先日ふとしたことから(というか、いつものことなのだが)ダムや工場などの巨大構造物を見てみたくなり、どこか手頃なスポットはないかなーと調べていたのだった。
と同時に、自分の中の尾道分(注:おのみちぶん、と読む。マイ専門用語)が不足してきたので、一年ぶりにあの瀬戸内の美しい町に行きたくなったのだった。で、いろいろ調べていたところ、なんと、ものすごく都合のいいことに広島は尾道市の『尾道造船所』にてタンカーの進水式を見学できるという。こりゃ行くしかないぜ! とカメラ片手に行ってまいりました。
と同時に、自分の中の尾道分(注:おのみちぶん、と読む。マイ専門用語)が不足してきたので、一年ぶりにあの瀬戸内の美しい町に行きたくなったのだった。で、いろいろ調べていたところ、なんと、ものすごく都合のいいことに広島は尾道市の『尾道造船所』にてタンカーの進水式を見学できるという。こりゃ行くしかないぜ! とカメラ片手に行ってまいりました。
●写真とは無関係なところでカメラと旅する喜び
一年前の『わが逃走/尾道とカメラの巻』でも書いたが、尾道へ行くときにはどのカメラを持って行くかで激しく悩むのだ。


α-9はズームレンズが使え、また動きのあるシーンでもオートフォーカスと連写機能でシャッターチャンスを逃さない。それに対し、BESSA-Tは超美麗高性能の凄いレンズ『カールツァイス・ビオゴン35mm』が使えるのだ。ああ、あのこってりとした極彩色と強烈な立体感で尾道を撮ったら、どんな絵になるのだろう!!
私は写真表現が好きだ。それだけならまだしも、カメラそのものも好きなのだ(こういう奴は手に負えないごくつぶしになるから要注意だ)。純粋に美しい写真を撮りたいだけにとどまらず、「尾道を走る貨物列車の音にカメラのシャッター音を重ねて聞いてみたい」とか「カメラとレンズの重さを感じながら急な坂道を登ってみたい」とか、もはや写真とは無関係なところでカメラと旅する喜びを感じている。フツーのひとにしてみれば、相当危険な香りのする男、ということになる。
で、悩んだ末ミノルタα-9に決めた。レンズは50mmの標準レンズと12-24mmの超広角ズームの2本。フィルムは36枚取りのリバーサルを15本。心を決めればあとは早い。とっとと荷造りをすませ、早朝の新幹線で旅立つのであった。
●もう宇宙戦艦ヤマトにしか見えません
昼前に尾道着。相変わらず心地よいたたずまい。定番のラーメン屋で昼食、そして町並みを撮影。日が沈んだら旨い居酒屋で一杯。あ、この日のことはまたの機会に書きますね。明日は早いのでとっとと就寝。
翌日。朝7時起床。朝食を腹7分目まで食べてチェックアウト。いきなり話が脱線するが、ホテルの朝食がバイキング形式だった場合、早起きして早めに食べた方が旨いことが判明。
最近、どこのホテルも朝食の質が落ちたなあ、と思っていたのだが、まあ半分は不況の影響だったとしても、残りの半分の責任は私にあったのだ。そりゃ作りたての方が旨いに決まってるよな。楽しく旅することを考えた場合、やはり早起きは三文の得なのである。
さて、駅前からタクシーに乗って10分くらいかな。海沿いに巨大なクレーンがいくつも見えてきた。周囲の背の低い住宅との対比が面白い。まるで怪獣映画のセットのようなスケール感だ。


作為的に美しいもの(美しいものを作ろうとして、美しく仕上げられたもの)は見慣れているからちょっとやそっとじゃ驚かないけど、ここまで巨大な“必然性の美”を目の当たりにすると、腰が抜けるほどの衝撃を覚える。
さらに進むと、水の抜かれた巨大なドックがあり、中には修理中らしきフェリーが! 船首付近でたまたま作業中だったため、人物との対比によりその巨大さが一層引き立つ! というか、ただただ圧倒される。

でかい! そして美しい!! 宇宙戦艦世代としては、やはり船は陸上で見るに限る! のか??スミマセン、もうヤマトにしか見えません。きっとあの中には宇宙レーダーが仕込まれているのだ。ああもう、テンション上がりまくりです。
と、見えてきました、本日の主役。紅白幕で彩られたタラップの向こうに、万国旗を掲げたタンカーが海に尻を向けてナナメにじっとしている。で、でかい!さっきから同じセリフばかりでごめんなさい。
巨大カタパルトに載せられた宇宙戦艦て、こんな感じなのか!? さっきから例えが同じでごめんなさい。このカタパルトこそ船台と呼ばれるもので、海に向かって傾斜しているすべり台なのだ。ここで船は組み立てられ、完成後海へと滑走するのだ。
近づいてみた。おお、そびえている!! もうビルですね、これは。全長180メートル、全幅36メートル。ギリシアの船となるそうです。
そうこうしているうちにファンファーレが鳴り、日本語と英語による船の紹介が聞こえてきた。ギリシア国歌と君が代が流れ、いよいよ支綱(しこう)切断の儀。一般見学席からは見えないのだが、船の左舷上方には貴賓席が設けられ、船主のエラい人をはじめとする関係者がこの進水式を見守っているのだ。当然、支綱切断もそちらで行われるため、アナウンスを聞きながらシーンを想像する。

鎖のきしむ音とともに船体はあっという間に滑り落ち、ザッパーンという轟音とともに海に浮かんだ。拍手。
ものすごい迫力。なんだか泣けてくる。しばし呆然とする。船体はタグボートにより90度回頭され、すぐ脇の岸壁に横付けされた。

言ってみれば、私はたまたま居合わせただけだったのだ。しかし、末永くこの船を応援したくなってしまうからふしぎだなあ。でもって応援する対象が増えると、自分を応援してくれる人も増えるような気がするぜ。ああ、なんか幸せ。
それにしても、一般見学者を広く受け入れてくれる尾道造船の懐の深さに感服いたした次第。そういえばタクシーの運転手さんが言ってたのだが、この会社、略称を「オノゾウ」というらしい。なんだかかわいい。
進水式の感動を忘れないうちに、“おのぞう”という象のキャラクターをデザインしてオノゾウにプレゼンしてみよう! などと妄想する齋藤浩であった。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。