わが逃走[81]冬の尾道の巻 その2
── 齋藤 浩 ──

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こんにちは。尾道路地裏階段鑑賞協会会員の齋藤です(そんな会は実在しませんが)。前々回は大量の写真を紹介させていただき、どーもスミマセン。どなたからも賞賛もなければ抗議もなかったので、この調子でまた好き勝手書いちゃうことにします。

えー、1月のある日、どうにも尾道の写真が撮りたくなって1泊2日の旅に出てきまして、そのときの写真をお見せしつつ、坂と路地と階段と猫と潮風と旨い魚の町・尾道の魅力を語っていこうというのが今回の主旨でございます。それではさっそくはじめましょう。

1日目の天候は雪もちらつく曇りだったが、徐々に晴れ間も見えてきた。山の手の神社から見下ろす瓦屋根の街並の、コントラストがだんだん高くなってゆく。たき火と潮の香りに混じって、そろそろ夕飯の支度の音が聞こえてくる頃だったかな。タイル小路に迷い込んだのだった。

タイル小路
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この道は本当に不思議で、ここを目指して歩き回ってもいつも迷子になってしまう。あきらめてのんびり進むといつのまにかたどり着いているという、4次元的空間なのだ。

あの女子高生が時をかける映画でも、下駄をはいたトモヨちゃんがここで不思議な体験をしている。映画を地でゆく町、尾道。ただ残念なことに、周囲の空き家化が目立ってきている。以前のような生き生きした感じが復活することを切望する次第。



アールデコ
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さらにてくてく歩いていくと、小学校にたどり着いた。ふと見るとその門柱の美しさたるや尋常じゃない! 斜陽がまた立体感を強調し、まさに美の極み。すごい!

ただの柱に夢中でシャッターを切るオレの姿が妙ちくりんに見えたらしく、周りにいた小学生が「あ! 戦場カメラマンがなんか撮ってる!」と声を上げた。校舎の建築もとても美しく、さらに反対側の校門もこれと異なる形状の門柱が守っている。あー、こんな小学校に通いたかったな。

おばあちゃんの路地
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夕陽が山にかくれそうだ。今日も一日が終わる。ここでは空気が時を知らせる。
そういえば子供の頃はいつもこんな感じだった。この写真を撮っているとき、ちょうどおばあちゃんがヘルパーさんに付き添われて階段を上ってきた。
「尾道はどうですか?」
「美しい町ですね」
こんな当たり前のあいさつを交わしただけなのに、なんだかとても嬉しい。

おばあちゃんもヘルパーさんも、とてもいい顔してたなあ。撮らせてもらえばよかった。1日目の撮影はこれでおしまい。ホテルに戻ってひとっぷろ浴びて、居酒屋で旨い魚を食べて寝た。

2日目は朝から快晴だ。

階段も瓦屋根の家々も、陰影が美しい。見事なコントラスト。この日のカメラはコンタックスG2。絞り優先AEを搭載したAFレンジファインダーという、これまた完全なる趣味カメラだ。レンズは21mmと45mmと90mm。

まずは21mmで撮りはじめた。尾道は狭い空間に風景がぎっしり詰まっているので主に広角で撮るべきだと思い込んでいたのだ。何事もそうだけど、思い込みは良くないよね。

駅前風景
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20歳のときに初めて降り立った駅前は、再開発でこんなんなっちゃった。しかし、地元の人にとって良いことであるのなら、それはそれで良いのである。右が尾道水道、左が階段と路地が密集する山の手地区。山の手はその地形ゆえ風景が変わらずにいてくれるが、実際住むとなると苦労も多いはず。

てな具合に街並をスナップしていった。で、なんかの拍子で90mmレンズをつけてみたら、そのフレームの潔さに驚く。

抽象画
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風景を切り取って絵にする感覚。なんて楽しいんだ! 今まで90mmはポートレート用のレンズだと勝手に思い込んでいた。今回このレンズを持ってきたのも、せっかく買ったのにあまり使ってなかったからという、極めて後ろ向きな理由からだった。

で、実際この画角でこの町を見てみると、もう、美術品のオンパレードみたいな状態だってことに気づく。木を見て森を見ず。あ、この場合は森を見て木を見ずか。来る度に新しい発見がある町、尾道。ほんと、勉強になります。

青と白
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空の青さと手すりの白さとその影との対比を考える。

やや朽ちた階段
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下りた先は何もない空き地なんだけど、生活の痕跡みたいなものがそこここに残っている。これはこれで素敵な空間なんだけど、やはり人の住む家がなくなるのはさみしい。

壁と瓦と空
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尾道に来る度に思うけど、壁や地面に落ちる影のかたちが本当に面白い。で、それらをいかにリズミカルな構成として定着させるか、なんてことを考えながらファインダーを通して見る風景は、実物以上に立体的に見えるから不思議だ。ガラスのファインダーには液晶モニターとは別次元の、五感と繋がる心地よさがある。

手すりと階段
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うーん、ミニマルアートだなあ。実用を考えて作られたものなのに、なんでこんなに気持ちいいんだろう。

屋根
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区画整理されたニュータウンでは、まずこんなリズムの屋根は見ることができない。屋根の傾斜(X軸、Z軸)と家の角度(Y軸)から生まれるランダムな秩序。こういうのって究極の「無作為の美」だと思うんだけどなあ。それともこれはただの屋根が見える風景に過ぎないのだろうか。オレなんか変なこと言ってますか?

フタ3つ
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止水栓と書かれた金属製のフタ3つ。地面に埋まってます。ただそれだけ。なのに何故こうも美しいのか。ひょっとしてそう感じてるのってオレだけ?

階段
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こういうスキマ系階段ていいよねー。と同意を求めてしまうが、皆さんはどう思うのでしょう?


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尾道の猫は旨い魚を食って運動しているので健康的だ。カメラを向けたらポーズをとってくれた。

うーん、ここまで天気がいいと手ブレを気にすることもない。ボケをイメージして絞り値を設定しちゃえば、あとは構図に専念できる。この日はCONTAX G2で正解でした。撮影はまだまだ続きます。

ただの屋根や地面や壁にいちいち感動するオレは、ひょっとして変なんじゃないかと不安に思わなくもないけど、画角の狭いレンズで切り取ったこれらの風景に共感してくれる人がいることを信じて次回へ続く!

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。