わが逃走[119]野郎3人カメラ旅の巻 その2/齋藤 浩

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昨年11月に片岡氏、マニュエル君、そしてオレの3人で歩いた尾道カメラ旅は、片岡氏からマニュエルへの友情の証としてプレゼントされたニコンFが実はぶっ壊れていたという、笑っちゃうくらい悲劇的な結末を迎えていた。
※第116回「野郎3人カメラ旅の巻」参照
< http://bn.dgcr.com/archives/20121129140300.html >

そんなFも完璧にオーバーホールされて、マニュエルの元へ帰ってきた。というわけで同じ行程でリベンジするぜ! のかけ声のもと、12月のある日、我々は再び尾道へと降り立ったのである。

ホテルに荷物を預け、身軽になったところでまずは腹ごしらえだ。『天ぷらラーメン』なる不思議なものを食す。確かに旨かったが、スープがもう少し熱くてもよいのではないか、などと語り合う間もなくカメラ片手に被写体の宝庫・尾道の町へと繰り出す野郎3人。

今回はまずフェリーに乗り、向島をざっと散策してみることにした。対岸まで約3分の船旅、料金は100円。
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前回は見るだけで乗れなかったこともあり、片岡氏、マニュエル君ともに大はしゃぎである。川と錯覚するほど狭い尾道水道だが、渡った先の町並みの印象はこちら側とまるで異なる。このへんが尾道の面白いところ。
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この日の機材はBessa T。オレをマニュアルカメラ沼にハマらせた張本人? 張本機である。丈夫で確実なだけでなく、ライカと同規格のVMマウントを採用しているため、ライカMマウントレンズはもちろん、アダプターを使えば世界中の物凄い数のレンズの描写を楽しむことができる。

露出計と距離計を搭載した、いたってシンプルな機械式カメラだが、ファインダーが内蔵されておらず、レンズにあわせて外付けファインダーを交換する。

これがまた変形合体ロボで遊んでいるようで楽しい。レンズ交換の度にカメラそのもののフォルムが変わるのだ。ちなみにこの日のレンズはキヤノン100mmf3.5、フォクトレンダーのノクトンクラシック40mmf1.4、ウルトロン28mmf1.9。

いつもオレが自分に課しているルールに『一度交換したレンズを二度使ってはならない』というのがある。

今から日没まで100mm、40mm、28mmの順番で撮っていき、たとえ望遠向きの被写体が28mmで撮っているときに現れても、そのときは28mmの画角で工夫するのだ。これがまた思わぬ写真が撮れて楽しい。

この日は晴れ時々雪! の予報が出ていたが、まさか雪なんてねえ、なんて話してたらホントに降ってきた! 青空なのに。

向島を散歩。商店街を歩くと、ナイスな牛乳箱を発見。早速撮影すると、片岡氏とマニュエルもカメラを構える。うーむ、アホっぽくていいぞ。50年以上前のキヤノンのレンズで真剣な2人の姿を激写。
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そして脇の小径を入ると、そこはもう不思議ゾーンだ。狭い路地。凝縮された空間に小さな階段や風情のある板塀が続く。
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こういう場所に来ると広角レンズを装着したくなるが、そんな気持ちをぐぐっと抑えて、望遠100mmのファインダーをのぞくと、なんとも面白いパターンを発見。
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尾道の路地は起伏が激しく、水はけや滑り止めのための工夫がそこここに見られる。当然これらは規格品ではなく、その場所の状況に合わせて名もなき職人らが工夫したものだ。

ここ尾道は、詠み人知らずな"機能する芸術"の宝庫なのである。

さらに歩くと鋭くとんがったコンクリート建築を発見。「すごい! とんがってるナー」マニュエル君も大喜び。
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雪はいつのまにかやんでいた。再度フェリーにて本州側に戻ったところで40mmレンズにつけかえるオレ。そして一行は前回行けなかった久保小学校方面へと向かった。

オレは一応ガイドなので、日没までの時間配分を考えた上でコース設定してるのに、2人はそんなこと気にしちゃいねえ。目に入るもの全てが面白いもんだからじっくり撮りまくる。なのでぜんぜん進まねえ。困ったもんだ。
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2人を待つ間に撮った掲示板。貼り方にもリズムがあって興味深い。無作為の法則美ってやつ?
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そして久保小到着。アールデコな門柱が相変わらず美しい。なにやら金賞受賞したようだ。おめでとう!
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そして隣り合う尾道東高校との間の道をゆく。
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ここには何度も来てるけど、午後の日差しが煉瓦の壁に落ちて最高に美しいのだ。「このアールがたまらんでしょ」「いいねー」「うわー、すごくイイ!」ここでも異様にはしゃぐ野郎3人。

