わが逃走[259]家の中でじっとしていてもツマランので、脳内で散歩するの巻 その1
── 齋藤 浩 ──

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いつも散歩のことばかり書いてるけど、外出自粛要請が出ちゃったから、これからしばらくの間、散歩は脳内ですることとしたい。

脳内で散歩というのは、わざわざ着替えて靴を履く必要もないので、とてもラクなのである。この楽しさは、たとえば実車のレストアを想像しつつバイクの模型を作ったり、実在しない風景の絵を描くのに似ている。

今回は、12年前の今頃の写真を引っ張り出して、そのときの様子を思い出して書こうかと思ったのだが、覚えているようでほぼ忘れていたことが判明。おかげで新鮮な気持ちで脳内散歩を楽しめたのである。





機材はリコーのCaplio GX100。このカメラは名機GRの意匠を踏襲し、黒のアルミニウム合金+レザー調の外装を採用。見ただけで物欲が刺激された。

当時はまだほとんどのデジカメが、メタリックカラーのプラスチックボディだったので、GX100はデジタルにおける高級コンパクトカメラとして、ゲームチェンジャー的存在だったと思う。性能もそこそこ良かった。

一般的な一眼レフにみられる機能はほぼ搭載し、1/1.7型1000万画素CCDセンサーも、当時としては小さいという印象もなかった。アスペクト比が変えられ、外付けEVF(電子ビューファインダー)が用意されていたのも評価ポイントだ。

EVFを装着すると、まるで屋上に物置を増築したかのようなスタイルになってしまうのだが、ファインダーをのぞきながら撮影できるだけでも安心できた。

当時コンパクトデジカメといえば、両手で保持し裏側の液晶モニタを見ながら、腕をぐいーんと前に突き出すポーズで撮影するものと相場は決まっていたのだ。これでは手ブレしやすいし、通行人のじゃまになるし、かっこわるいし、撮ってる感じがしない。

EVFによりそれが解消されただけでも、撮影してるぜ感が増し、イイ写真が撮れるような気になったものだ。ズームレンズの歪みやノイズのざらつきは多少気になったが、それでもけっこう楽しめた。アダプターを介してホルガの魚眼を装着するなど、工夫次第で遊びかたの幅も広がった。

唯一好きになれなかったのは「キャプリオ」というブランド名だ。安っぽいというか、恥ずかしいというか。ソニーはサイバーショット、ニコンはクールピクスと、どのメーカーも20世紀における21世紀っぽい名前をつけていたが、とくに群をぬいてかっこ悪いと思ったのが「キャプリオ」だ。この名前がイヤで購入を躊躇したことを、今思い出した。

購入決意のきっかけは、このカメラのムック本が出版され付録に「Caplio」ロゴを覆い隠すことができる「RICOHFLEX」シールがついていたことだ。これを貼ればかっこわるくない! むしろEVFをウエストレベルで使うにおいてシャレがきいてイイじゃん!

ちなみに、同じように思う顧客が多かったらしく、後継機GX200からは「キャプリオ」の銘が消えたんだった! 商品開発とは、このようにして進んでいくのだなあ。

◎正方形の構図

さて12年前の4月某日、都内のどこかへ来た。おそらくは、早稲田周辺ではなかろうか。
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GX100のアスペクト比を1:1に固定しEVFを装着、ウエストレベルでRICOHFLEXごっこをしていたようだ。どうやらこの日の私は都電に乗ってぶらぶらしていたらしい。良い天気の自転車置き場に落ちる影の中に、ビビッドな青い長方形を見つけたことをオモシロがっている。

めずらしく花を撮っている。
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しかし、これは壁とジョウロを撮ったら、たまたま花が写り込んだというのが正解だろう。私は花が嫌いではないが、ひねくれ者ゆえ「花はきれいなものだ」という既成概念が気に入らない。

このときもそういった根性が出たのは間違いないといえよう。ポッカのロゴが目立ちすぎると思わなくもないが、トリミングするとレンズの歪みの影響で逆に不自然になるので当時のままとする。

シャッターと青空。
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ミニマルなオモシロさを発見して撮影したっぽい。無彩色の水平の流れと青の色面との境界を、斜めの線で区切ることで正方形の構図の中にリズムを見つけたのだろう。

他人の写真をエラそうに講評しているような文章である。しかし、撮った本人が忘れているんだから似たようなもんだ。手前の黄色が青の補色関係にあり、面積比も効いていると思う。

スリリングな階段。
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いまにも落ちそうでコワイ。サビの進行もいい具合だし、階段につながる建物の扉に高電圧注意のマークがあることも、コワさを引き立てていると思う。よく見ると画面全体がほぼ直線のみで構成されている! それを意識して撮ったのか否かは、もはや知る由もなし。

家具
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家具屋さんだったんだろうねえ。はたしてこの建築は現存してるのかしら。かなり年季が入ってるから、戦前の物件かなあ。いずれにせよ、なかなかのモダニズム物件。

王子あたりの桜
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前後の写真を見ると、都電で飛鳥山公園のあたりまで行った形跡がある。ちょうど桜が満開だったようだ。それにしても、みんながカメラを上に向けているときに、わざわざ下に向けている撮影者は相当なひねくれ者のようだ。オレのことだが。

正方形の構図というのは、とても面白いがとても難しい。若かりし頃、広告写真撮影の際、正方形写真といえばブローニー判カメラの6×6のことだった。

私の経験では、タテにもヨコにもトリミングできるという意味が半分以上あったので、正方形のまま完結するなんてことは、レコジャケ以外あまり聞いたことがなかった。

そうそう、レコジャケ! 正方形写真の構成に最も参考になるのはコレなのではなかろうか。1:1の矩形をいかにオモシロく、飽きさせず、楽しくフレーミングする! の集大成だ。

とくにデジタル化前のものは、デザイナーの気合いレベルが違う。隙のない画面設計を研究するという名目で、連休はアナログ盤に針を落としつつレコジャケ鑑賞会なんて優雅じゃないか。あ、その前にプレーヤーを手に入れねば。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。