わが逃走[134] 四谷階段の巻(荒木町編)/齋藤 浩

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ひと月も前の散歩のことをだらだらと書き続けるというのも楽しいものである。その日思い立って四谷近辺を散歩したわけだが、普段地下鉄で通過しているだけではわからない、その場所の地形、そしてその地ならではの美しい構造物に出会えたことをそこはかとなく反芻すれば、あやしうこそものぐるほしけれなのである。

荒木町に向かう。四谷近辺は某社在籍中によく歩いたのだが、当時は大通りをただ往復していただけで周辺のディテールに目を向ける余裕なんてなかった。そんな私が荒木町に足を踏み入れるのは、実は今回が初めてなのだ。


ものの本によれば「頃は明治、お江戸の箱根と呼び慣らされた場所がありました。ご一新までは松平摂津守のお屋敷、木々の緑に囲まれ、清らかな滝が流れる池があり、風光明媚な庭園は新都・東京の名所の一つになりました。池の周りには滝見の茶屋ができ、花見や涼を求める人の賑わいが花街の発展へとつながります。」と、ある。

ちなみに、ものの本とは四谷荒木町商店会公式サイト。あ、本じゃないや。

そんなわけで、花街の雰囲気を味わうなら夕暮れから夜にかけての時間帯をおすすめする。ちょっと寒さの残る春先などとくにイイかも。

しかし今回のテーマは階段や地形を鑑賞する『四谷階段』なので、陰影が明快な午前中がイイと思った次第。時間帯によって表情が変わる町。これは素敵なことです。

さて、建物の隙間からいくつもの下り階段が見えてきた。これがかの有名なへっこみ地形、荒木町のスリバチである。
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何気なく坂道を下っていたら、いつのまにかなりな高低差。都内のしかも中心地において、ここまで地形を体感できるところもめずらしい。やはり高低差マニアが絶賛するだけのことはある。
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周囲に散在する私階段(公のものでない階段)も個性的。とろけるような曲面を従えた不思議階段やミニマルな薄型階段、漢気(おとこぎ)溢れる直角系までさまざま。

用もないのに人んちの階段に上るわけにはいかないので今回は眺めただけだが、私が子供だったら町の全ての階段を制覇するのに躍起になっていたことだろう。小さい町なので記録してまとめることも不可能ではなさそうだ。夏休みの自由研究にどうだろう。
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スリバチへと下りてゆく階段その1。この日はちょうど影になっちゃったけど、陽の当たる時間帯にまた来てみたい。階段はちょっとした光の加減で印象が変わるので、見ていて飽きないのだ。
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階段その2。適度なリズムが心地よい。
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階段その3。高低差がよくわかる。美しい地形と構造。
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階段その4。まっすぐじゃないところがイイ。この適度なうねりと三角の段は美しさの源。
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階段その5。急傾斜。一見不便そうに見えるが、それを共有することでコミュ
ニティが生まれる。美しい町とはそういうもの。
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花街の名残りをかすかに感じさせる石畳階段。左右の風景を想像して脳内タイムトリップを試みる。
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手すりまで付けておきながら最上段に柵が設けられてしまい、通り抜けできなくなった階段。機能しないプロダクトはもはや飾りでしかない。とても残念。
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『四谷階段』としたからには四谷で完結したかったので今回は割愛しましたが、この日は勢いで市ヶ谷〜神楽坂まで歩いてしまった。

そしてやはりイイ地形、イイ階段、イイ構造物と出会ったのです。それも近いウチに書きたいと思います。それではみなさん、よいお年を。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。