グラフィック薄氷大魔王[130]鉛筆の正しい持ち方
── 吉井 宏 ──

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鉛筆を手にするようになって40年以上。自分の鉛筆の持ち方は「正しくない」と気がついて30年。今さらながら、正しい持ち方にするべく矯正に挑戦。プロ野球選手の「フォーム改造」のようなものかな。

従来の僕の持ち方は、力を入れすぎて人差し指の第二関節が逆方向にグニッと60度ほど曲がるタイプ。物心ついた頃からそうしてきた。この持ち方の人はとても多いようだ。興味を持って以来、人がペンを持っている手元に注目してしまうのだが、半数以上がこれなのではないか? と思うほど。


正しい持ち方とされているのは、余計な力を入れず、人差し指をスッと伸ばして鉛筆に沿わせる感じ(「鉛筆の正しい持ち方」でWeb検索すると関連サイトがいくらでも出てくる)。

やってみると、手のどこに力を入れていいのかわからず、ペンの先を紙(タブレットも)に押し当てるのにも苦労。絵なんて書けたもんじゃない。こんな頼りない持ち方でいいのか?

文房具屋でいいもの発見。「プニュグリップ」なる持ち方矯正グッズ。鉛筆にはめて指を凹みに合わせて握ると、正しい持ち方になるというもの。似たような矯正グッズは他にもたくさんあるようだ。

使ってみると、なんとなく正しい手の形みたいなものがわかってきた。グリップの滑り止め効果もあって書きやすい。しかし、グリップなしだとやはり「頼りなさ感」が残ってしまう。鉛筆を人差し指に沿わせておくのがむずかしい。

次に試したのが輪ゴムを使う方法。人差し指と鉛筆を輪ゴムでゆるく固定して離れないようにする。しばらく書いていたらかなり慣れた。親指の位置がわかってくると、輪ゴムなしでも大丈夫になった。1〜2か月くらいで矯正完了。

で、わかったのは、従来の持ち方と正しい持ち方では一筆(1ストローク)で書ける範囲が2倍〜4倍ほども違うこと。従来の持ち方では、手首の位置を固定した状態で無理なく描ける円は最大で直径2〜3cmだったのが、正しい持ち方では直径6〜8cmくらい。水平・垂直線が3cm→10cmに。鉛筆の上の方を持てばさらに大きく描ける。

手首を固定せず腕全体を動かしながら描く場合も、指先でペンが大きくコントロールできるため、長い微妙な曲線も1ストロークで描けるようになった。従来は指先のコントロールがほとんど効かないので「肩で描く」感じだったのだ。

文字を書くときに違和感がまだ残っているものの、絵を描くときは正しい持ち方になって半年近く経過。フォーム改造に成功した模様。タブレットの端から端まで自由自在にペンを動かせるのは快適。

●おまけ「線を描くスピード」

もうひとつ、ペンをうまくコントロールできないと思いこんでいた原因が、線を描くスピード。マンガ家をテレビで見た印象からか、文字を書くのと同じスピードでシャカシャカ描くのが普通だと思っていた。僕は手を速く動かす心地よいスピードは秒速10cmくらい。ただし、勢い重視で正確には描けない。

昨年、フィギュア作家T氏がサインペンでファンにサインしてるのを目撃。サインに添える小さな絵を秒速5mm〜1cmくらいのストローク速度で描いていた。へえ〜、ていねいに描くんだな〜。そういう絵って数秒で描きとばすものだと思っていた。

僕も試しに秒速1〜2cmくらいに落として描いてみたところ、ビックリ。きっちりコントロールできるじゃないですかー。シャカシャカ10本くらい描いてマグレ当たりの1本を期待するのではなく、1本の確実な線だけをしっかりじっくり描けばいいのだ。これも鉛筆の持ち方と同じ頃に気がついたんだけど、今まで何やってたんだろ?って感じ。

【吉井 宏/イラストレーター】 hiroshi@yoshii.com

いくつか片付いて、普段のペースに徐々に戻りつつあるところ。TDWも復活。砧公園で桜も見れたし。
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