さらに坂道を登っていくと、小さな神社がある。
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神社から尾道の町を狙うマニュエル。足長くていいなー。ここは狛犬のかわりに狛猿がいてけっこうカワイイのだけれど、今回は撮ってなかった! ご紹介できず残念。

さらに坂を登る。途中、ミニマルアートと化したカーブミラーを発見。錆と木の柱との対比が絶妙。
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さらに細い坂を登ってゆく。素知らぬ顔をして猫が通り過ぎる。
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坂道は階段になり、階段は坂道と交差する。階段の形状自体もどんどん独自性をおびてくる。
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そして振り向くと、この景色。だから尾道散歩はやめられないんだよなー。季節によっても時間によっても、常に異なる表情を見られるのが素晴らしい。
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それにしてもこの日、この時間にこの場所でこの景色を見ることができたことの幸せってやつを反芻してしまう昨今である。

陽は傾きはじめるとそのスピードを加速させる。ISO100のフィルムで余裕だったのが、あっという間に手持ちがキツくなる。オレは何本目かのネオパンSSを撮り切ったところでトライXに詰め替え、レンズも28mmに交換したのだった。

と、突然片岡氏が叫んだ。「あ、カメラ壊れた」。愛用のツァイス・イコンが巻き上げもできず、シャッターも切れなくなったという。彼はこうなるとだだっ子のようにわがままになり、「もうダメだ」とか「おしまいだ、やれやれ」などと自暴自棄な言葉を発する。

触らせてもらうと、確かに巻き上げもできずシャッターも切れない。とはいえ、ツァイスブランドの最新AE機がそうそう壊れるもんじゃない。たぶん電子シャッター機なので、電池が切れたのではなかろうか。

てな言葉で片岡氏をなだめつつ、電池が売ってそうな店を探しに街中へ戻りはじめた。片岡氏の自暴自棄な言葉の頻度が増えてくる。言ってる本人も気になってるらしく、ときどき我に返って「齋藤くんの言うように、電池かもしれないね」なんてにこにこしながら言ってるけど顔は青ざめている。面白いなあ。

線路を越え、迷路のような繁華街をさまよっていると、なんと路地の先に、カメラ屋を発見。都合の良すぎる展開である。「ごめんくださーい」。店に入ると尾道弁の頑固そうな御主人が出てきた。こういう店は信用できる。

実はかくかくしかじかで、と言って片岡氏、カメラを御主人に渡す。「うん、確かにシャッターが下りんようじゃのう。どれ、電池かもしれん」。電池室から電池を抜き、テスターで計測してみると「おや、電池は大丈夫のようじゃのう。おかしいのう。どれ、新品の電池を入れてみよう。...動かんのう。おかしいのう...」。

御主人、しばらくカメラをいじくる。
すると「あっ」
一同、一斉に御主人に注目する。

「こりゃあ、フィルム一本撮り切って巻き戻してないだけじゃないかな」。実にマヌケな結末である。よく見たらフィルムカウンターが36を越えていた。一同赤面しつつ下を向く。こんな基本的なことに3人とも気づかなかったとは!

それでも片岡氏はとにかく安心したらしく、もう最高の笑顔である。子供みたいだなー。いやいやお恥ずかしい、とか言いつつ予備の電池を購入する。オレもやっと落ち着いて店内を見渡す。

するとどうだ、国産のフィルムカメラ中堅機クラスの名機がけっこう揃ってるじゃないか! と思えば色モノ系もけっこうある! あれに見えるはPENTAXオート110! その隣はハーフサイズの名機キヤノンダイヤル35!

しかもこのダイヤル35、かなり美しい。御主人におそるおそる値段を聞いてみると「これはシャッターが切れんから500円でいいよ」とのこと。即買いである。旅から帰った翌日に、馴染みのカメラ修理店へ持ち込んだのは言うまでもない。

安心したところで空を見上げると、もう星がでている。今日もよく歩いた。某喫茶店であったかいチャイを飲んだ後ホテルで荷物整理をし、一行は反省会と称する飲み会へと夜の街へ繰り出すのであった。(その2の2へつづく)

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。