わが逃走[113]フィルムカメラ道・手抜きのすすめ の巻
── 齋藤 浩 ──

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ほんとは先週の続きでドイツについて書こうと思っていたのですが、秋晴れの良い天気が続いていたため、ここは是非みなさんが昔使っていたフィルムカメラを押し入れから引っ張り出してお散歩に出かけていただきたいと思いまして、予定変更と相成りました。

フィルムカメラ道・手抜きのすすめ

なにかとフィルムカメラの素晴らしさを語っているが、肝心なことを書いていませんでした。

私は楽しく撮影した後、きちんと現像して焼き付けして、なんてことはやってない。いわば、フィルムカメラの面白いところだけ楽しんでいるのです。つまり、邪道です。手抜きです。

そりゃフィルム現像の工程や、暗室での作業はとてもクリエイティブなものですが、でもそんな時間も場所も金もねえ。廃液の処理もメンドウだしね。

そこで、オイシイとこだけ楽しんで、残りの行程はデジタル、という方法をとっています。それでも、デジカメで撮った写真とはまったく違う結果が味わえるのです。

今回はラクして楽しくフィルムカメラを使い、デジタルで気軽に現像(画像処理)、管理する『手抜きフィルムカメラ道』をご紹介します。ご紹介ってほどでもないか。

たぶん、このようにフィルム写真を楽しんでいる人はものすごく多いと思うのですが、オレはこうやってるぜ、ってことを今のうちに語っておこうと思った次第。




さて、『手抜きフィルムカメラ道』の大ざっぱな流れを見てみると、1.撮影→2.フィルム現像→3.スキャン→4.画像処理 てな感じです。では、順を追って説明しよう。

おっとその前にフィルムカメラを持ってない! というあなた!! あなたはものすごくラッキーです。なぜなら2012年の今は、すごいカメラとすごいレンズが嘘みたいに安く買える時代なのです。

中古カメラ屋さんやネットオークションを探せば、1970年代後半のミドルクラス一眼レフのレンズセットが10,000円以下で手に入ってしまいます。

ちなみに、デジタルとの違いを楽しむのなら、オートフォーカス以前の一眼レフと単焦点レンズのセットがオススメ。デジカメ+ズームレンズに慣れた目から、ウロコが50枚くらい落ちることうけあいです。

また、よく聞かれるのですが、「フィルムってまだ売ってるの?」...って、売ってますよ!!!! 余裕で売ってます。以前より種類は少なくなりましたが、カメラ屋さんでもAmazonでもちゃーんと買えます!!!!


1●撮影

『手抜きフィルムカメラ道』全4工程の中でもいちばん楽しいのが撮影でしょう。って、そりゃそうだよね。好きなカメラを持って素敵な被写体と出会い、シャッターを切る。まさに至福のひとときと言えましょう。

さてデジカメとフィルムカメラとの最大の違いのひとつに、撮影した写真がその場で確認できるかってことが挙げられます。

デジカメが出始めた頃は、その場で確認できるから失敗も減る、なんてことで皆が大喜びしたもんです。しかし、これにより人は失敗する自由すら奪われてしまったともいえます。

その時は失敗したと思ったものでも、後から見てみると貴重な記録写真になり得たり、味わい深い思い出となったりすることってけっこうあるものです。

また、確認できないから想像する。フィルムカメラは想像する余地が人間側に残されている機械なのです。

たとえば、モノクロフィルムを詰めて撮影する際、今見ているカラーの世界からモノクロの世界を想像してシャッターを切ります。色彩と階調の世界を、脳内で階調だけの世界へ変換して撮影するのです。

いままで主役と脇役との間にあった、彩度の関係がなくなったらどう見えるかな? と想像してみると、意外とトーンが似てしまい、主役が引き立たなくなりそうだ、なんてことがわかったりします。

では、どうすればいいか? ちょっと移動して木陰で撮ったら陰影に差が生まれるかもしれないぞ! てなことに気づいたりします。

この自分で気づける幸せってやつはフィルムカメラの醍醐味です。仮に気づけなかったとしてもそれは確実に経験値UPに繋がるし、そもそも失敗したらどうしようじゃなくて、失敗もクリエイティブのひとつなのだ! くらいな図々しさを持った方が、人生が楽しくなると言えましょう。

以下極端な例です。これらの写真は今年の冬、初めてライカで尾道を撮影したときのもの。ハイテンションだったためか、巻き戻し中にうっかり裏蓋を開けてしまい、フィルムを感光させてしまったり、最初の巻き上げが不足していたまま撮りはじめてしまったものです。

