crossroads[95]私とプログラミング(出会い)
── 若林健一 ──

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こんにちは、若林です。

今回は、私がプログラミングの世界に入るまでについての話の続きです。

前回の記事「私とプログラミング(前夜)」はこちら。
https://bn.dgcr.com/archives/20201006110100.html






■8bitパソコンとBASIC全盛の時代

週末のたびに日本橋へ出かけ、アマチュア無線や電子工作の本を読みあさっていた私は、8bitパソコンに出会います。

当時はまだパソコンという呼び方は一般的ではなく、今でいうCPUにあたる部分がマイクロコンピュータであったことと、私の(My)コンピュータの両方の意味から、どちらかというとマイコンと呼ばれていましたね。

パーソナルコンピュータだからパーコン、といった呼び方が使われていたこともありましたが、あまり広まらなかったです。

当時はワンボードマイコンと呼ばれるむきだし基板に、7セグメントのディスプレイがついたものから、筐体にはいった8bitマイコンが主流になっていた時代で、代表的な機種としてはNECのPC-8001、富士通のFM-8、シャープのMZ-80シリーズがありました。

それぞれの支持者による派閥のようなものがあったのですが、私はシャープのMZシリーズ派でした。

当時のマイコンには、プログラミング言語としてBASICが標準搭載されているものが多く、BASICがOSの役割も果たしていました。BASICの命令をキーボードから入力することで、プログラムの読み込みや保存、実行が行えるようになっていたのです。

MZ以外の機種ではこのBASICがROM(※1)に書き込まれていて、電源を入れるとすぐに使える状態になりました。

※1:ROMとはRead OnlyMemoryの頭文字で、書き換えのできないメモリです。ネットスラングで、SNSや掲示板などを読むだけの人をROMというのもここから来ています)

一方のMZシリーズは「クリーン設計」という設計ポリシーでBASICのROMを搭載せず、起動時にカセットテープ(当時の主な外部記憶装置はカセットテープだったのです)からRAM(※2)に読み込んで動作させるという方式のものでした。

※2:RAMとはRandom Access Memoryの頭文字で、書き換え可能なメモリのことを指しています。今でも一般的「メモリ」といえばRAMのことを指します。

読み込みに時間がかかるので、起動が遅いというデメリットはありましたが、ROMでメモリ空間(※3)を占有されないので、BASIC以外の言語やプログラムを動かす時は、メモリ空間をフルに使えるというメリットがありました。

※3:コンピュータは、アクセスできるメモリの範囲に上限があります。現在のPCやスマートフォンは、、その上限が事実上無制限に近いぐらい大きいのでみなさんが意識することはありませんが、当時のマイクロコンピュータの性能では、アクセス可能なメモリの範囲も少なかったのです。

MZの場合は、64kBytesしかなかったのです。スマートフォンの通信量でよく使われるG(ギガ)が10億バイトに対して、64kBytes(64,000バイト)しかなかったと言えばイメージできるでしょうか。

例えば、iPhone用のTwitterアプリの容量が約110MBytes(約1億1千万バイト)なので、64kBytesがどれぐらい小さいかがイメージできるでしょうか。

この小さなメモリを最大限活用できる設計に、とても感動したのです。今のパソコンも起動時にOSを読み込んで動作するという意味では、MZシリーズと同じなので、時代を先取りした設計だったと言えます。

■憧れのMZ-80B

MZシリーズにも多くの機種がありましたが、私が欲しかったのはMZ-80Bという当時の最新機種でした。

MZ-80B以前の機種はキーボードがグリッド上に配置されていて、キートップも透明のキャップがついたものでしたが、MZ-80Bになって今のパソコンとほぼ同じQWERTY方式に変わり、キートップもかっこいいものになっていました。

ちなみに、この透明キャップのキーが当時はレジスタみたいだと言われていました。といっても、これも今の人にはわからないですよね。今のレジはバーコードスキャナとタッチパネルですから……。

しかし、価格が278,000円(この頃は消費税はありません)。中学生にはとうてい手の出ない代物でした。ちなみに、外付けのフロッピーディスクドライブが、本体よりも高かったのを覚えています。マイコン本体よりも外部記憶装置の方が高い、そんな時代だったのです。

■MZ-2000の登場とおもいがけないチャンス

マイコンは欲しいけれど、30万円近くのものをねだれるほど裕福ではなかったので(むしろ貧乏でした)、マイコンを買ってもらった友人宅へ押しかけて使わせてもらっていました。

時は流れ、MZシリーズの新機種MZ-2000が発売になります。MZ-2000はMZ-80Bの後継機種で、性能的にはほぼ同等(部分的に性能向上)、価格は218,000円まで下がってきました。それでもまだ高い。

そんな時、祖母から「百科事典を買ってやろう」という話が持ち上がりました。こう見えても(?)当時成績がそこそこよかったこともあって、祖母にとっては自慢の孫(!)だった私への、もっと勉強できるようにという祖母からの提案でした。

これも今の若い人にはわからないと思いますが、昭和の時代には百科事典と呼ばれる図鑑の大きなやつが家にあることが多く、専用の書棚に収まっていて一種のインテリアでもあったのです。

百科事典はいくらぐらいするのか? と聞いてみたところ20万円ほどするという話(これも今の時代からは考えられないですね)。これはチャンスだと思い、同じ20万円出すならマイコンの方が勉強になるからマイコンを買って欲しいと持ちかけました。

もちろん祖母はマイコンのことは一切知りませんでしたから、マイコンがどんなものでどんな風に勉強に使えるのかを説明(プレゼン)しました。

祖母はマイコンのことはまったく理解していませんでしたが、元々新しいもの好きなところがあったこと、お前がそういうのならということで百科事典からマイコンに変更することになり、念願のマイ(私の)コンピュータが手に入ることになりました。

ようやく、パソコンを手に入れるところまで来ましたが、今日はここまでで一旦終わります。

こうやって書き出していくと、今と違うことが多く、いちいち説明が必要なことに気付きます。今のパソコンやスマートフォンとは大きく異なることはもちろん、それ以外にも大きく時代が変わっていることを感じますね。

この記事を書いていると当時の感覚がよみがえってきます。
次回はいよいよBASICでのプログラミングの世界に入っていきます!


【若林健一 / kwaka1208】
https://crssrds.jp/aboutus/


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