crossroads[11]「シャープ」をネタにしないで
── 若林健一 ──

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こんにちは、若林です。この間の週末、近畿地方は桜が満開のところが多く、私も大阪城公園まで出かけてきました。

桜はきれいでよかったのですが、最近増加している外国人観光客が大阪城にも押しかけていて、歩いている人のほとんどはアジア系外国人。

彼らはところ構わず写真を撮り始めるので、桜を楽しむ風情でなくなってしまったのがやや残念でした。




●シャープの買収正式決定

4月2日、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープ株式会社に出資する契約の調印が正式に交わされましたね。元社員としては、「ようやく」という思いと「とうとう」という思いの両方を持って、このニュースを受け止めています。

思えば、私が退職した時期にも鴻海の出資話はありました。私は企業買収とか買収された企業がどうなるというのは、過去の例をなぞるぐらいにしかわかっていませんし、買収されることがいいことだとも思ってはいませんでしたが、それでも「これが決まればいいな」と思っていました。

というのも、まずは会社の方針が「決まる」ということがとても大切だと思っているからです。

「決められないシャープ」と「焦らす鴻海」の交渉は一度破談となり、シャープの経営状況悪化ととともに復活。復活後も「決まった」「正式な発表ではない」の応酬の後に、シャープが受け入れを発表。その後も減額だなんだとすったもんだを繰り替えした末の正式調印。

このやり取りには、交渉に当たった経営陣やスタッフ部門だけでなく、社員のみなさんも疲弊したと思います。

世間でどのように受け止められているかはわかりませんが、社員は本当に情報を与えられていません。

これはインサイダー取り引きにならないようにということへの配慮なのですが、社員は自分の会社のことであるにもかかわらず、場合によっては外部の人よりも会社のことを伝えれらることが遅い場合もあるのです。

こういう状況はマスコミも知っていると思うのですが、それでも本社前に陣取って出てきた社員にインタビューする様子を見ていると、お決まりの絵を撮りたいだけの、単なるネタ扱いしていることに腹立たしく思います。

書籍の販売ランキングを見ても、シャープや東芝の現状をテーマにしたタイトルが並んでいるのも私は嫌いですし、あの手の本は買わないことにしています。

内容はおおよそ分かっているし、企業の窮状をネタに儲けているように思えてならないからです。

話が逸れましたが、このように世間からネタにされてしまって肩身の狭い思いをしている現役社員のみなさんにとって、まずは「決まった」ことについてよかったねと言いたい。

もちろんスタートはこれからです。僕の持っているシャープのイメージは「経営幹部と現場のコミュニケーションが不十分な会社」だったのですが、トップが海外の剛腕経営者になることによって、それが更に拡大するのではないかなというのが一番の心配どころです。

今までの経営者はダメなりに会社全体のことを考えてはいましたが、新しい経営者はダメとわかればどのような経営上の決定を下すかはわかりません。

いよいよ路頭に迷う日がやってくるかもしれない、買収されたからといって楽観できない状況であろうことに変わりはありません。

●本当に「目の付け所はシャープ」ですか?

「新しい商品、目の付け所がシャープだね、これで復活するね」という内容の投稿をSNSで見かけることもあります。

ひねくれているかもしれませんが、これらについても「本当にそう思ってる?」ということが多い。単に「目の付け所がシャープ」を言いたいだけなんじゃないかと。

これは私たちの国の中で起こっているできごとであり、シャープの社員でないから関係ない、ネタとして楽しんでいて良い類の話題ではないではありません。

芸能人のゴシップを楽しむように、自国の産業の衰退をネタにする今の風潮は、百害あって一利もない。そんなことを繰り返していたら、いずれはあなたの会社がネタとして扱われる日が来るかもしれませんよ。


【若林健一 / kwaka1208】
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次回は、4月9日(土)です。