某大学の教授になった吉田くんが、高校時代に言ってたことを思い出した。
「おまえのダメなところは3つある! には説得力がある」という。
2つでは少なすぎるし、4つでは多すぎる。そこへいくと3つという数のバランスには人の心を動かす力があるようだ。
ほほう、なるほど。
で、なぜこんな話を思い出したかというと、私のゼミ出身のデザイナーの◯◯君(仮名)にめでたいことがあり、このたび私はめでたい場に招かれ、そこでめでたいスピーチをすることになったのだ。
めでたいスピーチといえば人生において大切な3つの“玉”とか“袋”とかを思い出す。
まさかこんな話を本当にする人なんていないと思っていたが、過去に私が出席しためでたい席において、複数回登場し驚いた。
玉はあたま、めだま、肝っ玉。袋は胃袋、給料袋、堪忍袋だったか。
「3つのルーレット」なるものを制作し、おなじみの袋、玉などをはじめ、テキトーな名詞を書き込んでそれを回転させ、ルーレットが指したモノを題材に、面白くてためになる話を即興で披露するというのはどうだろう。
なかなか緊張感があっていいと思う。
しかし、出席者の誰かが3つの袋の話をしようとしていた場合、気まずいでは済まされないものがある。
とはいえ、3つの玉や袋以外で何か新しい話をつくることができたら楽しいと思うので、試みることにした。
さて、なぜ玉と袋なのか。
これはもう、キンタマブクロに由来すると考えて問題なかろう。
種族繁栄をテーマとしながら、ちょっとはずかしいモチーフという立ち位置か。
起、承、結と話は進行し、たとえば玉の場合、結で「キンタマ」を想像させつつ「肝っ玉」で着地させる。
めでたい席において、そのような言葉が主賓の口から発せられるはずなどないにもかかわらず、聞いている方はつい期待してしまい、めでたく裏切られるという構造だ。
まずはこの構造をベースにモチーフの選定をしたいと思う。
【1】
玉、袋と来れば、竿であろう。人生において大切な3つの竿。
ひとつめの竿は、「みさお」であります。何事にも節度を持って生きよ。おお、いい感じのスタートじゃないか。真っ当な話の気配があり、導入部としては好ましい。
ふたつめの竿は、「やさお」であります。つまり「優男」。男にとって最も大切なのは優しさである。
これはちょっと微妙だ。そもそも、やさ男には優柔不断等のイメージも伴うので、再考すべきかもしれない。
みっつめの竿は、「ささきいさお」であります。つまり、2人で『宇宙戦艦ヤマト』を熱唱するくらい仲の良い夫婦たれ。
ものすごく相手を選ぶ結論となってしまった。一瞬会場にざわめきがおこり、すぐに訪れる静寂を容易に想像できる。
これはダメだろう。明らかにダメだ。
【2】
思い切って最初から下品な言葉を使うというのはどうか。
人生において大切な3つのヤリチン。
ひとつめのヤリチンは、「おもいやり珍道中」。
夫婦生活とは何か、と問われたら私はすぐ、この言葉を挙げるでしょう。相手を思いやりながら、長い道のりを歩んでゆく。
旅の途中には辛く厳しいこともあるでしょう。しかしそんなことも良い思い出ととらえ、行程そのものを楽しむ気持ち。これこそが夫婦円満の秘訣なのであります。
「ヤリチン」という下品きわまりない俗語と、それに続く真っ当な話。このギャップに聴衆は引きつけられてゆく。
しかし、ふたつめ以降がまったく思いつかない。「えさやりチンアナゴ」、「なげやりチンタオビール」など言葉自体は思い浮かぶものの、それを“いい話”に着地させるアイデアがまったく出てこないのだ。
【3】
玉だの袋だの竿だのは、下世話な中学生レベルのモチーフと言える。
同様のテーマから、中学生男子が好きな3大“んこ”、つまり「ウンコ」「チンコ」「……」といったものを題材として選んではどうだろうか。
人生において大切な3つのンコ。
ひとつめのンコは「ウンコ」であります。うん、国際感覚。
ふたつめのンコは「チンコ」であります。βカロチン、コレステロールを下げる。つまり健康に留意して…。
いずれも無理がある。しかし、要調整ということでこのままボツにはしないでおく。
みっつめのンコは…「アンコ」であります。
これは肝っ玉の構造と同じだ。違う言葉を想像させつつ安心させる。
アンコ、即ちアンコントローラブル。操縦不能という意味です。
よくしっかりと手綱をとって、などと言いますが、そもそも最初からそんなことはできやしないのです。
操縦しようなどと思ってはいけません。夫婦とはたまたま目的地が同じ2機の飛行機であり、ひとつの飛行機を2人で操縦しているわけではないのです。個を尊重しつつ共に歩む。これこそが夫婦円満の秘訣なのであります。
などと考えてみたものの、いずれもめでたいスピーチにはまったく向かないと判断しました。おっさんくさいし、たぶんに自己満足的です。
ご心配おかけしました。
私もいいかげんイイ年齢なので、場をわきまえた立ち居振る舞いを心がけようと思います。
そういえば以前の職場でエライ人が「人生における3つのA」という話をしたことがあります。
1. あせるな
2. あきらめるな
3. 遊び心を大切に
だそうですが、それって3つの「あ」だよなあ。って思いました。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。