グラフィック薄氷大魔王[139]自称SFファン時代
── 吉井 宏 ──

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SFファンから"宇宙大元帥"として親しまれていた野田昌宏氏が亡くなった。僕が今こういう仕事をしているのに、少なからず影響のあった人物でした。
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禁マンガ・アニメだった子供の頃、外で遊ぶ以外の楽しみといえばプラモデルとか何か作ったり、図書館の本を借りまくって読むことだった。子供向けにやさしく書き直されたSFもたくさん読んだ。もうほとんど何も覚えてないけど、割とハードなSF小説の代表作的もずいぶん読んでいたようだ。

という下地があった上で、高校1年のときのスター・ウォーズ上陸。関連本を買いまくったけど、主なものは野田昌宏氏監修だったし、そもそもスター・ウォーズのノベライズ小説は氏の翻訳だった。スターログ誌も買い始め、SFビジュアルの世界の発見と同時に、ようやく「子供向けじゃないSF小説」の世界があることを知った。それでSFマガジンも買うようになる。



SF画家加藤直之―美女・メカ・パワードスーツSFマガジンに載ってた小説はたいして読まなかったものの、同誌のお子様向けでないビジュアルや小説の挿画や表紙の加藤直之氏など、イラスト関連に夢中になる。中でも野田昌宏氏の巻頭連載(大昔のパルプマガジンやSFアートの紹介のコラム)は毎回刺激的だった。氏の「SFは絵だねえ」という名言を体現するすごいビジュアルが続々登場。氏特有のノリノリの文章もあって、ワクワク度は振り切れ寸前。

アルザック・ラプソディHEAVY METAL誌(フランスのメタル・ユルラン誌の米国版)という大人向けSFコミック誌もその連載で知った。メビウスの代表作「アルザック」の絵がいくつか小さく載っていて、すごい衝撃を受けた。世界にはこんなものがあるのか!って。以来、見たことのないような絵を見つけて驚く快感を求めて、ずっと来た気がする(数年後、全バックナンバー取り寄せを思いついて馴染みの洋書屋さんにお願いするも諸事情により失敗。寺田克也氏も同じく野田氏の連載でメビウスを知り、全バックナンバーの取り寄せに成功したそうだ)。

というように、僕は野田氏の紹介で知ったSFアート/ビジュアルへのあこがれを核として、イラストレーターへの一歩を踏み出したわけなのでした。

銀河乞食軍団 (外伝1) (ハヤカワ文庫 JA (205))たいして読まなかったとはいえ、SFビジュアルをやっていく上で、基礎知識としてのSF小説ははずせない、という意識は強くあった。ハヤカワSF文庫や創元SF文庫などで名作といわれるものを中心に、26歳頃までに相当読んだ。ほとんど忘れちゃったけど、「リングワールド」などおもしろかったものもたくさんある。海外の名作SF以外にも、野田昌宏氏の「銀河乞食軍団シリーズ」や彼が代表だった頃の日本テレワークと絡めた短編シリーズなどは特に大好きだった。

「たいして読んでない」と謙遜のように書いてしまうのは、本当のSFマニアがどれだけたくさん読んでいるか知ってるから。それにくらべれば、僕なんかぜんぜん読んでないに等しいのだ。SFビジュアルは好きだけどSF小説を時間をかけて読むことがそれほど好きでないというのは薄々気がついたけど、自称SFファンの自覚として、なぜか読まなければならないのだ! 知っておかねばならないのだ! と思いこんでいたフシがある。

すでに上京を決めていた25歳頃、なんとか速く大量にSFを読まなくちゃならないと、名古屋の速読術セミナーに通ったことまである。集中力を高め、目の動きを速く滑らかにし、ページにある単語を映像として脳に焼き付け、内容を思い出して書き出す……というような訓練。あまり効果はなかったようで、半年くらいでやめちゃったけど。

