crossroads[96]私とプログラミング(入門)
── 若林健一 ──

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こんにちは、若林です。

今回は、私がプログラミングの世界に入るまでについての話の続きです。
前回までの記事はこちら。

私とプログラミング(前夜)
https://bn.dgcr.com/archives/20201006110100.html


私とプログラミング(出会い)
https://bn.dgcr.com/archives/20201020110100.html






■キーボード一体型Raspberry Pi 400発売

本題に入る前に、新しいRaspberry Piの話題を。Raspberry Piといえば、基板が剥き出しの教育用PCですが、新しく発売される『Raspberry Pi400』はキーボードの筐体(きょうたい)の中に入っていて、キーボードにマウスやディスプレイを接続して使うという、ちょっと変わった形のPCです。

Raspberry Pi 400発表のご案内
https://raspberry-pi.ksyic.com/news/page/nwp.id/99


これが若い人の間では、「斬新」「この発想はなかった」と盛り上がっているそうですが、80年代の8bitマイコンはNECのPC-8001やコモドール64に代表されるように、キーボード一体型が一般的でした。

8bitマイコンの時代から40年経って、またこんな形のPCが出てきたというのは、8bitマイコンでプログラミングの入門をくぐった身として、感慨深いものがあります。

■取扱説明書が入門書

ようやく手に入れた念願のマイコン、当時の8bitマイコンにはOSというものがなく、もちろんマウスもなかったので、動かすためにはBASICの命令をキーボードから入力する必要がありました。

動かすための唯一の方法がBASIC言語なので、当時のマイコンには必ずBASIC言語のマニュアルがついていました。それも単なるコマンド一覧とか、リファレンスではなく、プログラミングを学ぶための読み物になってるのです。

このマニュアルは復刻版として、シャープが運営する電子書籍ストア『COCORO
BOOKS』で無料ダウンロードできます。よかったら読んでみてください、読み物としても面白いと思います。

復刻MZシリーズ冊子
https://galapagosstore.com/web/book/category/%E6%9B%B8%E7%B1%8D/series/45781


COCORO BOOKSでは昔の家電製品やコンピュータの商品カタログを、復刻版として無料ダウンロードで提供しています、私と同年代以上の方には懐かしいものばかりですので、よろしければこちらも。

電子書籍で復刻!レトロ家電カタログ
https://galapagosstore.com/web/catalog/top


プログラミングの入門書がコンピュータについているなんて、今では考えられないですね。昔のMac(Macintoshと呼ばれていたころ)には、マウスの操作方法やコンピュータを使う時の正しい姿勢などが、マニュアルに書かれていたのも、今の若い人に信じられないと思います。

■マイコンBASICマガジンでステップアップ

もうひとつのプログラミング入門書は、『マイコンBASICマガジン』です。私と同年代のマイコン少年なら、誰もが知っている本です。

最初は『ラジオの製作』という電子工作の本の別冊付録だったものが、マイコンブームに乗って独立したもので、読者が投稿したBASICプログラムが主なコンテンツでした。

そのほとんどがゲームで、マイコンが欲しかった理由のひとつ(そして最大の)が「ゲームをやりたい」だったので、投稿された本をせっせと入力していました。

最初の頃は意味もわからず、ただ本を見ながら入力していただけなので(業界では写経と呼ばれるやつです)動かなかった時の原因を調べるのが大変。とにかく本と見比べていくしかありませんでした(そしてたまに、掲載されているプログラムが間違っている)。

しかし、それを繰り返していくとコツがつかめるようになってきます。自分の中でデザインパターン(定番のプログラムの手順)ができてきて、自分でプログラムが作れるようになり、他機種向けのプログラムを移植できるようにもなりました。

今のプログラミング言語と違って、当時のBASICは機種によって微妙に違っていたのです。

たとえば、カーソルの場所を指定する命令が、MZだと "CURSOR" だったのが、他機種のBASICでは "LOCATE" だったりと、記述方法が微妙に違っていたのです。とくにシャープのBASICは、他のメーカーと違うところが多かったと記憶しています。

機能面でも多くの違いがありました。他機種のBASICにはあるけれど、MZのBASICにはない命令があり、そういった命令を使ったプログラムを移植する場合は、自分で同じ機能を実現しなければならなかったのです。

マイコンBASICマガジンに掲載されている投稿プログラムも、MZ向け以外のものの方が多かったので、頑張って他機種向けのプログラムを移植しましたが、命令の違いに苦しみながらやり続けたものです。

BASICの仕様の違いに苦しめられていたころ、ソフトウェアメーカーからMZで使えるBASIC言語が発売されることに。

MZは起動時にBASICをテープ(音楽用のカセットテープです)から読み込む仕様だったため、サードパーティ製のBASICが使えたのです。

このBASICは機能的に他機種のBASICと近く、使いやすかったので迷わず購入。それから純正のBASICを使うことはほぼありませんでした。

多機能な分、メモリ容量の消費が多くユーザーエリア(自分のプログラムを入れるメモリ容量)が小さくなりましたが、これもコンピュータの内部を知るには良い経験だったと思います。

この時はまだ、自分が仕事としてソフトウェアに関わるとは夢にも思っていませんでしたが、思えばこの時に自分のソフトウェアエンジニアとしての基礎ができていたのでしょう。

マイコンを手に入れてからは、せっせとキーボードに向かう毎日でしたね。お金のない子どもには手取り早いプログラムの入手方法でしたが、それ以外にもプログラムを手に入れる方法はありました。

次回は、当時あったソフトウェアに関する商売や、ソフトウェアのコピーについてお話したいと思います。


【若林健一 / kwaka1208】
https://crssrds.jp/aboutus/


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