グラフィック薄氷大魔王[85]オーブン粘土スカルピー
── 吉井 宏 ──

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久々にフィギュア制作について書きます。

フィギュア造形は、好みの技法の傾向によって大まかに「盛り派」と「削り派」に分かれる。「盛り派」は、粘土を盛ったりひねったりヘラでなでつけたりしながらほぼ最終形状までもっていく作り方。「削り派」は、パテなどを大きめに硬化させてからナイフや彫刻刀やヤスリで削っていく作り方。たいていは、どちらの派の人も両方の技法を併用する。

おそらく「盛り派」に絶大な支持を得ているのが、スカルピーというプロ用樹脂粘土。フィギュア造形用には主に三種類のスカルピーが使われる。オーブンで焼き固めるまではいつまでも柔らかいままなので、時間をかけて細かな造形が可能。焼き固めた後で削ることもできるし、追加で盛りつけることもできる。


盛りつけたらすかさずオーブンで焼き(種類によって焼き時間に違いがある)、冷めれば次の作業にすぐとりかかれる。石粉粘土やパテではこうはいかない。また、手も汚れず臭いも少なく、レジン置き換えもいらず、淡々と作業できる。このように性質を文章で書いてみると、理想の造形用粘土のようだが、試してみると実際にはいろいろハードルがあることがわかる。

一番ポピュラーな「スーパースカルピー」。
弾力が少ないので形を比較的簡単に作れ、ヘラを使った作業がしやすい。しかし、焼き固めたものをデザインナイフで削ると、風化したロウソクを削るような感じにボロボロ崩れてしまう。そのため、細かい部分を削って造形するのはかなりむずかしい。また、半透明に光を透過する肌色なので、凹凸がよくわからないのも難点。盛り追加しながら何度も焼くと、ヒビが入ったり割れて脱落する。

高級品の「プリモスカルピー」。
白、肌色、銀色の三色がある。これは僕にはまったく向かないようだ。弾力が非常に強く、ヘラを押しつけても元に戻る力が働くためか素直に形が作れない。焼き固めても弾力は強いままで、細い部分を180度曲げても折れないほど。とりあえず強靱で滅多に割れないのはいいことだけど、削った感触は硬い消しゴムを削るような感じ。ヤスリの目がすぐ詰まる。まあ、デザインナイフ一本で最終形状までイケる人には理想的な素材でしょうけど。

中間に相当するのが「グレイスカルピー」。
色はグレイなので形状の確認がしやすい。他のスカルピーにくらべて練りが柔らかく、ベタベタしていて使いづらい。なので、新聞紙に挟んでしばらく置き、溶剤をしみこませて抜いてしまう方法が知られているようだ。やってみたところ、溶剤抜きの度合いによってカッチカチな状態まで調整できた(硬すぎのときに加える溶剤も市販されている)。焼き固めた後の削りの感触は、三種の中では最高。多少ボロボロ崩れる感じはあるが、比較的細部まで彫刻することができる。盛り削りがパテに近い使い勝手で、僕的には良好。ただし、グレイスカルピーだけで作ったものは一〜二年で割れてしまうという情報もある。

(上記は、どちらかといえば「削り派」の僕が「盛り派」御用達のスカルピーを試した印象でしかなく、人によってはぜんぜん違う感想になりますので念のため。)

……という具合で三種のスカルピーは一長一短。そこで、ブレンドすることになります。肌色のスーパースカルピーにグレイスカルピーを混ぜると、凹凸が確認しやすい色になるし、ヘラで造形しやすい性質を残したまま削りのボロボロ感を減らせる、というように、様々な割合でブレンドして試してみました。こちらも好みの別れ方が激しいと思いますが、僕の場合、グレイスカルピーに15%ほどプリモスカルピーを加えるのが(もろさを押さえつつ削りやすい性質)一番マシのようです。

ところで、どのスカルピーも焼きの度合いや回数によって部分的に硬さが変わってくるのがやっかい。説明書に「6mmの厚さに対して130度で15分」などとあっても、「温度を低めに時間を長く」のほうがいいらしい。大きなサイズのものは中まで焼けないため、小さい状態から何度も盛り焼きを繰り返す必要がある。かといって別素材で芯を作ってから盛りつけると、割れや破裂の原因になる。アルミホイルで覆わないと焦げる。オーブンより電気ストーブのほうがいい感じに焼けるという話もある。ハンディガスバーナーであぶる人もいるらしい。そのあたり、「焼きテク」と呼ばれるほど奥が深い。

で、先日からスカルピーを断続的に試しているものの、盛りと削りを同時進行可能ってのが、結局いつまでたっても完成しないにつながってしまうようで、今は止まってます。僕の場合、数時間のうちにほぼ最終形状まで作ってしまえるインダストリアルクレイのほうが、(レジン置き換えや仕上げの手間を考えても)向いているらしい。ただ、作業が大げさにならず淡々と作業できるスカルピーも、そのうちちゃんと使えるようにしたいですけどね。ただ今、販売用フィギュア第二弾(たぶん二種)の準備中。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

3DCGアニメーション仕事、いくつか見れるようになりました。っていうか、これで全部ですが。
●大阪のケーブルテレビ、ケーブルウエストの「楽録り」のコマーシャルで小鳥のキャラクター「らくトリちゃん」をアニメーションしました。
●テレビ東京系毎週火曜深夜1時のアニメ「ゴーストハント」のオープニングに登場する死神みたいなゴーストのアニメーション部分を担当しました。吉井テイストではないですが、思いっきりハリウッド調の怖いCGをやってみました。
●ソニーハンディカム全製品に全世界共通で同梱されるDVD「もっとビデオを楽しもう」で、ビデオの撮り方を教えてくれる女の子のキャラクター「Napoちゃん」を合計約15〜16分間アニメーションさせました。実写に合成されて俳優と掛け合いしてます。

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ゴーストハント DVD FILE1「悪霊がいっぱい!?」
小野不由美 真野玲 名塚佳織
エイベックス・マーケティング・コミュニケーションズ 2007-01-24
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by G-Tools , 2007/01/31