グラフィック薄氷大魔王[244]暮れゆく電子書籍元年? 後編
── 吉井 宏 ──

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(前編からつづく)......というわけで、僕は本をなるべくなら電子書籍として入手したいのです。

「紙の本のほうが優れている。紙の本は滅びない」と強く主張するのはかまいませんけど、それと「電子書籍はダメ」とこき下ろすのはぜんぜん別の問題じゃないでしょうか? 紙の本が大丈夫なら、電子書籍をやろうとしてる人の足を引っぱる必要はないでしょ。電子書籍が普及しないと困るっていう僕みたいな人もいるんだから放っといてよ〜。

CDが出てきたとき、「ジャケットからレコードを取り出しターンテーブルに載せ、針を落とす儀式があってこその音楽鑑賞」と不快感を示す人がたくさんいた。ならば、「紙の感触があってこその書籍」とかいう人たちにレコード愛好家や銀塩写真愛好家の楽しみを奪った自覚はあるのだろうか? などと言ってみたりして。



●新しい電子書籍端末くらべ

SONY ReaderとシャープGALAPAGOSが出てきましたね。渋谷の量販店で両方いじってきました。

SONY Readerは、Macに非対応。いまどき信じられない。どうも、日本語表示関連でフォーマットやDRMの問題があるらしく、しかたなくWindows対応のみでスタートせざるを得なかったらしい。おまけに他の国で売ってるモデルにはついてる通信機能もなく、Windowsでダウンロードした書籍をReaderに転送することしかできない。いくら事情があるからといって、これでiPadやGALAPAGOSに対抗しようって意味わからん。正直非常にがっかりしました。

触ってみると、モノ自体はいかにもソニーっぽい外観デザインが好みじゃないけど、モノクロ画面はちゃんと読みやすいし、ページめくりもいい感じです。Reader Storeもオープンしてますが、パソコンなしでいつでもどこでも読みたい本を買えるようにならないとねぇ。ちなみに、内蔵のペンでページにアンダーラインを引いたり手書きメモもできます。絵も描けなくもないですけど、非常に遅いです。

SONY Reader
< http://www.sony.jp/reader/
>

一方、シャープのGALAPAGOS。10.8インチモデルはiPadをちょっと長くした感じのデザインと存在感。背面も樹脂なので高級感はなく、日用品という雰囲気。電子書籍端末としてはいいんじゃないでしょうか。表示やページめくりにも不満はなさそうです。ホーム画面が本棚なので、本気の電子書籍端末って感じです。5.5インチモデルは、文字主体の本を通勤などで読みまくるにはいいと思いますが、ビジュアルの多い雑誌とかを見るには不向きかな。

TSUTAYAと組んだ電子書籍ショップも開店してます。まだ数は少ないです。マンガなんか、いしいひさいちともう一人しかなかったりする。雑誌の定期購読のしくみがあったりするので、僕的には大GALAPAGOSのほうをそのうち入手したいと思ってます。

シャープ GALAPAGOS
< http://www.sharp.co.jp/galapagos/
>

●電子書籍ストアくらべ

各電子書籍ストアの現在の書籍数についての記事(YAHOO!ニュース12/18)「Reader Store」と「TSUTAYA GALAPAGOS」の"蔵書点数"を数えてみた
< http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101218-00000015-zdn_pc-sci
>

最初にしてはそこそこ数はあるんじゃないでしょーか。値段も紙の本より安い。雑誌のバックナンバーなど含めて数十万点くらいになってくれば、ようやく電子書籍時代の到来とも言えそう。

iPad用に電通がやってる「マガストア電子雑誌書店」では、いくつか買ってみました。他店同様、値段が紙の雑誌より安めなのはうれしい。MacFanやPenやSPA!もあるし、フリーマガジンもある。サムネール表示で全体をざっと見ることもできる。IDを取得しておけばパソコンでも見れる。ダウンロードが重すぎるのは不満だけど、このまま行ってくれれば紙の雑誌を買う頻度はかなり低くなってくるかも。

