グラフィック薄氷大魔王[358]大型作品集中制作夏合宿(ほとんどボヤキ)
── 吉井 宏 ──

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8月後半に実家でやってきた大型作品集中制作の写真を、Flickrにアップしました。簡単な説明がつけてありますので、よかったらどうぞ。

< http://www.flickr.com/photos/hiroshi_yoshii/sets/72157635363801732/
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で、制作過程を順を追って紹介するつもりは全然ないですけど、最中に起きたいろいろについてランダムに書いてみました。ほぼ全部楽しくない件ですがw



●ゴミ問題!

3Dデータ切削は3点発注。手で彫刻する4点は、92cm×91cm×42cmの発泡スチロールブロック2個からニクロム線カッターで切り出した。
< http://www.flickr.com/photos/hiroshi_yoshii/9664155230/in/set-72157635363801732
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切り出した結果、床の切りクズがどういうことになってるかというと、お〜〜〜い、どうすんだこれ?? って、途方に暮れるほどの量のゴミ! 結局、3時間もかかって細かく切り刻んで、45リットルゴミ袋8個に詰めたわ。
< http://www.flickr.com/photos/hiroshi_yoshii/9664156568/in/set-72157635363801732
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後日、発泡スチロールの切りクズその他を捨てにゴミ処理場に行ってきた。45リットル袋に12袋! 軽ライトバンにギッシリ。家庭ゴミか事業所ゴミかしつこく何度も聞かれたり。家庭ゴミっぽくないけど、事業所ゴミでは断じてないw

奥のゴミ放り込み口で、「機械に制限があるのでスチロールを30センチ以下に割ってくれ」と。ええ〜〜!! ここで?? 12袋をひっちゃぶいてぶちまけて、30センチ以上ありそうなやつをバキバキ割ったよ〜〜。いっしょに行った親父と作業員も含めて5人くらいでバキバキやってたw 大きいまま入れたのは3袋くらい。他は細かくしておいてよかったー。

なんかもう、発泡スチロールを自分で削るのやめようと思った。作る以外のところに時間と手間がかかりすぎ。データ切削してもらえば、サンドペーパーの削り粉くらいしか出ないわけで。

●FRPを室内でやるバカ

GWにも小型サイズでFRP作業やりましたけど、大型作品4個を同時進行ってのは作業規模もしんどさも二桁くらい違う。ひと抱えもある大きな立体にポリエステル樹脂でガラスマット含浸作業。

暑い中、気力を振り絞って作業を続けても、ちっとも終わらない。溶剤臭もすごいし、チクチクするガラス繊維がそこら中に散らばる。手は気をつけてたからマシだけど、スリッパと足の境目が集中被害。イテテテ、痒い〜〜!!

Twitterとかでも「室内でFRPやるなんてどうかしてる」、「信じられない」、「集塵・換気設備の整った作業場でやらないと」の意見が続々 orz

庭でやればいいんだけど、とにかく外は日差しがキツく、暑い。床にガラス繊維が散らばっちゃったから、もう最終段階で徹底的な掃除するまで散らかし放題だ! ってことで続けちゃったんだけど。気付いた時点で外に移動すればよかったな〜。

< http://www.flickr.com/photos/hiroshi_yoshii/9664157754/in/set-72157635363801732
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後半のFRP表面削り作業から庭でやりましたが、削りカスが室内に飛び散るストレスがないので気分はラクでした。今度から全部外でやろう。

●有毒!

FRPもポリエステルパテも、ビニール手袋なんか平気で透過するね。付着した樹脂が手袋を溶かして皮膚まで到達、その部分がピリピリピリって火傷みたいに痛くなる。ゴム手袋が残り少なくなってビニール手袋二枚重ねでやってたり。

手袋の外の手首から腕にかけて、気化した溶剤のせいか荒れて痒くなってくる。レジンキャストを使っていた以前も同様だった。腕をビニール袋でぐるぐる巻きにした。

その後、ホームセンターで厚手ビニールが二重になった「腕カバー」を買ってきた。作業中、床にぼたぼたと水がいっぱい落ちてるから何かと思ったら、腕カバーの中に汗がいっぱい溜まってる〜! このクソ暑いのに半分サウナスーツみたいなもんだから。

●煙発生! ヤバかった!

スチロール用樹脂を何度も紙コップに混合しては塗る作業中、アクシデント発生。主剤・添加剤・硬化剤の3液性樹脂なんだけど、「添加剤と硬化剤は直接混ぜると熱が発生して大変危険」は注意してたのに、疲れてて注意散漫。紙コップの主剤200gに添加剤を1gほど垂らして混合してない上から、硬化剤をドボドボと注いでしまった!

