もじもじトーク[108]既存概念にとらわれない未知なる領域へ──筑紫書体の魅力/関口浩之

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。早くも、もう6月なんですね。

6月といえば、そうそう、僕の誕生月なんです。今度の日曜で59才になります。えっ、そんなんだーー。最近、歳をとることに抵抗を感じなくなりました(笑)

開き直っているわけじゃなくて、まだまだ、学びたいことがたくさんあるし、仕事もしなくっちゃいけないし……。

体力的にも、経済的にも、今まで通りとはいかない年代になりますが、「60才は単なる通過点に過ぎない」と考えるようになりました。やっぱ、開き直りか……ww

前回のもじもじトークは、「文字に潤いと体温を 筑紫書体のコンセプト」をお送りしました。今回は、その続編をお送りします。
http://bn.dgcr.com/archives/20190523110100.html





●明朝体、何種類知ってますか?

明朝体の名称、何個ぐらい、頭に浮かびますか?

僕は10個ぐらい、すぐに出てきますが、皆さんはどうですか?

ヒラギノ明朝、MS明朝、リュウミン、筑紫明朝、小塚明朝、游明朝あたりが、すぐに頭に浮かびますよね……。ですかね??

それ以外では、秀英明朝、凸版文久明朝、源ノ明朝、イワタ明朝、モトヤ明朝、砧明朝、TP明朝、貂明朝、平成明朝、マティス、A1明朝、黎ミン、などなどでが浮かんできました。かなり、ざっくりな分類名称ですが。

同じように見える明朝体、ゴシック体ですが、よく見るとそれぞれの書体は、それぞれの表情は異なり、個性がまちまちなのです。今度、上記のすべての明朝体を並べたサンプルを作ってみますね。乞うご期待。

さて、前回から、フォントワークス書体デザイナーの藤田重信さんが手掛ける、筑紫明朝にフォーカスしてお話しています。

筑紫書体シリーズ、実にさまざまな種類があります。種類の単位をファミリーと呼んでいます。例えば、「筑紫Aオールド明朝」、「筑紫Q明朝S」、「筑紫アンティークS明朝」などです。

そして、それぞれのファミリーには、複数のウエイト(太さ)をもつ書体もあれば、ひとつのウエイトしかない書体もあります。新書体の時は、1ウエイトでリリースすることが多いです。一度に、たくさんのウエイト(太さ)を出すのは時間の関係で難しいのです。

15年前にリリースされた筑紫明朝は、今では、「L/LB/R/RB/M/D/B/E/H」のように9種類のウエイトが揃っています。

筑紫書体は、現在、20ファミリー以上に分類されます。前回の復習です。
http://bit.ly/30K55Bg

それでは、今年3月、名古屋で開催された「中村書体と筑紫書体」セミナーの藤田さんのお話で、記憶に残ったことをいくつかご紹介します。

●普通の書体とは異なる、異色を放つ、筑紫書体

普段から見慣れている明朝体やゴシック体を、普通の書体と呼ぶことにします。普通の明朝体やゴシック体は、比較的、正方形の枠にギリギリ収まるように作られています。専門的な表現をすると、「ふところが広い書体」といいます。

2004年に発表された「筑紫明朝」は、筑紫書体シリーズの中では、ふところが広い部類になります。ただし、金属活字のインク溜まりや滲み、写植のボケを感じさせる処理をしているので、普通の明朝体とは雰囲気が明らかに違います。

そして、筑紫後期と言われる、「筑紫アンティーク明朝」「筑紫Q明朝」「筑紫ヴィンテージ明朝」は、ふところが狭い書体です。「東」の形を見比べると、明らかに、キュッと締まった形になっています。

そのあたりの解説をしている藤田さんのスライドを掲載します。
http://bit.ly/31bB7WT

そっか、筑紫アンティーク以後の文字をじっくり観察すると、台形または三角形をしていますね。

なぜ、普通の明朝体や普通のゴシック体は、四角形に収まるような書体が多くなってしまったのでしょうか。

20世紀後半、写植(写真植字)による組版が主流だった頃、写植文字を設計する現場は、金属活字の文字を写植に移植することに一生懸命でした。そして、書体の近代化の流れを作った「タイポス」「ナール」「ゴナ」が1970年代初頭にリリースされました。