マガストア
< http://www.magastore.jp/
>

ソフトバンク系の「ビューン」は電子雑誌の定額制みたいなサービスで、なかなかイイです。40の新聞や雑誌が一ヶ月450円で見放題(全部見れないのもある)。Cover Flow表示もできるし、使い勝手も悪くない。さっき見はじめたところで、料金の払い方とかよくわからない。最初の30日は無料なので、たぶん1月後半になればわかるはず。

定額制だと、ぜんぜん見ない雑誌にもお金を払ってるみたいな感覚があるので、ケーブルテレビのように、10雑誌300円みたいに範囲を決めて払うほうが気持ちいいかな。

しばらくいろんな雑誌をペラペラめくってみましたが、購入ボタンを押す勇気が不要な雑誌見放題の世界は強烈。え? 全部見ちゃっていいの? 怒られない? みたいな。慣れちゃうのは危険に感じるほど。何百円も払って単品の電子雑誌を買う気になれないよ。

ビューン
< http://www.viewn.co.jp/
>

ただし、大きな欠点がある。メガストアやビューン、それにボイジャーなどで購入した雑誌には広告が載ってないのだ。広告ページが空白になってる! 契約の問題なんだろうけど、雑誌に広告が載ってないなんて、楽しみの半分くらいが失われてしまう。ってことは、紙の雑誌の半額でも高すぎるってことに。電子雑誌は広告バンバン載せて、タダでばらまくフリーペーパー化すればいいのに。民放のテレビと同じことなので不可能じゃないと思う。

ところで、電子書籍端末ごとに電子書店ができて、互換性がないのは消費者にとってはバカバカしいかぎり。でも、主要端末を二〜三台持てばほとんどの電子書籍をカバーできるとしたら、それでもしょうがないかなくらいには思える。だって、たとえば紙だと厚さ10メートルの1000冊が一台の端末で済むのと二台の端末で済むのでは、1cmくらいしか変わらないもん。

モノは考えようで、電子書籍端末が乱立とはいえ何十種類もあるわけじゃなく、代表的なものはたった数種類。その点、従来の紙の本は一冊ごとに機種が異なるともいえる。機種が異なるというのは、一台が二台を兼ねられないという意味で。

機種が変わるとそれまで買った本が読めなくなる、というのが電子本反対の根拠にされることがあります。現状ではその可能性は大いにあります。でも、そのための標準フォーマットでしょ。PDFやePUBの電子書籍は百年後の機種でも互換性は保たれてるはずだと思う。妙なプロテクトをかけてない限り。あと、先週書いたように、変にマルチメディア化せずシンプルに保つのが肝心。

また、Appleの電子書籍が検閲だの表現の自由を侵害とかの話もありますが、逆に考えれば、Appleは電子書籍の流通やデバイスを独占するつもりがない、ってこと。他社にもチャンスがいっぱいある。

あと、「海賊版放置、出版4団体がAppleに抗議」。これはおかしい。違法かどうか判断できるのは出版社と作者しかない。iTunesストアに載せるとき「これはパクリっぽいので却下」とかをAppleにしてほしいのかと。どこまでが「明らかに海賊版」でどこまでが「パクリで著作権侵害してる可能性」とかをAppleに判断してもらっちゃっていいのかと。

今までと同じく、自分で海賊版を発見し、自分で法的手段をとるだけの話。っていうか、遠い国の奥地に海賊版を調査しに行くわけじゃないんだし。そうだ、最初に見つけて報告をくれた人に少額の賞金でも出せばいいんじゃないかな。世界中で競って海賊版探しするぞ。

●電子書籍の理想型は巻物か平面

電子書籍は紙の本を踏襲したページをめくるスタイルを捨て、巻物を手本にするべきだと思う。小説とかマンガとかの物語は、始まりから終わりまで一直線だから、巻物が適してると思う。ページで区切る必要はぜんぜんない。マンガは巻物に適したコマ割りを考えなきゃいけないけど。

