わが逃走[91]ひかえおろう!の巻
── 齋藤 浩 ──

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前回、シド・ミード氏のデザインにまつわるマニアックな話をしたオレなわけですが、その際とくに熱く語った映画『ブレードランナー』に登場した自動車"スピナー"が、なんと今更プラモデルになって来月には発売されるそうです。

当然のことながら事前情報なんて一切なかったものだから、嬉しさよりも驚きの方が俄然大きかったわけです。あまりにタイムリーなので、何かの冗談かと思いましたが本当のようです。

狭く深いマニアックな人(私を含む)は少なくとも3個は買うと思うのですが、この時代に果たして売れるのか......? まあ、ビジネスですから売れることを見越した上での暴挙(?)なんだろうなあ。

噂によれば、『ブレードランナー』という映画はとくに版権が複雑にからみあっているらしく、人気のある映画にもかかわらず、グッズらしきものが少ないのです。

そういえば、発表されたブースの写真を見てみると「あの未来の車スピナー」とあるだけで、『ブレードランナー』のブの字も見当たりません。無版権で出すのか?? それともブレランはすでに版権切れ? なにやらよくわかりませんが、30年越しの夢がかなうわけですから、とにかく発売が待ち遠しい。



さて、ある意味"予言"が当たったので、この勢いで光岡自動車からミードデザインの車が発売されたりしたらスゴイなあ。光岡のお家芸である"クラシック風"は、大手自動車メーカーらが恥ずかしげもなく真似をしたことで、わりと普通になっちゃった。

ここらでひとつ、新しい視点と価値観で、世の中があっと驚く(しかも大手メーカーが真似できない)ような車を作ってください!!

と、前回の続きで始まった第91回「わが逃走」である。思えば毎回くだらんことを書き続けているが、今週はどんなくだらんことを書くべきか......。と思いつつ古新聞を束ねていたところ、『水戸黄門』放送終了の記事が。つーことで黄門についてだらだらと語ることにする。

さて、今回の終了の件、世の中的には残念な出来事ってことになってるけど、オレ的にはどーでもいいことさ。

だいたい今の黄門は里見浩太朗である! あんながっしり体型の黄門様がいるか? そもそもオレが中学生のとき助さんだった人が今は黄門様って、ありえないでしょう。

まあ、その前の黄門が石坂浩二という違和感ありありのキャスティングだったから、その反動ってことなんだろうけど、オレには年取った長七郎にしか見えんかったね。月曜なのに火曜日と錯覚する始末さ。

んでもって、これだけ長いシリーズだと役者さんも年老いるわけで、21世紀になろうという頃には風車の弥七もうっかり八兵衛も、黄門様と年の差がなくなってきた。そうなったらやはり引退してもらって新しいキャラクターを導入!ってことになるのが世の常だけど、あまりの長寿番組ゆえストーリーも役柄も変えづらいしなあ。

まあそう考えればあれから10年以上もよく続けたと思うよ。とはいえ、オレが許せるのは、せいぜい西村晃の黄門様までだな。

と、エラそーに語るオレであるが、なにを隠そう、オレは『水戸黄門』が好きなのである。内容ももちろんだが、放送されていた時代とか、テレビに映ってる状況とか、そういったものを含めて好きなのだ。

さらに言わせてもらえば、オレは月曜8時よりも平日4時からの再放送の方が好きなのだ。窓の外がだんだん暗くなっていく時間帯に、畳の部屋でおかきを食べながらお茶を飲みつつ、ブラウン管で鑑賞する『水戸黄門』はすこぶるイイ。

小学生の頃、宿題をやる前になんとなくだらだらと見てしまう、あの感じ。再放送だと「おのれ、この......じじい!」「うぬ、......じじいのぶんざいで!」など不適切なセリフがところどころカットされたりして、そこがなんとも微笑ましいのである。

独立したばかりで、まったく仕事がなかった頃に見た『水戸黄門』も良かったなあ。自主制作の合間に「このままぜんぜん仕事が来なかったらどうしよう......」とか思いながら、おかきを食べながらお茶を飲みつつブラウン管で鑑賞する『水戸黄門』見終わる頃には気分もすっきり。実によい。

さらに言うなら、東野英治郎時代の初期のモノがとてもイイのだ。まず、フィルムで撮ってる。最近の極彩色ハイビジョン映像は数値的にはきれいなのかもしれないが、『水戸黄門』には適さない。

フィルム時代の『水戸黄門』には、空気までも映されているように思えるのだ。また、ロケ地が本当に美しいのである。茅葺きの農家や曲がりくねったあぜ道など、日本の原風景が見事に映し出される。

時折トタン屋根や電柱が見えたりするけど、そんなものはご愛嬌である。昭和40年代にはまだまだ江戸を思わせる景色がたくさんあったのだ。そういう目で時代劇を見るのは邪道なのかもしれないが、古きよき江戸と昭和を同時に鑑賞できることはなかなか贅沢なのである。

そしてまた、初期黄門はまだパターン化されていなかったところがイイ。印籠を出さない回もけっこうあった。脚本も"お約束"的表現はまだ少なく、毎回黄門様が負けちゃうんじゃないかとハラハラする(が、たいてい勝つ)。

実験的な(?)作品も多く、中でも印象に残っているのは「走れメロス」そのまんまの回である。助さんだか角さんだかが(どっちだったか忘れた)囚われの身になり、悪人に「暮六つを告げる鐘が鳴り終わる前に戻って来ないとこの男を処刑する」と言われ、助さんだか角さん(どっちだったか忘れた)が役目を果たして鐘のなり終わるギリギリにかけつけるという話。

「助さん、オレを殴ってくれ」「角さんこそオレを殴ってくれ」とのやりとりもあり、かなり驚かされます。

さらに、脇役の役者さんも顔立ちが昔っぽくてイイ。とくに子役が本当に昔の日本人に見える。いまどきの目鼻立ちがくっきりしていてスタイルのいいガキとは違って、純朴そうで安心感がある。

というわけでオレなりの結論としては、薄型テレビでハイビジョンな時代に、新たな水戸黄門制作など必要なし。いっそのこと昭和44年制作の第一部から毎週一話ずつ月曜8時に再放送したらどうでしょう? そしたらあと40年は続けられますよ。

新しく焼き直しモノを作るより、はるかに新鮮で面白いと思うんだけどなあ。どうしても新作じゃないとダメっていうのなら、「スターウォーズ特別編」みたいにデジタルリマスター&新作カットで、初期黄門をリニューアルさせましょう。オリジナルの方がイイに決まってるけど、東野英治郎と由美かおるの共演は見てみたいところ。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。