わが逃走[17]プラハ・キュビズム建築に関するご報告の巻 その2
── 齋藤 浩 ──

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前回に引き続き、俺様の趣味の世界全開モードでお送りします。
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プラハは“キュビズム”ネタ。2回シリーズにしようかと思ったんだけど、いろいろじっくり書きたかったので3回シリーズにします。別に年度末で忙しいから、書きやすいネタを温存しようという企みではありません。

ちなみに、今回ご紹介するのは超キュビズム物件。キング・オブ・キュビズム建築と各方面から絶賛されている『コヴァジョヴィチ邸』です。これだけでゴハン3杯はイケると思うので、今回ご紹介するのはこの物件だけです。別に年度末で忙しいから、文字数減らしてる訳ではありません。ではさっそくいってみましょう。


壱●キュビズムの日。

プラハ滞在3日目だったか4日目だったか。この日は丸一日かけて市内の有名キュビズム物件のハシゴをしたのだ。市内交通用7days passを持っていたので、市電を乗り継げば目的地まですぐなのだが、この日はあえて徒歩での移動とした。

ちなみにプラハの市電はスゲエかっちょいい。昔風車両と今風車両が混在して、名建築だらけのプラハの街を縦横無尽に走っているのだ。
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そう、俺様は何が好きって『都市における建築と路面電車との対比』が大好きなのだ!! 乗ってしまったらそれが見られないでしょ? だから歩いたのだ。悪いか。

さて、教員組合住宅隣のホテルからヴルダヴァ(モルダウ)川に沿って南下する。途中カレル橋で対岸に渡り、1キロちょっと川沿いを歩く。このコースだと、橋を渡る路面電車を眺めながらの散歩ができる。贅沢じゃないか。足下の石畳パターンが美しい。
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ふと見るとポルノショップ発見。
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いかがわしい店でも、街の景観から逸脱しないような配慮が市民の意識の高さを物語る。そういえば京都で老舗喫茶店めぐりをしていた際も、街並との調和を意識したピンサロを発見し感動したことを思い出した。

さて、イラースクーフ橋をわたって東岸に戻ると、ダンシング・ビルが見えてくる。
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ヴラド・ミルニッチとフランク・O・ゲーリーとの共作。古き良きヨーロッパの街並に違和感だだ漏れで屹立(?)するこの建築は、完成当時市民の間でも相当物議をかもしたそうだが、“対比”好きなオレとしてみれば充分アリ。

赤坂の木造長屋と六本木ヒルズしかり。松本零士先生の大四畳半の世界しかり。コントラストの激しい物同士の対比が際立つさまを愛でるという行為には、常々共感するのものがあります。

しかし、対比の美はあくまでも対比の美であって、最低でもSFチックな先端の美3に対して伝統的なわびさびの美7とか。そういったバランスじゃないといけません。間違っても『先端美1:伝統美1:中くらいなもの8』などという比率にしてはいけません。
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そもそもコントラストが弱いものたちを並べたところで、それは対比でもなんでもない。どうも我々の周りには『木を見て森を見ず』的な人が多いようです。デッサンだって全体の形を認識せずにディテールを描き込んだら、絵がチャカポコになっちゃいます。ブルータスの眉毛からいきなり描き込んでいくような奴に都市計画は任せられねえ。

話がそれた。

弐●コヴァジョヴィチ邸
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そうこうしているうちにコヴァジョヴィチ邸に着いた。すげえ。ヨゼフ・ホホル設計。実際に見るまでは、その冗談みたいなクリスタルカットの建物ばかり気になっていたが、実際は門や柵、そして庭の植え込みまで徹底してキュビキュビしている。
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もう、バカじゃないかしら。かっこよすぎです。美意識というか美学というか。形状ではなく、思想がキュビズムなのです。

前回、私は「絵画表現としてのキュビズムを見た奴がびっくりして、そのカッコ良さを立体表現のネタにして、勢いで作っちまったのがプラハのキュビズム」的なことを書きました。たぶん大筋では間違ってないと思うのです。

その理由のひとつが、「キュビズム建築におけるキュビキュビ感は、あくまでも装飾的に使われていることが多い」からです。すげえインパクトはあるんだけど、その形状は「住む」という目的に対して機能している訳ではない。

ところがこのコヴァジョヴィチ邸、そんなのは愚問! とでも言ってるかのごとく完璧なまでのキュビぶり。ここまで徹底的にキュビキュビしてくれると、もう何も言えなくなります。裏にまわってみると、またスゴイ。
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ひょっとしてこっちが表?

扉を中心とした左右対称のキュビ窓。そのリズミカルなバランスに思わず涙が。
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日差しもいい感じに射してきて、パキパキした面分割の美しさを際立たせてくれます。窓枠やちょっとした階段までも隙がないです。完全なるキュビズム。嘘もつき通すとホントになるとか、いい意味でそんな感じ。

ピカソやブラックは、本当はこの建築を見てキュビズム表現を生み出したんじゃないか? などという錯覚を覚える。現在はオフィスに使われてるみたいです。こんなカッチョイイ家でデザイン事務所なんてできたら素敵だなーと思う。大金持ちになったらこれと同じ家のレプリカを建ててやる、などと思う齋藤浩であった。

という訳で、今回は短いけどここまで。
次回はキュビズム集合住宅に潜入! というと聞こえはいいけど、建物内にある飲み屋でチェコビールを飲んだって話。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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