上京直前の26歳頃、自信作のSFイラストをSF大会などで見せてまわっていた。絵としての印象は悪くないようなのに、ツッコミどころ満載の絵だったようだ。メカや武器だけでなく、細かい装具などの構造や描写の甘さにツッコミが入る。絵全体の色や雰囲気を見てほしいのに、アクセサリー的に思える部分が実は要で、そこをきちんと押さえていないと通用しないことがわかってきた。SFっぽいだけでツボを押さえてない絵はダメなのだ。だんだんSFアートでやっていく自信がなくなってきた。

1989年に、地元の蒲郡三谷温泉で行われた日本SF大会のスタッフになり、ポスター制作や印刷物のデザインなどを引き受けるなど、SF界に少しだけ深入りしはじめた。そんな頃、ある作家に「どのSF小説が好きか?」と問われ、野田昌宏氏の「銀河乞食軍団」しか挙げられない自分にショックを受ける。「僕はSF者じゃなかったんだ!」。それがきっかけで、SFからだんだん離れていくことになった。SFマガジンは、上京してすぐの創刊400号記念特大号を最後に買わなくなった。

生身の野田昌宏氏とは、一度だけ言葉を交わしたことがある。1988年に水上温泉で行われた日本SF大会の盛り上がる夜中、たまたま廊下でばったり鉢合わせした僕に「トイレどこだ?」「あっ! こっちです」ってだけなんだけど。加藤直之氏が野田氏をキャラクター化したイラストを立体化したレジンフィギュア、実家のどこかにあるはずだなあ。

普通なら「ご冥福をお祈りいたします」とか書くんだろうけど、なんだか野田昌宏氏にかぎっては、今頃、宇宙船「クロパン大王」に乗って、スペースオペラのヒーローたちや銀河乞食軍団の仲間たちと宇宙を駆けめぐっている気がしてならない……。

【吉井 宏/イラストレーター】 hiroshi@yoshii.com

iPhone。意外なほど早く、7月11日に発売だそう。auユーザーなので、iPhoneを使いたかったら乗り換えしなくちゃならないのは、DoCoMoでもソフトバンクでも同じこと。ソフトバンクの発表は、DoCoMoをあせらせて有利に契約を結ぼうってAppleの作戦のような気がする。つまりDoCoMoもiPhoneをやると。でも、非常に残念ながら、僕は使わない可能性が大きそう。CメールやFeliCa機能ははずせないし、ケータイコンテンツ関連の仕事もあることだし、普通の携帯電話を使い続ける必要がある。他にノートパソコン用のモバイル通信アダプタも必須。iPhoneを使うことになったら、固定電話やADSLと合わせて毎月の通信関連の料金をどんだけ払わなくちゃいけないんだ? モバイルコンテンツ仕事絡みでDoCoMo端末も確認用として手に入れたいと思ってたところなのに。一つの携帯電話番号で二つの端末が使えるサービスがあるんだったら、飛びつくかも。

携帯電話といえば、秋葉原の通り魔殺人。僕も最近用事で秋葉原に行くことが多いので、たまたまその時にあそこを歩いていた可能性も少しはあるわけで、ぞっとする。で、ニュースなどで非常に違和感があったのが、携帯電話のカメラで犯人逮捕の瞬間を撮った映像や写真。普通、まだ逮捕前の凶悪犯が視界の範囲にいるのなら、ビューッと一目散に走ってできるだけ遠くに逃げると思うんだけど。おまけに、犯人を撮影した人に人だかりができて何やってるのかと思ったら、写真を赤外線で自分のケータイにコピーさせてもらってたんだって。歩きながらでも電車の中でも自転車に乗ってても携帯電話でメールを打ち続けてる人もそんな感じだけど、携帯電話に意思があって、人間を操ってる感じ。

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銀河乞食軍団 (外伝1) (ハヤカワ文庫 JA (205))
野田 昌宏
早川書房 1985-07

by G-Tools , 2008/06/11