雑誌やカタログなどの、時系列が重要じゃないものは一枚の平面ってのがいいと思う。特に見せたいものは書籍を開いたときに中央付近にあればいい。大きな平面一枚で雑誌全部に相当、ってのは面白くてもさすがにキツイだろうから、特集とか連載とかの区分けで平面を別にしてもいいかも。巻物でも同様。

ページをめくるって断絶を越えるってことだから、極力なくす方向で。ウェブでも「次のページ」とかやってるけど、あれも意味ないと思う。スクロールは手間じゃないもん。っていうか、次のページを開くにはどこかのボタンを押しに行かなくちゃいけないけど、スクロールはホイールやタッチでひょいだし。

今は過渡期で、今まで蓄積した本のレイアウトデータを活かせばデザインコストが安く済むってのはあるだろうけど、これから新しく作る電子書籍は巻物か平面でおねがいします。

あと、画集や写真集などの作品集を閲覧するための、20インチ以上で高画質の端末がほしいです。ポータブルでなく据え置き型でもいい。まあ、普通にタッチパネル式のパソコンってことになるんでしょうけど、やはりパソコンとは別の書籍専用機はほしいなあ。

●おまけ......1

先日、資料として「普通のカジュアル服」を探してて見つけたニッセンのiPad用電子カタログ。オンラインだけで、保存できないみたいなのが惜しいけど、Cover Flow表示でパラパラ見れて便利。電子書籍・雑誌に関わってる人はぜひ参考にしてほしい。単に縮小画像をページ順にならべてCoverFlowさせてるだけなので、大して手間はかからないと思う。この仕組みがない電子本・雑誌は「本」と名乗るのが恥ずかしいくらいになってほしい。

●おまけ......2

吾妻ひでお「失踪日記」を自炊しようとして、カバーの裏に「発見した人だけ読める、裏失踪日記」発見! 検索するとけっこう出てきますけど、知らなかった人多いだろうな。スティーブン・キングの「ミザリー」のカバーをはずすと、小説中で主人公が書いてる小説の表紙が出てくるって仕掛けもあった。まあ、こういった編集者の遊びってあんまり好きじゃないけど、裁断のときにこういうのを発見できるのはおもしろい。

●おまけ......3

iPad用の自炊PDF用ビュアーとして「i文庫HD」を使ってきましたが、いまだにPDF内検索もページのサムネールブラウズもできない。最近知ったビュアーでいいのがありました。「Bookman」という無料アプリ。大きなサムネールでページをブラウズできるし検索もできる。こちらに移し替え中です。

Bookman < http://itunes.apple.com/jp/app/id369540110
>

【吉井 宏/イラストレーター】

ヤマト。しょうがないので見てきましたよ。ここでは感想は書きませんけど、「無尽蔵とも思えるほどのネタの宝庫」であることは保証します。これを見ずに忘年会や新年会に行くのは超もったいないです。必見!

今年の最終回なのに、直前に書きたい話題がドッと出てきた。年明け最初の回には賞味期限切れになっちゃうかな。

郵便年賀.jpの「今年の一文字」をやってみた。「2010年でTwitterで最もつぶやいた漢字」は「作」でした。そのまんますぎて納得せざるを得ない〜。
< http://yubin-nenga.jp/hitomoji/index.html
>

・iPhone/iPadアプリ「REAL STEELPAN」販売中
REAL STEELPAN < http://bit.ly/9aC0XV
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・「ヤンス!ガンス!」DVD発売中
amazonのDVD詳細 < http://amzn.to/bsTAcb
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・「ヤンス!ガンス!」オンエア情報
MUSIC ON! TV、TVK(テレビ神奈川)、Gyao、music.jp、Wiiシアターの間でも配信中。同じくMUSIC ON! TVの番組「George's Garage(GGTV)」のオープニングをヤンス!ガンス!のコラボで制作。
< http://www.m-on.jp/blog/ggtv/2010/10/101002-4.html
>

・「毎月1日は映画サービスデー」CMに「ヤンス!ガンス!」登場中