それら新書体は、四角形に目いっぱい収まるような書体であり、その後、ふと
ころの広い書体が主流になりました。

1990年頃までは、そのような書体をリリースすれば、写植用フォントが売れる時代だったので、ふところが狭く、築地5号のような書体を開発する余裕がなかったということが理由なのかもしれません。

これは、良い悪いの話ではなく、時代の流行だったのです。

●祖父江慎さんのオフィスにあった古い書物の活字の話

藤田さんは、新書体の開発中に、祖父江慎さんの事務所によく足を運んでいます。新書体候補の組み見本を持参して見せて、祖父江さんの意見を聞くためのようです。

そういえば、5年ぐらい前、藤田さんが祖父江さんの事務所を訪問する際、僕も同席させていただいたことがあります。その時の写真を掲載しまねす。じゃーん!
http://bit.ly/2K3k83M

僕は以前から、祖父江慎さんと藤田重信さんの大ファンだったので、三人でのスリーショット写真、僕の宝物になったのは言うまでもありません!

話を戻します。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の撮影の時の話です。

2時間ぐらい、カメラを回しながら対談していたので、お茶が切れたようです。そうすると、祖父江さんが、「じゃ~、ぼくがお茶を入れてくるね~」(祖父江さん口調)と言って立ち上がる時、書棚から本を取り出して、「藤田さん、お茶を入れる間、これでも見ててね~」と一冊の古い本を、テーブルの上に置いたそうです。

そもそも、祖父江さんが自分で、みんなのお茶を入れるって凄いですね。でも、その姿、想像できます。

その時の本の活字がこれです。じゃーん!
http://bit.ly/2Kwc1vR

「ふ」が素敵ですね。藤田さんは、それ以外の仮名には目が行かず、この「ふ」に引き込まれたようです。

この本は、祖父江さんが無意識に選んだように聞こえましたが、僕は、祖父江さんの無意識の深層心理に、『この『ふ』、すごくいいよね~ 藤田さんが、この『ふ』に心奪われて、文字を作っちゃったらうれしいなぁ~』ということがあって、自然とそうさせたのだと思いました。

●筑紫書体、未知なる領域へ

藤田さんの凄いところは、それら「ふ」や「あ」の独特のムードを、50音の仮名へ展開しちゃうところにあります。

もちろん、その雰囲気がそのまま、踏襲できる仮名もあれば、しづらいものもあります。しかしながら、実際の単語や文章を組んでみると、あの独特の世界観が生れてくるんです。

細部にわって、さまざまな事柄を考慮し、チューニングを繰り返して、ひとつのフォントが誕生しているのです。

筑紫オールド明朝には、AタイプとBタイプとCタイプがあります。書体名で書くと、「筑紫Aオールド明朝」「筑紫Bオールド明朝」「筑紫Cオールド明朝」の3種類のファミリーがあります。

それぞれ、何が違うかというと、平仮名/カタカナのスタイルが異なるのです。なので、この3つの書体で、「お味噌汁」と「パンケーキ」とか、実際に組んでみると楽しいです。書体を変えると、味が違うものに見えてくるのが、書体の面白いところです。

その違いは、パーレン(括弧)や特殊記号まで、徹底して、味付けをしているそうです
http://bit.ly/2Xu4S2P

筑紫書体とは「既存概念にとらわれない」、そして「新たな領域へ」がテーマのフロンティアスピリット溢れる書体だと感じました。

「人には個性があるように、文字にも個性があっていいじゃないか」「同じものばかりだとつまらない」

藤田さんは、デジタルフォント時代における革命家だと思いました。

藤田さんのお話で、心に残ったこと、書ききれなかったので、次回は「筑紫書体の魅力 第3話」をお送りします。


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関口浩之(フォントおじさん)
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1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現 ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。

現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして、日本全国を飛び回っている。

日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、Web担当者Forum、Schoo等のオンラインメディアや各種雑誌にて、文字やフォントの寄稿や講演に多数出演。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。2018年も「ベスト10セッション」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。趣味は天体写真とオーディオとテニス。

フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/

Webフォントってなに? 遅くないの? SEOにはどうなの?
「フォントおじさん」こと関口さんに聞いた。
https://webtan.impress.co.jp/e/2019/04/04/32138/