わが逃走[199]春の散歩で構造美の巻/齋藤 浩

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春は好きだが、これから暑い夏がやってくるかと思うとうんざりする。でも、まだおふとんをかけてゆっくり眠れると思うとシアワセである。

おふとんとまくらは自分のものに限る。たとえばホテルに泊まったとして、質の悪いベッドで寝るはめになったときなどはくやしくてたまらないが、帰宅後たとえそれが煎餅布団であっても、自分のおふとんなら安心して眠れる。

まあ、ホテルがふかふかの高級ベッドだったとしても、帰宅して、たとえばそれが出発前にたたむ間もなかった、いわば万年床だったとしても、それが少々湿った煎餅布団だったとしても、自分のおふとんならそれだけで安心、明日干せばいいやと思うと同時に眠りに落ちる。どうやらそういうものらしい。







で、憧れるのが『物干し台』である。集合住宅等における『バルコニー』でなく、屋根の上に乗っかってるヤツ。たしかバカボンの家にもウメ星デンカの家にもあったと思う。

陽当たりの良い屋根の上に全方向から光が当たる。周囲の瓦屋根からの反射もあって、おふとんがほかほかにふかふかになるんじゃないかなあ。夢のようだ。

先日、散歩の途中で理想的な物干し台を見つけたので、ご紹介したい。

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おふとん干しつつ寝そべって読書なんてイイなあ。周りは美しい屋根瓦なので、漱石先生の卵焼きを作ろうとしたシーンなんぞ思い出す。こいつあ思い切り贅沢だね。



私は基本的に装飾を好まない、というわけではない。「ここ、ちょっと寂しいので花柄でも入れときましょう」といった短絡的な思考を好まないのだ。

つまり、それが装飾とされるものだとしても、美しく機能していていれば納得がいく。たとえば表現主義建築における窓枠やドアノブの形状など。

で、この昭和的唐草模様はどうなんだろう。

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思わずシャッターを切ってしまったが、ある種の懐かしさにグッと来たのが、その理由といえば確かにそうだ。

しかし、今こうして見ると、筋交いとしての役割があるようにも見える。スチールの板を箱状に組んだその裏側の、四隅を結ぶように曲線が配されているようだ。つまり歪み、ヨレを抑えるための補強材として機能しているわけだ。

そう思うと妙に納得する。ならばこれはオレ的に「アリ」ってことで、だからどうなんだと言われればそれまでなのだが、妙に安心したのであった。



町を歩いていると、思わず振り向いてしまう“ホースの巻きっぷり”に出会うことがある。巻きっぷりに地域性や人柄のようなものがあらわれるとして、その研究に残りの人生を捧げようなどとはこれっぽっちも思わないが、人をひきつける強さを持ったものが存在するのもまた事実、と考える。

最初に気づいたのは2008年のこれ。

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春のある日、当時まだ営業中だった風呂屋の駐車場で発見。一度は素通りしたところ、妙に気になってシャッターを切った。

今あらためて見ると、ミニマルアートのような魅力がある。ただのホースなのに、そこに何らかの意思のようなものを感じてならないのだ。

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ちょっと間があいて2014年頃採取。背景の木の素材感と鉄板の錆び具合、それに対する鮮やかでいて量感のある巻きっぷりには他にはない魅力がある。

また偶然にも蛇口の上の黄色い円がいい味出してる。実に彫刻的な一巻き。

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こちらは2015年、とある北陸の港町で発見。“巻きっぷり”収集において、これはあきらかに巻かれていない。いないがこれは、例えるなら北島マヤに倒れた椅子に座るよう促すとそこに寝た、という事例に似た衝撃を感じずにはいられない。

いられないのはオレだけ? まあそうだよね。

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このミステリーサークルのようなナスカの地上絵のような美しい巻きっぷりは、とある酒蔵で採取したもの。旨い酒づくりの秘訣は、水も米もホースもきちんと管理することにあるのだ。

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寺だか神社だかで見つけた8の字巻き。きちんとしているんだか、いい加減なんだかよくわからない魅力に、つい振り向いてしまう。

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つい先日出会った誠実な印象のシンメトリックな巻きっぷり。壁に落ちる影がそこにリズムを加え、春の陽気を表現しているかのようだった。

ホントにそう思ったんですよ。ただのホースに!

という訳で、かなり一方的で狭い価値観における散歩写真のご紹介でした。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。