わが逃走[184]四半世紀後の最新型の巻
── 齋藤 浩 ──

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平成5年式のユーノスロードスターに乗り続けている。

とにかくよく走るし、故障もしない。ラジエータの水が漏れてしまいJAFを呼んだことはあるが、それも25年間で一度だけだ。

運転が楽しいから疲れないし、それゆえ眠くならない。なので安全。小回りがきくので細い道もコワくない。

よく二人しか乗れないとか狭いとか物が乗らないとか言われるが、まあそのとおりであるが、大荷物や定員以上の人員を運ばねばならなくなったら、レンタカーを借りればいいので全く問題ない。

そもそも私の生活において二人以上乗せなければならないことも、トランクルームに入らないほどの大荷物を運ばなければならないことも、ほぼないと言っていい。

そういったこともあり、これ以上のものを望まなかった私の車に関する知識には、90年代以降の情報がほとんど含まれていなかったのであった。

そんなある日、21世紀の、2016年の自動車『アクセラ』がやってきた。

ことの経緯を話すと、ほとんど誰も停めていない公園の広い駐車場にぽつんと駐車していたところ、乗用車がすーっとバックしてきて接触。

運転席側のドアをまるごと交換することになり、修理ができるまで代車としてマツダの『アクセラ』を借りたのである。

ちなみに誰も怪我せず、物損だけで済んだのは不幸中の幸いというやつです。




その日の朝、保険会社から依頼を受けたレンタカーの店から連絡があり、メタリックグレーのアクセラセダン、ガソリンエンジン1500ccのナントカいうモデルがやってきた。

係の人が上手に車庫入れしてくれたので気にならなかったが、改めて眺めてみると、いつもなら前後左右上下に余裕のあるガレージがみっちりと車で満たされている。

体積比にしてユーノスの3倍くらいあるかもしれない。

近づくと電子音が鳴り、勝手にドアロックが解除された。ちなみに離れると施錠される。なんだこりゃ。キモチワルイ!!

キーについているボタンを押すと、リモコンでロックできる時代までは許せるが、これはやりすぎである。過保護である。

ちなみにドアの手をかけるところにもボタンがあって、そこでも施錠、解錠ができる。

そうなるとボタンを押したから開いたのか、近づいたから閉まったのか、はたまたその逆なのか、感覚的にも視覚的にもわからない。これはいただけない。

それとも私が古いタイプの人間だからなのか??

少なくとも私に関しては、ロックされていると思い込んで、施錠を忘れる可能性が大きいように思えた。事実、高速のサービスエリアでそれをやっちまいました。

シートに座り、リモート操作でドアミラーをあわせる。

ちなみにユーノスは手動だ。手動というのは、手でミラーを前後左右に動かして視野を調整することをいう。

めんどくさい! と思うかもしれないが、フェンダーミラーよりはるかにめんどくさくない。

さて、噂によると次世代の車からはミラーがなくなるらしい。なんでも車載カメラが撮影した視野を液晶モニタに投影するのだそうだ。

なんだかな〜。カメラが壊れたらどうするんだろ? カメラが捉えてからモニタに映し出すまでのタイムラグも心配だ。

そもそもモニタとミラーは似て非なる物である。

たとえば、鏡の向こう側には世界を感じるけど、テレビでしゃべっているアナウンサーの肩をつかめるような錯覚には陥らない。

鏡を見ながら自画像は描けるけど、モニタに映し出された人物を描こうという気にならないし、そもそも描けないと思う。

脳における処理の仕方はそれくらい違いがあると思うのだ。モニタはあくまで補助的に使うものなんじゃないかなあ。そう思う私はやはり古いタイプの人間なのだろうか。

エンジンをかけてみる。

ユーノスとは違い、21世紀の自動車はキーを回さずスタートボタンを押すのだ。とはいえ、とくに違和感はない。

むしろその直後、これから走るぜ! ってときに「カードが挿入されていません」と言われるのがすごく嫌だ。大きなお世話である。

ETCは確かに便利だけど、どっかの天下り団体の財源のためにオレの稼いだ金を使いたくない。音声を消すことはできないのだろうか。

そろそろとスタートする。室内空間が広すぎてものすごく違和感がある。視点がいつもより高いせいかおちつかない。しかし、こういったことはすぐに慣れるだろう。

踏切で一時停止。すると、エンジンが止まった!

知ってますよ。これアイドリングストップってやつでしょ。とはいえ、いきなり止まるとびっくりする。

ブレーキを踏む力をほんの少し緩めただけで再始動した。旧世代の人類だからか違和感あるけど、これで燃費もよくなってエコロジーに貢献するのであれば歓迎すべきだと思う。

さらにはマニュアル車もアイドリングストップに対応しているそうで、それって知らんかったー。急坂の交差点で右折のときってどうなんだろ。

エアコンをつけてみる。涼しい!!! あたりだが。

しかも、これは運転席側と助手席側の温度設定が自由に変更できるタイプだ。すげえ。さすが21世紀だ。

ここで私は、故障してないエアコンの素晴らしさを実感した。実にスマート。スイッチを入れるだけで涼しくなるなんて! 当たり前だけど!!

私の愛車はエアコンが故障して五年になる。ではこの猛暑をどう乗り切るか。その答えは、「暑い日は乗らない」。

どうしても乗らなくてはならないときはアイスノンを首に巻き、保冷剤を大量に入れた箱をセンターコンソールに置くのだ。確かに、スマートとはいえない。

夜も乗ってみた。勝手にライトが点灯した。なんて過保護な!!

暗くなってきたからライトをつけよう、そう思う気持ちこそ交通安全の基本だと思うのだが、それを機械がやってくれるとなると、ドライバーの安全確認の怠りを助長しないか心配。

ライトのスイッチを見ると、ON、OFF、AUTOとある。

そういえば最近無灯火の車をよく見かける。深夜の世田谷通りで1台、関越道で2台。これはおそらくライトのスイッチを『AUTO』にしてあると思い込んで『OFF』になったまま走行していたと言えましょう。

都心の道は明るいので気づきにくいのかもしれない。とても危険です。いっそこと『OFF』のスイッチを廃止したらどうだろう。『ON』と『AUTO』だけなら、少なくとも無灯火走行の危険性は減るはずだ。

雨が降って来た。勝手にワイパーが動いた。霊の仕業か! と思ったらセンサーが雨を感知して勝手にワイパーを動かすのだそうな。

もういい加減にしてくれ。ついていけねえ。

オートマチック車はただでさえやることが少ないのに、ドライバーからこれ以上仕事を奪って何が楽しいのか?

というわけで、いつもと違う車を運転するのは楽しいが、それも一日で飽きた。数週間後、ユーノスが退院してきた。

小さいけど、痒いところに手がとどく感じが気持ちいい。車の四隅が手足の延長になる感覚。やはり車はこうでなくてはいけない。

今回21世紀の自動車に乗ってみていろいろと便利な機能を経験した。書き記したことの他にも、USBとかDVDとかBluetoothとかいろいろついていたが、最も魅力を感じたものは、壊れてないエアコンと備え付けのカップホルダー。このふたつだ。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。