わが逃走[75]帰ってきたオリンパス・ペンの巻 その2
── 齋藤 浩 ──

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という訳で、修理を終えて帰ってきたオリンパス・ペンS(f3.5)を持って、ぷらぷらテスト撮影なんてことをしてみることにした。

ちなみに、このオリンパス・ペンは完全なマニュアルカメラです。つまり、絞りもシャッタースピードもピントも全て自分で設定するのだ。さらに露出計も距離計もついてないから、外付けのものを使うか、勘と目測でなんとかする。

このへんこそペンの面白さと言えましょう。操作する楽しさを全て機械に奪われた、最近のコンパクトデジカメとは真逆の良さという奴ですね。ある程度の慣れは必要かもしれないけど、そこがまた楽しい。

という訳でいざ撮影です。ネガフィルムを使えば露出の幅も融通きくし、より一層気楽さUPな訳ですが、今回はテストという意味合いもあるので、外付けの露出計+ポジで撮ってみました。ピントはもちろん目測。

で、こちらが今回の頼れる味方、フォクトレンダーのVCメーター。こいつは露出計が搭載されてないクラシックカメラにマッチングするようデザインされたらしく、ペンにくっつけてもよく似合う。しかも軽い。
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そんな訳で、お出かけのときは必ずペンを首から下げて、気になる景色はとりあえずパチパチと撮っていったのだった。



さて、撮りはじめたはいいがうっかり36枚撮りを入れてしまったため、なかなかフィルムが終わらない。前回も書いたけど、ペンはハーフサイズのカメラだから36枚撮りで72枚も撮れるのです(その分解像度は半分ということになる)。

デジカメと違って、フィルムでしかもマニュアルで72枚というと、けっこうな量あるもんですね。出かけたついでに撮り歩く感じだと、シャッターを押すよう心がけても一本撮り終わるまで3日もかかた。恐るべしハーフサイズ。

そんなこんなで現像が上がってきたので、ライトテーブルに乗せてみた。おお、ちゃんと撮れてる。
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昔の露出計内蔵型カメラだと、シートをライトテーブルに乗せたとたん、まっしろ! てな具合に、ポジを使うとオーバー目になっちゃうこともままあるのだが、21世紀の露出計を付けたペンには失敗はほとんどなかった。ちなみにこのオリンパス・ペンS(f3.5)のレンズは35ミリ換算で焦点距離は約39mm。いわゆる準広角ってやつですね。もうちょっと画角が広いと融通きくのだが、そのへんはご愛嬌。

こんな写真が撮れた。1
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赤坂にて。ハーフサイズは普通の35ミリフィルムの半分で1枚。なので、フィルムスキャナーでスキャンするとこんな感じになる。組写真を意識した訳でもないが、これはこれで面白いかもしれない。青空バックの赤プリの壁面は白トビもせず、ちゃんと踏みとどまってくれた。とちょっと嬉しかった。

こんな写真が撮れた。2
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銀座四丁目交差点。ハーフサイズだとついタテ位置の写真を撮ってしまう。普通に構えるとタテ構図になるので当然といえば当然だが、ポスターやパンフレット等のデザインなんかをしている身としましてはけっこう自然。また、タテが苦手な人にも構図養成ギプスとしてこのカメラは有効かもしれない。あ、でも今はみんなケータイで撮ってるからそんなに違和感ないか。

こんな写真が撮れた。3
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ウチの近所にて。別に意識した訳じゃないんだけど、ちょっと昭和を感じます。この景色の後側では道路の拡張工事が進行中で、数年前とはまるで違う景色になってしまいました。土建屋に仕事を作らないと日本の行政は行き詰まるそうですが、親子で同じ景色を共有できないと人間関係が行き詰まるのではなかろうか。

といった感じで、なかなか楽しく撮影することができました。修理から戻ったら別人のように若返ってしまったオリンパス・ペンS。オレ的には大満足です。

ついでなので、衝動買いしたオリンパス・ペンS(f2.8)の試し撮りについても報告しちゃいます。モノ的にはレンズ以外の基本的な構造はf3.5と同じで、焦点距離は35ミリ換算で約42mm。微妙に標準寄り。

こんな写真が撮れた。4
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御茶の水にて。ハーフサイズならではの表現として、こういうパノラマ的写真というのもアリでしょう。次回はもっとコマとコマの間の重なりをなくして、よりパノラマ感をアップさせたいです。

こんな写真が撮れた。5
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地元にて。あっと思った瞬間にシャターを切った。高度に電子化されたカメラだと起動に時間がかかったりするもんだが、電池すら不要のペンならタイムラグはゼロに等しい。その時の天候から大体の数値...たとえば1/125、f5.6、5mとセットしておけば、まあなんとかなるのだ。

こんな写真が撮れた。6
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豊洲にて。いかにも土壌が汚染されてそうな感じがgood。この無機的な建物と駐車場の対比を見た瞬間、フェンスに(ちょっとだけ)よじ登って撮った。ちょっと行動が怪しかったかもしれない。最近はオシャレじゃない奴がカメラを持っていると、変質者と間違えられたりするので注意だ。

てな具合で、オリンパス・ペンと一緒の日々はなかなか楽しい。しかし、フィルム性能が極限までアップして、なおかつまだフィルムが手に入るという時代はそう長くは続くまい。なのでペンを使うなら今しかない! のかもしれない。

さて、写真の管理がほとんどパソコン上で行われている現在、唯一めんどくさい作業はスキャンです。現像のときにCDに焼いてくれるサービスがもっと安ければなー!! と思う齋藤浩でした。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。