紙コップに硬化剤を注いだとたん、ジュワ〜〜ッと急速反応。ほんの2〜3秒の反応だったけど、煙がブワーっと天井まで広がった。火が出たらおしまいだと焦ったけど大丈夫だった。表面の1gが反応しただけだからマシだったけど、量が多かったらヤバかった。ものすごく怖かった。心臓がバクバクした。

ヤバかった。自分のバカさにあきれて落ち込む。もうイヤだ〜。なんでこんなキツいことやってんだ? なんでわざわざしんどい方へ行くんだ自分。立ちっぱなしで足は痛いし暑いし溶剤臭いし、もう全部ゴミ処理場に運んで立体制作完全終了してサッパリしたい!!

......一晩寝たら、恐怖も全部放り出したいのもずいぶん治まった。ギリギリのいっぱいいっぱいで、必死に作業してるからそういうことやっちゃう。楽しめる程度にゆったりやることにします〜。細心の注意を払った上で、入れ込みすぎず、ほどほどにやろうねってことで。ペース落とそう。一気に進めようとするからいろいろ無理が出るしキツくなる。

立ちっぱなしでキツいのは、立ってるのに近い姿勢で座れるワークチェアを買ってきてマシになった。

●難行苦行の連続

今回後半のパテ塗り。ううう、こういちいち全部が全部、難行苦行ってのはどうなってるんだ?? なんかきっかけをもらったら、全部ゴミ処理場に放り込んで全部無しにして帰りたい衝動がぐらぐらと煮えたぎってるw

まあ冷静に考えて、この地獄のようなキツさの7割くらいが暑さのせいってのはあるんだけどね。もう早めに切り上げて退却するタイミングとしては遅すぎるから予定通りあと数日がんばるけど、10月後半くらいから寒くなるまでくらいをメインにすべきだった。

おおよそ表面を整えた状態までやって帰りたいのだが、あと数日では無理。夜は多少涼しいから楽だけど、虫が来て塗りたて樹脂の表面にぺたぺた貼り付いて困る。夏の暑いときの利点は一つあって、樹脂の硬化がどんどん進むので次々作業できること。でも、そのせいで休憩なしになりがちなのはマイナス。

●なんでこんなことやってんだ?

そりゃ大型作品作りたいのは前から思ってて、少しテストで作ったりしてたけど。展覧会とかのタイミングもあって、今作らないとずっと作れないとか思っちゃって。

しかし、よくわからない衝動に突き動かされる感じ、ってアレに似てるなあと思った。「未知との遭遇」でリチャード・ドレイファスが自分でもわけわからないまま、部屋中ぐちゃぐちゃにして変な山のでかい模型を作っちゃうやつw

だいたい、「手で作りたい」の正体はデジタル作業の反動ってのわかってんだよ。他のオモチャに見向きもせず、粘土やブロックで遊んでた僕の原点みたいなもんだし、手で触れる立体の制作って作ってる実感があって面白いしね。

6〜7年くらい前から、小さなフィギュアをちょこちょこ作ってたけど、小さいものは工作や塗装が大変ってわかってだんだん大きくなり、20cm超サイズが普通になり、そうなると大型FRPに行き着くのは成り行き上当然。

FRPの大きな立体って迫力あって見栄えするからぜったい面白い。でも個人の作品としてやってる人が少ないってのは、作るのハードすぎるし、制作環境の問題も大きいからだよねえ。

ただ、場所と時間としんどさの問題ってのは、お金で解決できちゃうんだよ。つまり、全部外注すりゃいい。大きな立体作品の展示の機会ってそれほどあるわけじゃないし、今回は特別としても、10年単位で一年にせいぜい2〜3個としたら外注できなくもないわけで。そしたら、外注費がぜんぜん苦にならないくらい本来の仕事をがんばろうってことだわ。

そのための、「自分でもちゃんと作れるんだけどさ」の証明として、今の制作はいちおう意味がある。ってことで納得しておこう。そういうことにしておけば、「立体を手で作りたい誘惑」に惑わされず、「形を作る」ほうに集中できるかもね。

おー、我ながら、葛藤にうまいこと折り合いつけられたかも。

......とか言いつつ、一週間もすぎると、キツかったことをすっかり忘れて早く作業に戻りたいとか思ってる自分に唖然。やっぱアホだわ。

【吉井 宏/イラストレーター】
HP < http://www.yoshii.com
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Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
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2020年東京オリンピック決定!! なんかやりたい! 五輪マスコットとかw(そういえば、先週の後記で柴田さんが「狩野英孝に似てるw」とか書いてて、「w」はもう公式に使っていいんだ! とうれしくなりましたw)っていうか、オリンピック開催が僕的に何かのテコになる可能性があるとすれば、他の都市には来なかったチャンスが来るとすれば、そりゃもう全力でヤル。今の仕事も。バルセロナ五輪の坂本龍一はかっこよかったなあ! 一回くらいああいう舞台に出たいな!