わが逃走[64]文京区ディープ物件散歩の巻
── 齋藤 浩 ──

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私のMacに『さいとうひろし』と打ち込んだら再逃避路師と変換された。
まさに『わが逃走』。
みなさんこんにちは、齋藤浩です。

春だねえ、なんて思っていたらいきなり真冬日に逆戻り、そうかと思えばいきなり夏日となんとも異常気象な今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は、いつも通りまったく反応のなかった散歩レポートの続きです。茗荷谷界隈を紹介します。

茗荷「谷」ってくらいだから、その名の通り谷である。駅周辺から線路に沿って後楽園方面へ歩く。国道からちょっと細い道へ入ると、風情のある曲がりくねった坂道がつづくのである。

丸ノ内線は地下鉄と名乗りつつもたまに地上に顔を出し、たとえばお茶の水における神田川を渡るシーンや四谷駅侵入シーンなど、いずれもフォトジェニックな情景な訳だが、ここ茗荷谷も例外ではない。



カーブミラーにお稲荷さんの映る高架を渡ったり、
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美しい階段のある築堤を走り抜けたり、
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さらには名階段『庚申坂』のバックに、一条のアクセントを残してくれたりするのだ。
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この庚申坂も実にダイナミックで美しい階段だ。階段の途中に小さな階段があったりして、実に微笑ましい。
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と、壁面に謎の配線跡を発見。おそらく階段を灯す照明があったのだろう。現在は味気ないごく普通の街灯が向かい側に立っているのだが、かつてここには帝都東京の名に恥じないモダンなデザインのものが取り付けられていたに違いない(と思う)。美しいアールデコ調の照明が設置された姿を想像してみる。
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庚申坂を登ったところで国道を茗荷谷駅方面へ戻り、こんどは反対側の湯立坂を下る。ゆるやかにカーブする美しいこの坂はタモリ氏も絶賛。ただ残念なことに道に面して高層マンションが建つらしく、現在工事中であった。

私の場合、でかい建物が建ってくると高低差の感覚が狂う。景観が損なわれるのはもちろんだが、どこが山でどこから谷になっているか的なことを、感覚的に把握しづらくなるのは寂しいなあ。

坂下のロシア料理屋にてピロシキとボルシチ(旨い)を食べた後、千川通りを渡ってすぐの東京大学総合研究博物館小石川分館へ向かう。

今回初めて訪れたのだが、展示もよければ建築もイイ。ちなみに明治9年築の美しい木造建築だ。東大の敷地内にあったものを40年前に移築した後、博物館としてリフォームされたらしい。この移築っぷりとリフォームっぷりが実に良い。当時の良さを見事に残しつつ、博物館として無理なく機能している。
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建物は移築されたり修復されたりすると本物っぽさが失われ、レプリカっぽく見えてしまうことが多い。門司港レトロ地区がそんな感じだった。本物なのに、ディズニーランドの建物みたいに見えてしまう。

それに対し、ここは建物の持つ匂いとか、息づかいのようなものがきちんと感じられた。とくに内装がイイ。手を入れるところはきちんと手を入れて、雰囲気を残すべきところはきっちりおさえている。

さて現在ここでは『驚異の部屋展』なる展示が開催中なのだが、これがまたすごい! いわゆる学術標本といわれるモノ、たとえば建築模型や生物の骨格、機械の部品から何だかわかんないモノまで、整然と美しく並んでいる。
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しかも素晴らしいのは、それらに一切説明書きがないのだ。ここまで潔いと見る方にしてみれば「これは何に使う道具なんだろう?」とか「これって三葉虫の化石? だよね??」みたいなナゾ解きを楽しめるのだ。解けないナゾも多いけどね。

こういう空間にいるだけで、アイデアがどんどん出てくるから不思議だ。これからデザインのネタに困ったらここに来ようと本気で思う。

ちなみにこの『驚異の部屋展』なるものは常設展で、公開はまだしばらく続くらしい。みなさんも是非。休館日は月火水。入場無料。

といったところで、今回は短いけどここらへんで。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。