上前のことなのか。

(その後、どうしても『オブラゴン』が欲しくなったが、探してみるも見つからず。極まれに見つけるも、プレミア価格ゆえ入手をためらう。で、ついに10年前に某古書店で3,000円で売られているのを発見、迷わず購入する。するとどうでしょう! なんとご本人直筆のサイン本だったのです! あまりに完璧なサインだったので私も半年くらい印刷だと思って気づかなかったのです。以上ちょっとした自慢話)

そうこうしているうちに「トロン」が公開される。ストーリーはたいしたことなかったけど、映像は新しかった。

いわゆるCGってことになってるシーンも実はほとんどアナログで、出力されたワイヤーフレームに手で色を塗っていたと噂に聞く。でも、だからこそあの絶妙な世界観を描くことができたのだろう。

中でもライトサイクルと呼ばれるバイクのデザインには思わずグッときてしまった。アメリカのSFに出てくるバイクのデザインには、何故かハーレーのようにふんぞり返って乗るものが多く、スピード感やコーナーリングの見せ方がイマイチのものが多かった。

そこへ来てこれだもの。これを見て"やられたー!"って思った人はプロダクトデザイン界にもたくさんいたと思う。スズキが発表したコンセプトモデル「ファルコラスティコ」など間違いなく影響受けてると思うのだがどーだろ?

その後、日本ではバブル経済の成長とともに、広告から、プロダクトから、空間から、なんでもかんでもミードにデザインを依頼していった。なんだけど、そのあたりから私のミード熱は徐々にさめていったのだった。

別にミードのデザインに古くささを感じるようになった訳じゃなかった。むしろ、日々洗練されていく勢いに圧倒されていたように思う。では何がそうさせたかというと、「ミードのデザインを無視したモノの売り方」とでも言いましょうか......。

例えばタイガーのエアーポット。初めて見たとき、ソリッドでストイックな形状と色彩に目を見張った。ところが、これに花柄のモデルが追加されてしまったのだ! 何を考えてるんだ! アホか! と、心の中で叫んだ。

花柄なんか出すなら最初からミードに依頼すべきではないし、花柄よりも美しく、インテリアにマッチする"無色"という選択肢があることを消費者に気づかせることこそ企業のとるべき道ではないか?

"お客様"の言いなりになるのではなく"お客様"を教育して、日本人の美的センス向上を促すことこそ、企業がめざす社会貢献なのではないのか? なんてことを美大受験の夏期講習に通いながら思っていたのだ。あ、ちなみに今でもそう思ってます。

90年代に入ってバブルが崩壊すると、こんどは著名なアニメシリーズにミードのデザインが起用されるようになった。ヤマトとガンダムである。3次元のデザインとして破綻しているものの、そこを"絵ならではの嘘"で乗り切ることがこれらのアニメの魅力だと思っていた私にとって、プロダクトとして破綻のないミードデザインの起用は不安であった。

ミードのデザインしたヤマトは、とんでもない完成度で、美しさと(宇宙戦艦としての)整合性が見事にバランスされたものだった。しかし、「あれはヤマトではない」と思ったのもまた事実。

あえて言うなら悲壮感とワビサビがないのだ。ここまで完璧なデザインを提示されたなら、タイトルから"ヤマト"を削除したっていいじゃん。ストーリー自体は古代もデスラーも無関係なんだしさ。

結果として、やはり「宇宙戦艦ヤマト2050」の人気はふるわず途中で打ち切られてしまった訳だが、これはデザインのせいではない。売り方を誤ったせいだ!と声を大にして言いたい。このデザインをこのまま放置するのはあまりにも惜しい。他の映画の主役艦として再登場させる訳にはいかんのだろうか...。

ただ、嬉しいことがひとつあり、このヤマト、プラモデル化されているのだ。かなり小ぶりのサイズだけど、もともとプロダクトとしてデザインされているからプロポーションも完璧。

ミードのデザインを3次元で手にすることのできる。これってタイヘン幸せなことです。できれば1/500くらいのスケールで新旧並べてみたいところだが、無理だろうなあ(このように妄想が始まると、「ブレードランナー」の"スピナー"が1/24スケールでプラモデル化された場合のパッケージデザインはこんな感じで...とか、脳内がタイヘンなことになるのだ。ああ、三つ子の魂百まで)。

さて、20世紀も終わりに近づくと、ついに! ガンダムまでミードデザインになってしまった。ヤマトのこともあったので、期待と不安が入り交じりつつデザイン発表を待った。

で、ついに「∀ガンダム」(ターンエーガンダム)が発表されたときは「さすがミード!」とオレ絶賛。ミード熱再燃。ヒゲをはやした奇妙なロボにガンダムファンの大半が激怒したといわれるが、そういう保守的なファンのもつ既成概念を打ち破り、新しいガンダム像を築き上げたのだ!!

でもここまで斬新なデザインにするなら、白地に赤青黄の色彩じゃなくてもよいのでは? またストーリーにはアムロもシャアも出て来ないんだから、タイトルから"ガンダム"を削除したっていいじゃん。あれ? どっかで同じセリフを言ったような...。まあいいや。

ミードはこの作品のために数体のモビルスーツをデザインしているが、中でもオレ的に秀逸と思うものは「ターン」と「スモー」。

ガンダムという記号から解放されてデザインされたと思われる「ターンX」は、宇宙船を人の形に再構成したような形状だ。オレの中での"美しいロボットランキング"のベスト3に入るほどの名作中の名作である!

「ライバルは左右非対称の形状」という、1stガンダムからの考え方がデザインに落とし込まれており、見た目の美しさだけでなく、知的な奥行きを感じるのだ。

また頭に大銀杏、手には軍配のような武器を持ち、武蔵丸的プロポーションの「スモー」もイイ。噂によれば、この「スモー」こそ、主役である∀ガンダムとしてデザインされたものだそうだ。劇中では金色のボディカラーが主張しすぎな印象だったが、連続した球形の組合せからなる形状の美しさは素晴らしい。

さてこの∀ガンダム、物語もよくできており、オレ的には1stガンダムの次に好きな作品なのだが、一般的にはあまり人気は出なかったみたい。なんだかんだで放映から10年以上経つし、再評価されてもよいのだが。

てな感じで、ミードデザインの思い出を語ってしまいました。ちょっと偏ってましたね。映画のデザインもいいけど、21世紀の今こそ普通に販売される工業製品をミード氏がデザインしたら...なんてことをよく思います。今そういう仕事やってんのかな??

オレ的には、光岡自動車あたりにミードカーを出してもらいたいなあ。そうしたら、カタログのデザインは是非オレにやらせてください!!

そうそう、なにやら最近ミード氏は画集を出したそうで、ここ10年分の仕事がぎっちり詰まってるとのことです。さっそく本屋に行かねば。

シド・ミード ジャパン
< http://www.sydmead.jp/ >

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。