でも、デジタルじゃこんな表現できねえよ。ざまーみろ。
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最近のデジカメは露出やピントだけでなく構図まで決めてくれるらしいが、フィルムカメラの良いところは、人間に自由があること。すべて自分の責任で撮影ができるってことだと思う。

こうして撮った写真は、明らかにデジカメと違う世界を写しているはずだ。そして、その世界はデータではなくネガとして実在してくれる。皆さんもたまにはカメラにフィルムを詰めて、散歩にでかけてください。お願いします。

2●フィルム現像

これを自分でやるとなるとタイヘンです。なので私はヨドバシに持ってきます。36枚撮りネガフィルム1本の現像代は500円ちょっと。同時プリントはしません。あくまでも現像のみ。

フィルムの種類にもよるけど、数時間から数日でUPするようです。この待ってる時間がイイ。ラブレターの返事を待つような感覚ともいえよう。

また町の写真屋さんにカラーフィルムの現像を依頼する場合、とくにカラーネガの粒子感が粗く出る傾向にあるような気がします。嘘か真か、像が出ないことを防ぐため、一般的なネガは若干高めの温度で現像するって聞いたことがあります。

ポジの場合はもともと粒子が細かいってのもあり、感度相応の印象に仕上がりますが現像に時間がかかる。

ちなみに、モノクロネガはカラーネガほど粗さは目立たないような気がしていたのですが、こうして比較してみるとたいして違いはないですね。印象の問題だったようです。

とはいえ、これは優劣の問題ではなく、味の問題とみた。プロラボに依頼すると、また違った結果になってくるかもしれません。

ISO100のカラーネガと、カラーポジと、モノクロネガを1350dpiでスキャンした例(部分)。空部分はディテールが少ない分、粒子感がわかりやすい。

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カラーネガ
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カラーポジ
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モノクロネガ

3●スキャン

現像UPしたら、スキャナで取り込む。ここでケチると残念な結果になる。5万円くらいのフィルムスキャナか、フィルムに対応したグレード高めのフラットベッドスキャナをおすすめします。一昔前の1/4程度の値段で手に入るんだから、一考の余地ありです。

最近は格安のフィルムスキャナもあるそうですが、くれぐれも貧乏人の銭失いにならないよう気をつけてください。

ちなみに、私はKONICA MINOLTAのディマージュスキャン5700というフィルムスキャナ(絶版品)を使っていますが、最近ではオーグのOpticFilmというフィルムスキャナが評判いいみたいですね。

スキャンする上で気をつけたいのは、極力素直に取り込む、ということです。私の場合、スキャナにある色調補正機能やキズ・ホコリなどの除去機能は使わない方が良い結果が得られました。

ここでは極力ニュートラルに取り込んで、後からまとめて調整します。ちなみに、モノクロネガをスキャンする際は、一旦カラーモードで取り込むとディテールが失われません。その後画像処理段階でモノクロにします。

またフォーマットはjpgではなく、TIFFなどの圧縮ナシ形式にしておいた方が現像時の自由度が上がります。

自分でスキャンせず、現像と同時にカメラ屋さんで画像データとしてCDに焼いてもらうのもアリだけど、店によってクオリティがかなり違うようです。色が転んでいたり、水平垂直があってなかったり、一律に補正がかけられて意図した表現と違っていたり。

とはいえ、自分のイメージにあった入力をしてくれる店が近くにあればベストと言えましょう。オレとしては、いろんなスキャナやスキャニングサービスを試して結果をまとめてみたいのだが、それは『手抜きフィルムカメラ道』の執筆依頼がどっかの出版社から来てからやることにする。

4●画像処理

さて、写真をデータ化しちゃえばこっちのものだ。Photoshop ElementsでもSILKYPIXでもデジカメ付属のオマケソフトでも、使い慣れた環境で自分好みに仕上げていけばいい。

スキャンされた時点で、写真はデジカメと同じ画像データになった訳だが、ピクセルだけでなく、不揃いの銀粒子で構成される世界には独特の深みがあるものだなあと驚かれることうけあいです。

好みの調子に仕上げたら、いつものデジカメで撮った写真と同じように管理して、iPodに入れて友達に見せびらかしたり、facebookにUPしたりしてください。インチキなデジタルフィルタで加工した写真に見慣れたほとんどの友達は、「こうして見ると、フィルムで撮った写真って、違うなあ!」と言うはずです。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。