わが逃走[167]旅先でみつけた地味なものの巻/齋藤浩

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先日、マツダのお店で新型ロードスターに試乗した。

たとえるなら、身長+10cmが当たり前だったスキー板からカービングスキーに乗り換えたときの驚きに近い印象。つまり、とても快適だが、あえて言うなら快適すぎるのが不満。

欲しいかと言われれば、欲しい。世の中的にモデルチェンジ=肥大化の歴史となりがちなところ、過去最小のエンジン(1500cc)に1000kg以下の重量と、メーカーの本気を感じる。

二代目、三代目も悪くはないのだが、どちらかといえば“守り”の姿勢が強い印象だった。

しかし、今回の四代目は明らかに“攻め”ている。素直にかっこいいし、運転していて気持ちいい。

また初代はどうしてもネジレやヨレを感じたけど、補強ナシでこのしっかり感は特筆モノと言えよう。ちなみにオレ的に最もうらやましいところはドリンクホルダー標準装備である点。ペットボトルを股間に挟み続けなくてもいいとは、さすが21世紀である。

さて私はこの連休に、25年前の新型ロードスター(カーナビなし、エアバッグなし、ETCなし、ドリンクホルダーなし、エアコン故障中)で富山へ向かい、世界ポスタートリエンナーレトヤマのレセプションに参加。

6月にソウルでとても世話になったChaeさんとも再会、佐藤晃一さんとその弟子スジにあたる若手デザイナー達とともにデザインのこれからについて語り合い、BBG(敏腕美人学芸員)の稲塚さん(仮名)らと旨い鮨とうまい酒でへべれけになり、その後信州に立寄り、無言館にて神妙な気持ちになって、昨夜東京へ戻ってきた。

とても密度の濃い日々で、それぞれの出来事に対する思い入れも強く、語るからにはきちんと語らねばと思う。そんな訳で、きちんと語るのは次回以降ということにして、今回は旅先で見つけたわりとどうでもいいものを紹介したいと思います。


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地面にホース。

岩瀬にて。旅に出ると商店や民家の軒先に束ねられたホースがどうにも気になるのである。偶然の巻かれっぷりにグッとくる性格のようだ。

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重ねられたもの。

こういった単純な繰り返しにもグッとくる。80年代テクノポップをビジュアル化するとこんな印象、と勝手に思っている。昔はシーケンサーで記憶できるパターンが少なかったので、それらをいかに組み合わせて面白いものを作るかが曲づくりの肝だった。

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立てかけられたもの。

タイヤを美しく並べて鑑賞に耐えうる構成にしようなどと、立てかけた人は思っていない。しかし偶然、絶妙な空間構成になっていたりすることがあり、うっかりそれに気づくとつい、じっと見てしまう。不審者と思われないよう気を配りつつ、さらに見入ってしまう。

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切り取られた町並み

街道筋を歩くと、江戸時代から続いてきたであろう町並みがところどころ歯抜けになっているのをよく見かける。

とても残念なことではあるが、立派な木造建築の隣の何もない空間と垂直に立つトタン板に、ミニマルな美を感じるのもまた事実。

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ずれ

道路工事の痕跡が抽象絵画的のように見えることは多いけど、この太さの異なる平行線に対する下から突き上げる排水路の構成は、極めてドラマチックな部類に含まれるとみた。

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富山の穴

全国見られるブロック塀の風抜き用の穴は、まさに詠み人知らずのデザイン。このタイプは初めて見た。モダンな造形。

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上田の穴

越中と信州の文化の対比をたのしむ。ブロック塀に差す西陽って日本的。まるで江戸時代からあるかのようなプロダクトに思える不思議だ。

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川っぷちの階段のある路地

川は谷を流れるのだがら、両脇に階段ができるのは必定。川に沿って集落ができて、地形にあった暮らしっぷりが自然と生まれる。そういった訳だから、階段はその地の文化を表現したものと言えなくもない。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。