わが逃走[155]「北区有名建築巡り」の途中で見つけた無名物件 の巻
── 齋藤 浩 ──

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T氏が代表をつとめ、建築家I氏ととともに東京の名建築を巡る「みんなの大東京建築ツアー」に参加しました。

都内某所に集合し、点在する建築を徒歩+地下鉄+バスでつないでゆきます。現地では各建築の裏話や建築家に関するウンチクなども聞け、非常に充実。密度の濃い時間を過ごしました。

今回のフィールドは東京都北区。けっこう歩いたけど今までほとんど馴染みのなかった土地だけに、見知らぬ地方都市を観光しているかのような新鮮な印象でした。東京って広い。

スタートは田端駅。ここから

1・アタカケンタロウ氏設計の『ハスハウス』
2・鈴木恂氏の『東京家政大学教育会館』
3・alp(平田晃久)
4・巣鴨信用金庫志村支店(エマニュエル・ムホー)
5・Tokyo Apartment(藤本壮介)

と巡りました。いわば建築に的を絞った社会科見学、大人の遠足です。

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さて今回はこのツアーのレポート、とも思ったのですが、ネット上にはこれら名建築に関する情報があふれています。なので建築と建築の間に点在していた、どーでもいい物件をまとめてみることにしました。決してサボりたかった訳ではありません。

田端駅付近の階段遺跡
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北口に降りてすぐ気になったのがコレ。どっかで見たことあると思ったら、松本泰生著『東京の階段』にも紹介されていた物件だった。

古い急傾斜な階段の上へ被い被さるように、既成建材によるなだらかな階段が設置されている。これはある種のトマソンなのだろうか。なにはともあれ、東京という町の地層を垣間見るようで面白い。

石垣に現れる不思議な段差
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田端駅付近。ごく普通の石の壁が突然途絶え、曲面とシャープなエッジで構成される左官仕事となる、その境界線。写真右側に石垣が続く。

壁面の痕跡
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蔓性植物の這った跡だろうか。ここに葉が茂り、それらにはそれぞれ葉脈が見られたはずだが、こうして見るとその名残自体が一枚の大きな葉に見えてくる。ハスハウス付近。

穴のある物体
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ブロック塀に半ば埋め込まれるように設置されている二段重ねの直方体。上段天面には円形の穴があり、下段正面には正方形の穴があった。二つが繋がっているか確認しておくべきだった。そんなことして何になるの? 何にもなりません。

公園へと繋がる廃階段
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なにも柵でとおせんぼすることもないのにねえ。とも思うが、公共空間から私有地へ直結しているといろいろと問題があるのかも。東京家政大学付近。

十条駅付近の不思議空間
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広い通りから脇道に入ると、突然昭和空間が現れた。すぐにバスが来たので名残惜しくもその場を離れたが、是非とも再訪してみたい。ポンプが設置されている台座の形状にもモダンな文化を感じる。

alp脇の車止め
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通りに対して直角とか平行ならまだわかるのだが、それぞれが微妙な角度で設置されている。なので、そこに意図があるようなひっかかりを感じてシャッターを切ったが、その意図が何だったのかはわからないまま。

角の削られた謎の石2段重ね。
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四角い鏡餅か。

突起物
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C面を鑑賞。Tokyo Apartment付近。C面とは、面と面の間のエッジ部分に切られた狭い面のことです。

といった具合に昼過ぎから日没まで、かなりな距離を歩きました。

カメラを持ってひとりで町をうろうろすると、不審者扱いされたりすることもあるのですが、今回のように仲間とともに歩くとその点は安心といえます。堂々とデカイカメラをぶら下げて歩きました。

そして目的の建築にたどり着くまでに偶然見つけたイイ建築も多数。主催者の方々も参加者のみなさんも実に穏やかで、「新日本紀行」と「タモリ倶楽部」を足して2で割ったような心地よい時間を過ごせたのでした。また参加します。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられ
ないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィ
ックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。